2022.0613

THEインパクトランキングで総合10位の北海道大学、実践とその背景

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3行でわかるこの記事のポイント

●アメリカに倣った大学設立・運営の手法がSDGsの実践とリンク
●ランキングを通した「北大らしさ」の可視化で、教職員に一体感
●SDGsへの取り組みを教育や学生募集に反映

大学の社会貢献の取り組みを国連のSDGsの枠組みを使って可視化する「THEインパクトランキング」の2022年版に、世界の1524大学がエントリーする中、北海道大学が10位にランキングされた。日本勢として初のトップ10入りだ。国内では3年連続トップを維持する同大学のSDGsを担当する横田篤理事・副学長に、SDGsに取り組む背景、ランキング参加の意義について聞いた。

*参考記事
「THEインパクトランキング2022」で北海道大学が総合ランキング10位(Between情報サイト)


●スマート農業の研究等によってSDG2(飢餓)で世界トップに

 北海道大学は「THEインパクトランキング」に、2019年のスタート時から継続して参加している。初年度は総合ランキング101~200位、国内では4位タイだった。ただし、初年度はパイロット版で、SDG1、2、6、7、14、15は対象外であった。2年目からは国内トップを維持。2020年は総合76位、2021年は総合101~200位、そして2022年は総合10位に。
 2022年のSDG別ランキングでは、SDG2(飢餓)で1位、食料問題への取り組みにおいて世界の頂点に立った。SDG14(海洋資源)17位、SDG15(陸上資源)18位タイ、SDG17(パートナーシップ)12位タイなども同大学の強みだ。
 SDG2(飢餓)の具体的な取り組みとしては、生産者と消費者の交流を促す学生主体の活動「北大マルシェ」、ロボット技術を活用した無人トラクター開発をはじめ実用化目前のスマート農業の研究などが挙げられる。

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 SDG14(海洋資源)については、大学所有としては世界有数の機能を誇る練習船「おしょろ丸」による水産学と海洋環境の研究推進が特徴的だ。
 SDG15(陸上資源)では、これも大学所有として世界最大級の研究林を活用した生物多様性や環境保全の研究、温室効果ガス観測などの取り組みが挙げられる。
 これらをはじめとする学内のSDGs関連の教育・研究・社会貢献等を一元的に管理し、情報発信を担うのが「SDGs事業推進本部」だ。本部長を務める横田篤副学長は「本学ならではの創設の経緯と発展の歴史、大学ゆかりの先人の活動がSDGsのDNAとして今も継承されている」と説明する。
 横田副学長が語った北海道大学とSDGsの関係の歴史的経緯、ランキング参加の意義は以下の通り。

●総長の下でめざす「比類なき大学」の実現

 サステイナビリティ(持続可能性)、SDGsに関する取り組みは今や本学運営の要として明確に位置付けられている。
 寳金清博総長は2020年の就任時、サステイナビリティへの取り組みによって「比類なき大学」をめざす方針を打ち出した。2022年度からスタートした第4期中期目標・中期計画でもサステイナビリティ、SDGsの推進を柱に据え、執行部を挙げた課題になっている。私が国際担当副学長として2021年12月に策定した国際戦略でも、柱となる4つの戦略目標の一つとしてサステイナビリティの追求を掲げている。
 こうした姿勢は本学の歴史と密接につながっている。本学はSDGsという言葉が生まれるずっと前からその理念と共に歩んできたと言っても過言ではない。

●大学の成り立ちや先人の行動がそのままSDGsの実践に

 本学の母体である札幌農学校(1876年開校)は寒冷地農業を支える技術開発と人材育成を目的に、明治政府が設置した。まさにSDG2(飢餓)を使命として誕生したわけだ。
 札幌農学校の1期生で後に北大の初代総長となる佐藤昌介は、アメリカ留学中に同国の土地利用について研究、州立大学独自の設立・運営手法を学んだと考えられる。それは、連邦政府から農地等の広大な土地を譲り受け、その収益によって大学を運営するというものだ。
 佐藤は札幌農学校の運営の中でこの手法に倣い、国等に対し、研究上の必要性を説いて広大な農場や演習林(本学では現在「研究林」と呼ぶ)の譲渡を受けた。本学はこれらを基盤として農業、林業などフィールドサイエンス(野外科学)の研究を推進。これらの資産をもとに次々に学部を増やし、発展してきた。こうした大学運営そのものがSDG15(陸上資源)の実践と言える。札幌の都心に位置する今の広大なキャンパスも、元は農場の一部だった。
 また、札幌農学校2期生で同校の教授を務めた新渡戸稲造は貧しい子どもたちのため、札幌に遠友夜学校という無料の夜間学校を設立、学生がボランティアで教壇に立った。これはSDG4(教育)の活動と言うことができ、ソーシャルサイエンス(社会科学)の分野でも大学の草創期からSDGsが実践されていたことになる。
 つまり、北大ではその成り立ち、先人の行動がそのままSDGsの実践となっており、サステイナビリティの理念がDNAとして組み込まれているのだ。それらをことさら目標に掲げるわけでもなく自然になされ、その営みの中で、本学の4つの基本理念「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」「実学の重視」も育まれてきた。
 ただ、新渡戸の遠友夜学校設立は学内でもほとんど知られておらず、農場や演習林取得の経緯は、4年間農学部長を務めた私ですら、その当時の職務上、北大発展の歴史を紐解いてみて初めて知った。北大の構成員一人ひとりが、SDGsを実践するうえで重要なこうしたエピソードや本学の歴史を理解することが今後の課題だと認識している。

