2020.0310

私立5大学が留学体験とキャリア形成の接続を考えるイベントを開催

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3行でわかるこの記事のポイント

●「語学力以外の成果を言語化できていない」との問題意識から企画
●留学体験をアピールするエントリーフォームを企業が審査、表彰
●学生が人事担当者とのディスカッションを通して留学の価値を再発見

学生の留学体験とキャリア形成をどう接続させるか、企業の視点を交えて考えるイベントがこのほど開かれた。「失敗から学ぶこと、自ら行動を起こすことなど、語学力以外の価値を言語化し、帰国後も伸ばし続ける」ことの重要性について、学生と大学それぞれが気づきを得る機会になった。企画にかかわった大学は今後、留学の教育成果を最大化し、それをキャリア支援につなげるために留学前後のプログラムを強化したい考えだ。


●グローバル人材育成に力を入れてきた大学が共同で企画

 このイベントは亜細亜、桜美林、神田外語、昭和女子、東洋の5大学が企画・実施した「留学AWARD」で、2月上旬、桜美林大学新宿キャンパスで開かれた。留学した学生がその体験を模擬エントリーフォームに記入し、企業の人事担当者が優れたものを選考。さらに、学生が人事担当者とのディスカッションを通して留学の価値を確認するという内容だ。人材育成コンサルティングを手がけるアルー、空港旅客サービスのJALスカイ、クラウドコンピューティング・サービスを提供するセールスフォース・ドットコム、凸版印刷、人材サービスのパーソルキャリアの5社が協力した。
 5大学はそれぞれグローバル人材育成に力を入れ、数年来、情報交換を続けてきた。今回の企画の背景には、それぞれの国際交流担当者が抱いている「留学体験とキャリア形成が分断されている」という問題意識があった。ある大学の担当者は「多くの学生は、留学体験の成果を語学力以外の部分で語れない。実際には困難の克服、新たな気づきによる行動の変化がより大きな成果であるはずなのに、それらを言語化できず、貴重な体験をその後のキャリア形成につなげきれていない」と話す。

●「留学で得たものを一過性のものにせず、伸ばし続ける姿勢を」

 留学AWARDでは、各大学からの呼びかけに応え、3カ月(1ターム)以上の留学をした学生がその成果を就職活動でアピールするという設定で、事前にエントリーフォームに記入。3年生を中心に約40人が提出した。
 それらを5つの企業の人事担当者が読み、①留学について目標を持ち、自らその達成のための機会をつくり出したか、②自ら考え、工夫を重ねて挑戦したか、③自分を客観視して成長意欲を高めているか―という3つの観点で評価。それぞれが自社の採用基準をふまえて投票し、大賞3人、注目賞9人を選んだ。
 イベント当日は選考結果を発表し、受賞者がプレゼンテーションを行った。大賞に選ばれた学生の1人は、偏見や先入観が強かった自分が留学先で他の宗教の人との交流を通して視野が広がったことを発表。留学先で日本語サークルを作ろうと、資金集めのためのイベントに奔走した経験を話した学生も。

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 企業の担当者の講評では「エントリーフォームには『こんなことがあった』という事実ベースの記述が目立った。そこからどう行動して何を考え、何を得たかが大事」「英語力の向上は日本にいても可能。失敗から学ぶことこそ留学の意義」など、留学体験の捉え直しを助言。さらに、「変化の激しい時代に正解を求めて行動しても仕方ない。好奇心を持って取り組んだことがイノベーションを生む。まずは行動すること」「留学して感じた日本と他国とのギャップ、当たり前に思ってきたことへの違和感を大切にし、繰り返し外に出ていく習慣をつけてほしい」といったコメントもあった。
 これらをまとめる形で、学生の今後に向けて「留学を通して得たものを一過性のものにせず、その後に生かし、伸ばし続けるという姿勢を持ってほしい」というメッセージが送られた。
 続いてグループに分かれ、1人1分間であらためて留学体験を振り返り、人事担当者もまじえてディスカッションした。社会人の視点を通し、さらに他者の留学体験との比較を通して自分の体験を相対化して気づきを得てもらうことがねらいだ。

●留学前後のプロセス全体を見据え、「まなぶ」と「はたらく」の接続を

 イベントの運営事務を担当したベネッセi-キャリアのグローバル事業担当・矢竹秀行課長は今回のイベントについて、「単なる就活テクニックという次元で留学を捉えるのではなく、大学の教育力強化につなげるという点で大きな意義があった」と振り返る。
 大学の担当者からは「今回の成果を持ち帰り、留学前後の教育プログラムをさらに充実、実質化させたい」という声が聞かれた。留学の成果を最大化すると同時に、その後のキャリア形成につなげたい考えだ。
 一方、参加した学生からは「他の学生の話を聞いて自分のケースと比較することによって、留学経験で得たことの棚卸しができた」「企業の方からのフィードバックを通して留学経験の生かし方について気づいた」といった感想が聞かれた。 
 矢竹課長は「今回の企画による重要な気づきは、留学を一過性のものとして捉えてはいけないということだろう。今後も留学前から帰国後、そして社会に出るまでのプロセスをトータルで見据え、留学とキャリアの接続、『まなぶ』と『はたらく』の接続を実現してもらえるよう支援していきたい」と話した。