2019.0924

大学連携推進法人の検討開始-科目の共同開設で「自ら設置」の規制緩和

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3行でわかるこの記事のポイント

●新法人制度によって単位互換制度の使い勝手の悪さを解消し、実質化を図る
●共同教育課程も学位授与の要件緩和へ
●赤字大学の救済策としての制度利用を防ぐための要件も検討

2018年の中央教育審議会グランドザイン答申で提起された「国公私の枠組みを超えた大学間連携推進のための法人」について、大学分科会での検討が始まった。現在、制約が多く「絵に描いた餅」になっている単位互換制度を実質化すべく、認定法人を対象に規制を緩和する。大学がそれぞれの強みとする部分を共有して補完し合い、運営の効率化、選択と集中によって特色化を図ることがねらい。一方で「赤字大学の安易な救済策にはしない」という方針が強調され、参加大学の主体性と責任、教育の質を担保するための仕組みもあわせて検討される。国立大学の一法人複数大学制度、法人間での学部譲渡の手続き整備に続く今回の議論で「大学の連携・統合時代」がいよいよ現実味を帯びる。各大学は生き残りと発展のために「どの大学とどう組むか」という戦略を考えておく必要がありそうだ。

*文科省の資料はこちら
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●今年度内のとりまとめをめざす

 新たに検討される大学間連携の制度は「大学等連携推進法人」(仮称)。地域の大学や同じ分野の大学の連携推進を目的に、国公私の枠組みを超えた連携組織を一般社団法人として文科大臣が認定し、教学面の規制緩和を認めるというものだ。連携を阻んでいるさまざまな制度の壁を取り払い柔軟に運用できるようにする。文科省は、すでにある私立の学校法人、公立大学法人、2020年度から制度化される国立大学の一法人複数大学制度と並び、1つの法人が複数の大学を束ねる4つ目の仕組みだと説明する。
 大学分科会で制度の方向性を検討し、2019年度末をめどに結論をとりまとめる。施行後に法人の申請、審査・認定等の手続きが必要になるため、制度を活用した科目開講等ができるようになるのは、早くても2021年度以降になりそうだ。
 大学等連携推進法人の「目玉」は従来の単位互換制度の特例とも言える「授業科目の共同開設」で、「共同教育課程の促進」「教職課程の共同設置」などの規制緩和も検討される。

●共同開設科目を「自ら開設」とみなす

 構想の背景には、現在の単位互換制度の使い勝手の悪さがある。大学設置基準では「教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し」とあるため、他大学の授業で代替できる科目でも自前で開講する必要があると捉えられ、大学にとっては単位互換を積極的に推進するメリットがなかった。
 大学等連携推進法人になると、必修科目や選択科目(一定範囲の単位修得が卒業要件として必要な科目)であっても、大学等連携推進法人内のA大学が一定の要件の下で中心になって「共同開設」した場合、共同に加わっているB大学がそれを「自ら開設」した科目として自学の学生に履修させることができるという想定だ。
 下図は、同法人内のA・B・Cそれぞれの大学が主に「必修科目」「選択科目」「自由科目(全学開講科目等から学生が選択履修する科目)の中の資格取得系科目」を担い、これらの一部科目を互いに共有し合うイメージを示している。

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 例えばC大学は、資格取得に必要な科目を自学で開設して他大学に開放する一方、必修科目の一部をA大学の授業、選択科目の一部をB大学の授業でそれぞれ補い、独自に開設する必要がない。その分の余力を特色ある別の科目の開設や少人数教育の充実にあてることができる。

●既存の大学法人にも同様の規制緩和を適用

 「大学等連携推進法人」に対しては、共同教育課程(共同学位)に関する規制も緩和する方向だ。国公私の枠組みにとらわれない共同教育課程は2009年に制度化されたが、2018年4月時点で、学部段階では獣医学系のみの4課程の設置にとどまっている。A大学とB大学の共同学位を取得するためには、それぞれの大学で31単位(医学・歯学を除く)以上の修得が課される点が学生にとって大きな負担になり、共同教育課程制度が有名無実化していると言われてきた。そこで、大学等連携推進法人についてはこの要件の引き下げも検討される。
 なお、授業科目の共同開設、共同教育課程の設置等に関する規制緩和は、大学等連携推進法人に加え、国公私立それぞれの法人内の大学間にも適用される方向だ。

●「国公私間の学費負担の不公平感について議論が必要」との指摘

 文科省は「この制度がコストカットや赤字経営の大学の救済策として安易に利用されることがあってはならない」と強調、認定法人に対しては各大学が主体性と責任を持って参加する教学管理体制を構築し、教育の質を担保するよう求める。その観点から、次のようなことも検討課題となる。
・共同開設科目の設置基準上の専任教員数や校地・校舎等の基準をどう規定するか。
・共同開設による授業科目が過剰となり、自ら開設する授業科目による学位プログラムの編成が困難になるような事態を防ぐため、「自ら開設」とみなせる範囲について一定の制限を設ける。
・他大学の学生の受け入れによって1つの授業を履修する学生が増え、ICTの活用が不可欠になる中での教育の質担保のあり方。

 9月中旬の大学分科会で文科省が大学等連携推進法人のイメージを説明したところ、委員から次のような意見が出された。
・国公私の枠を超えた連携は必要だが、これだけ学費の格差がある現状だと同じ授業を受ける学生の間で不公平感が生じるのは必至で、そうした問題への対応も考える必要がある。
・この制度によって単位互換が活発化すると履修者の管理など、事務処理の量が激増する。連携法人の事務局機能もきちんと整備すべきだ。
・この制度によって放送大学を積極的に活用できるようになれば、特に地方大学の教育が充実するのではないか。