●国立大学初のキャンパス・マスタープランを策定

 サステイナビリティを明確に意識した取り組みの出発点は、国立大学初となるキャンパス・マスタープランの策定(1996年)だった。本学にとって特別な意味を持つキャンパスの秩序ある整備を行うための、憲法とも呼ぶべきものだ。当初は土地や空間の利用計画が中心であったが、その後、2回の改訂を通じて明確な理念を打ち出してきた。
 2006年の改訂では省エネなどサステイナビリティの観点が入り、2018年には「SDGsに合致したキャンパスマネジメント」という言葉が入った。「環境負荷の少ないキャンパス」という方針にとどまらず、社会課題に根差した教育・研究を展開したり、周辺地域と調和するキャンパス整備を実施したりすることを掲げている。
 キャンパス整備にとどまらず、より幅広いテーマでサステイナビリティに取り組む意思を表明したのが、2005年の「持続可能な開発」国際戦略本部の設置だ。国連でサステイナビリティをめぐる議論が活発化していたことが背景にある。それまで教員が個々の教育・研究・社会貢献を通して取り組んでいたサステイナビリティの活動を全学的な取り組みに発展させる契機となった。

●SDGs関連の教育・研究を一元的に管理し、情報を発信

 2008年には、G8大学サミットのホストを担当。サステイナビリティ実現のために大学が果たすべき責務と具体的取り組みをまとめた「札幌サステイナビリティ宣言」を採択した。
 2010年、取り組みのプラットフォームとして「サステイナブルキャンパス推進本部」を設置した(2018年に「サステイナブルキャンパスマネジメント本部」に改組)。
 2021年にはSDGsの取り組みを通して世界の課題解決に貢献することを目的に、総長直轄の「サステイナビリティ推進機構」を設置。そこに、私が本部長を務める「SDGs事業推進本部」が置かれ、SDGs関連の教育・研究を一元的に管理し、情報発信を担っている。SDGsに関わるカリキュラムの開発やキャンパスゼロカーボンの推進、自治体や研究機関、各コンソーシアムとの窓口も務めている。
 振り返ればこの20年ほど、政府が経済優先に舵を切ったり、地球温暖化対策を重視したりと揺れ動く中、本学の取り組みにも加速や鈍化の波があった。それでも完全に歩みを止めることがなかったのは、創設時からのDNAによって突き動かされたからではないか。

●SDGsは各教職員が自分の持ち場を守る拠り所

 そんな本学にとって、「THEインパクトランキング」への参加は至極当然のことだった。ランキング事務局に提出するデータの提供を学内で呼びかけると、それまで埋もれていた情報が続々と出てきた。
 これらのデータが世界共通言語ともいうべきSDGsを通して可視化された。そして、ランキングで高い評価を得たことによって、学内にSDGsを核とする一体感が生まれた。教職員が漠然と感じていた「他大学とは違う北大らしさ」が客観的に裏付けられ、学外でも自信を持って「北大とはこういう大学だ」と説明できるようになった。これこそがインパクトランキング参加の意義だと思う。
 教職員は自分の日々の仕事がSDGsの達成にどうつながるかを考え、持ち場で頑張るための拠り所を持つことができた。一つの傘の下でそれぞれの持ち場を守ることによって、大学としての総合力がこれまで以上に発揮されると期待している。

●必修の教養科目を通して1年次からSDGsについて学ぶ

 SDGsの取り組みの成果は学部、大学院の教育や、学生募集を含む広報にも積極的に活用している。
 1年次対象の教養教育では、2023年度に刷新する必修科目の中で、北大の歴史や取り組みと関連づけてSDGsについて学んでもらう予定だ。2年次対象の専門横断科目枠では、2022年度から「国際SDGs入門」を開講、各学部学生がさまざまな専門分野からSDGsに多様なアプローチを試みる。
 現状でもSDGsに関連した科目は多いが、学部生からは「どれがそうなのかわかりにくく、選べない」という声が出ている。そこで、大学院の共通科目ですでにやっているように、教養科目一覧等で、その科目と関係があるSDGsの目標のアイコンをつける。完了次第、次は専門科目も同様の対応をする予定だ。

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 SDGs関連の広報戦略はSDGs事業推進本部で立案している。2020年には特設サイトを開設。明るく親しみやすい印象のサイトを通じて、受験生はじめ幅広いステークホルダーに情報を発信している。

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  ステークホルダーとのコミュニケーションとして11年間続けたイベントもある。2007年から2017年まで、毎年秋に1週間の「サステナビリティ・ウィーク」を実施。市民を含め誰でも参加可能で、各学部がテーマを持ち寄って持続可能な社会づくりのディスカッションなどをした。
 オープンキャンパスや大学説明会では、各学部でSDGs関係の研究や社会貢献に取り組む教員を紹介し、模擬授業の動画配信も行っている。
 今後めざすのは、「THEインパクトランキング」のすべてのSDGへの参加だ。SDG5(ジェンダー平等)、SDG10(不平等)など、相対的に弱い分野でもしっかり取り組むよう、教職員に働きかけていく。足りない部分を補って総合力を一層高め、総長を先頭にしてめざす「比類なき大学」に近づきたい。

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