2020.0928

全国学生調査の有識者会議-「独自調査とのセットで教育改善が可能に」

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3行でわかるこの記事のポイント

●全国調査だけでの目的達成は「難しい」との声が相次ぐ
●「ランキング」への根強い懸念も
●産業界、高校の委員は大学選びを変えるための教育情報の必要性を指摘

文部科学省は2022年度から予定している「全国学生調査」の本格実施に向け、調査設計について検討する有識者会議を設置、このほど初会合を開いた。2019年度の試行実施に対する評価をふまえた意見交換では、「教育改善につなげるためには全国調査だけでなく、各大学で独自調査を実施し、両者を組み合わせて分析する必要がある」との声が多く聞かれた。
*文科省の資料はこちら
文科省の学生調査―「外国語力修得に大学教育が役立っている」は30%


 文科省は「学修者本位の教育への転換」に向けた学びの実態把握のため2019年度、全国学生調査を試行実施した。参加を希望した 515 大学(全体の67.4%)の3年生約41 万人を対象に11 月下旬から1カ月間、 インターネットで実施。約3割(約 11 万人)の学生から回答が得られた。学部単位の集計基準を満たした約10万2000人の調査結果について設置者別、学部規模別、学部分野別に集計し、6月に公表した。
 2020年度に予定されていた2回目の試行調査は新型コロナウィルスの感染状況を受けて次年度に延期。2022年度からは全大学の参加と大学単位の結果の公表を視野に入れた本調査に移行する予定だ。
 有識者会議では、試行実施の調査項目や手法、結果について評価・検証し、本格実施の方向性について検討する。大学資産共同運用機構理事長の河田悌一座長の下、2021年3月末まで議論し、結論をまとめる。
 初会合では文科省が学生調査の目的として、①各大学の教育改善に生かす、②大学に対する社会の理解を深める、③国の政策立案の基礎資料にする―の3点を示した。これを受け、委員からは主に①と②について意見が出された。主な意見は次の通り。

●目的① 「教育改善」に関する意見

―属性情報の取得や個別調査との組み合わせによる実現を
・調査結果を基に何らかの手を打つことで改善が可能になる。そのためにはどんな学生がどう回答したかという属性情報を加えた分析が必要だ。試行実施のように回答者の属性を確認するフェイスシートがないと平均値などとの比較にしか使えない。真に改善に役立つ調査にするため、アカデミアに相談してほしい。
・この調査だけで教育改善につなげることは不可能だ。全国調査で大きな傾向をつかんだうえで、各大学の独自調査で詳細を把握して改善に取り組むことを考えるべき。
・全国調査と大学ごとの調査など、他と組み合わせないと改善は難しい。小規模校には調査の予算がないという声もあるが、アンケート方式にこだわる必要はなく、少数の学生からのヒアリングでも意味はある。
・大学IRコンソーシアムの学生調査はGPA 等とのクロス分析が可能で、学内では学籍番号とも紐づけられるので改善に活用できる。国の調査でそれをやるのは難しいだろう。
・私は試行実施の設計に関わり、IRコンソーシアムの大学独自調査と組み合わせた実施の可能性についてかなり議論した。今後はぜひ実現させたい。いずれは、独自調査の結果は各大学が自ら分析までするというのがいい。

●目的② 「社会の理解を深める」に関する意見

―「比較可能な公表」への懸念と必要性
・社会にわかりやすい公表として「比較できるよう一覧化」が掲げられているが、偏差値のように一覧化されると「この大学はあの大学よりも満足度が〇ポイント低い」といった比較に使われ、別の偏差値ランキングができてしまう(大学の委員)。
・受験生の保護者世代は自分が受験した頃の偏差値による大学の序列しか知らず、大学の中身、教育の情報を必要としている。ランキングされるという発想ではなく、学生目線の情報に対するニーズに応えるという姿勢が大事(産業界の委員)。
・この調査結果が公表されても受験生の動向は変わらない。満足度がよほど低ければ「この大学はやめておこう」となるだろうが。大学では教育の差別化が進んでいるのに、高校生が「学修者本位」にならずに偏差値だけで大学を選んでいる現状は問題。そこを変えられるよう、いい教育をしている大学が適切な評価を受けるような質問項目を作るべきだ(高校側の委員)。

―産業界への説明、世界への説明
・産業界が求める情報と大学が説明することとの間に齟齬があるため、産業界は不信感を高めているのではないか。この学生調査も大学側の視点が強すぎる。産業界が求める人材像を確認したうえで、それを育成できているかという観点から質問項目を作るべきだ。
・「日本の大学生は勉強しない」という見られ方を変える必要がある。履修科目が多く、たくさんの宿題をこなしながらよく学び成長しているということを世界に発信できる調査にすべき。

●「オンライン授業への評価など、コロナによる影響も反映を」

 会議では次のような検討課題も挙げられた。
・試行実施では回答者数が基準に届かず集計から除外された大学もある。アメリカの学生調査では回収率を上げるために景品を付けることもある。日本では授業時間内に授業評価アンケートを実施することによって回答率を上げているので、そのような手法も検討すべき。
・全学生に調査協力を呼びかけると大学に対する不満が大きい学生のほうが多く回答しがちで、適正な結果が出にくくなる。
・コロナの影響をふまえ、オンライン授業に対する評価を聞くなど、質問項目の再検討は必須だ。
・教育改善の前段階となる「比較」については、同じ専門分野の中での比較、経年比較、目標値との比較など、多様な視点が必要だ。
・試行実施では具体的な知識や能力を挙げ、それらの修得に「大学教育が役に立っているか」と聞いているが、社会人経験がないと「役立つ」のイメージがわかず、答えにくい。