2023.0220

直近3年間の収容定員充足率8割未満の大学等は修学支援制度の対象外に

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3行でわかるこの記事のポイント

●充足率の指標を独立させ、機関要件を厳格化
●直近の充足率5割以上、進学・就職率9割以上なら確認取り消しを猶予
●中間所得層で理学・工学・農学分野の学生に支援対象を拡大

文部科学省による高等教育の修学支援制度において、2024年度から「直近3年間の収容定員充足率が8割未満」の大学・短大、高専は原則として支援対象ではなくなる。同時に中間所得層への対象拡大も実施され、一定の所得基準に該当し、理学・工学・農学のいずれかを学ぶ学生は新たな支援対象になる。現時点でわかっている変更点について解説する。
*文科省の資料はこちら


●大学・短大の約98%が対象になっている

  高等教育の修学支援制度は2020年度に始まった。住民税非課税世帯、およびそれに準ずる世帯の学生を対象に、授業料等の減免と給付型奨学金の支給で支援する。世帯年収によって3段階の区分が設定され、私立大学に自宅以外から通う学生の場合、最大で年間約70万円の授業料減免と約91万円の奨学金支給が受けられる。
 支援対象となる学校は大学・短学、高専、専門学校で、自ら申請し、財務状況を含む機関要件を満たしていることの確認を受ける必要がある。毎年の確認による新規追加や取り消しがあるが、この3年間、大学・短大は全体の約98%が対象になっている。
 今回の見直しは、「機関要件の厳格化」と「中間所得層への支援拡大」の2つが柱となる。これらについて詳しく説明する。

●機関要件の厳格化-取り消し猶予基準の進学・就職率の算出方法は未定

 機関要件のうち大学・短大の経営に関するものは現在、3つの指標があり、
①直前3年度すべての収支計算書の「経常収支差額」がマイナス
②直前年度の貸借対照表の「運用資産-外部負債」がマイナス
③直近3年度すべての収容定員充足率が8割未満
のすべてに該当する場合は支援対象にならない。
 2024年度からは、定員充足率に関する指標の③を独立させ、
①直前3年度すべての収支計算書の「経常収支差額」がマイナス
②直前年度の貸借対照表の「運用資産-外部負債」がマイナス
の両方に該当するか、または
③直近3年度すべての収容定員充足率が8割未満
に該当する場合は、支援対象でなくなる。定員充足率8割未満だと原則として対象から外れるが、救済措置として「直近の収容定員充足率が5割未満に該当せず、直近の進学・就職率が9割を超える場合は、確認取り消しを猶予」という規定も設ける。進学・就職率の算出方法については、引き続き検討される。18 歳人口が減少し続ける中、定員充足率だけで判断した場合、特に地方において高等教育の選択肢を狭めることにつながりかねないとの懸念があるためだ。
 専門学校については、③の指標が「直近3年度すべての収容定員充足率が5割未満」となるが、「地域の経済社会にとって重要な専門人材の育成に貢献していると設置認可権者である都道府県知事等が認める場合」は、取り消しが猶予される。
 現行制度同様、大学が機関要件を満たさなくなって対象から外れる場合も、その大学が対象外となる前から支援対象になっている学生は引き続き支援を受けられる。

●中間所得層への支援拡大-学生本人含め子ども3人以上の世帯も対象に

 支援対象となる学生については現行の3段階の区分に加え、新たに4番目の区分を設ける。新区分の所得基準や支給額については現在、政府内で検討されている。
 中間所得層への支援拡大については、財源確保の状況とバランスを取る必要上、政府の重点課題である「少子化対策」「デジタルやグリーンなどの成長分野の振興」に資する支援となるよう、具体的な対象が検討された。その結果、少子化対策としては「大学等に在籍する学生の世帯に、学生本人含め扶養される子どもが3人以上いること」という要件を決定。デジタルやグリーンの振興の観点からは、理学・工学・農学のいずれかの分野を学んでいることを要件とする。理学・工学・農学系の支援は、国公立大学より私立大学の方が授業料等の負担が重い実態をふまえたものになる予定だ。
 新たな区分の所得基準に該当し、「子どもが3人以上の世帯の学生」または「理学・工学・農学いずれかの分野を学ぶ学生」は、新たに支援対象となる。分野の特定については、学部・学科の学位分野を学校基本調査の分類で確認する。3分野のいずれかが含まれる学際分野も対象となり、設置認可時の情報に基づいて学位分野を確認する。専門学校については「工業関係」「農業関係」の分野の学科を対象とする。

●大学は2024年度の入学者、在学生に対する周知徹底を

 2024年度の入学者、および在学生で新たな要件に該当する場合は、支援の対象になる。文科省は、2024年度入試の受験生が今回の制度変更について理解したうえで進路選択ができるよう、早急に年収の目安等を公表できるよう検討を進めている。対象となる学部・学科については大学からの情報提出を受けて文科省が確認し、同年8月中に公表して受験生が志望校選びに活用できるようにする。
 2024年度に進学を希望する受験生の給付型奨学金の予約採用申し込みは例年通りこの4月に始まるが、新区分の対象者については2024年度の入学後に大学を通じて申し込むことになる。文科省の担当者は「各大学は2024年度の入学者、および在学生に対して支援対象の拡大について十分な周知を図り、希望者が漏れなく支援を受けられるよう努めてほしい」と話す。

●2022年度は短大4校が経営に関する要件を満たさず取り消しに

 今回の制度見直しは、首相を議長とする教育未来創造会議が2022年5月にまとめた第1次提言をふまえたものだ。提言では「大学の経営困難から学生を保護する視点から、(中略)修学支援新制度の対象を定員充足率が収容定員の8割以上の大学とするなどの機関要件の厳格化を図る」「現在対象となっていない中間所得層について、負担軽減の必要性の高い多子世帯や理工系及び農学系の学部で学ぶ学生等への支援に関し必要な改善を行う」と明記。これを受け、文科省が有識者会議を設け、具体的な変更内容を検討してきた。
 教育未来創造会議が機関要件の厳格化に言及した背景には、制度設計時の有識者会議の報告書で「大幅な定員割れとなり、経営に問題がある大学等について、高等教育の負担軽減により、実質的に救済がなされることがないよう、支援措置の対象となる大学等の要件において、必要な措置を講じていく」とされたことがある。支援対象校の機関要件の確認は毎年行われ、2022年度に取り消しとなった15校のうち4校が短大で、いずれも経営に関する要件を満たさなかった。残り11校は専門学校だった。大学・短大の取り消しは2021年度1校、2020年度は4校あった。

●「総合知育成の取り組み」の機関要件化は見送り、情報公表で代替

 教育未来創造会議の第1次提言では、文理融合・分野横断の教育を推進する観点から、「総合知を育成するための入試科目の見直し、入学後の文理横断型の教育、複線的・多面的な学び、全学的なデータサイエンス教育等について、(中略)修学支援新制度の機関要件の審査での反映」も提起された。しかし、文科省の有識者会議の検討では、この支援制度が多様な目的を持つ学校を対象としていることを理由に、「総合知を育成するための取り組みを必須の要件として全ての確認大学等に求めることは妥当とは言い難い」と結論づけた。
 代替的な対応として、「総合知を育成するための取り組み」を機関要件の確認申請書に記入できるようにして、申請書の公表によって社会や受験生への情報公開を進めることにした。