2019.0604

私立学校法改正-中期計画策定を義務づけ、ガバナンスを強化

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3行でわかるこの記事のポイント

●教育の質向上、運営の透明性確保の要請を明確化
●財務情報はウェブサイトによる公表義務付けへ
●学校教育法改正では認証評価における適合・不適合の認定を必須に

学校法人のガバナンス強化について定めた私立学校法改正案が開会中の通常国会で成立し、2020年4月から施行される。私立大学の運営に対する信頼を揺るがしかねない問題が相次ぐ中、中期計画の策定義務化や役員の責任の明確化によってガバナンスを強化し、教育の質の向上を図るねらいがある。
*文科省の公表資料はこちら


●私学の自主性を尊重し、詳細部分はガバナンス・コードに委ねる

 改正私立学校法では、「学校法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その設置する私立学校の教育の質の向上及びその運営の透明性の確保を図るよう努めなければならない」としている。ガバナンス強化を制度的に担保することによって、高等教育において重要な役割を担う私立大学がこれまで以上に社会の理解と支援を得られるようにし、学生が安心して学べる環境の整備を促そうとしている。
 文部科学省の「私立大学等の振興に関する検討会議」が2016年から翌年にかけて議論してまとめた提言、および大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の小委員会による検討結果のうち、私立大学の権限や責任、情報公開に関することなど、法人制度の骨格として一律に適用すべき事項が今回の法改正に反映された。一方、各学校法人の自主性を尊重する観点から、施策の詳細部分については法律で縛らず、私学団体等に策定を促す行動規範「私立大学版ガバナンス・コード」での規定に委ねている。

●中期計画の期間は原則5年以上

 今回の法改正においてガバナンス強化については、①中期計画の策定、②役員の責任の明確化、③監事機能の充実、④評議員会機能の充実などが規定された。
 文部科学省によると現在、中期計画を策定している学校法人は5~6割程度にとどまる。学生の権利を守るには中長期的な視点に立った計画的な経営が重要として、認証評価の結果をふまえた計画策定を義務づけた。小委員会のまとめでは、計画の期間は原則として5年以上とされ、盛り込むべき事項として教学、人事、施設、財務等が示された。実際に何年間の計画にするか、どのような項目にするかは各大学団体等のガバナンス・コードで規定することになる。
 役員の責任の明確化として、理事・監事の善管注意義務(専門家としての能力、社会的地位などから考えて一般的に期待される注意義務)について規定し、これに違反して法人や第三者に損害を与えた場合に損害賠償責任を負うことも明文化された。
 監事機能の充実に関する内容は、理事の行為によって学校法人に著しい損害が生じる恐れがある場合、監事が差し止め請求をできるようにするというものなど、理事に対する牽制機能の強化のための規定が置かれた。

●破綻処理時の清算人は国が選任し、学生保護を図る

 財務諸表、事業報告書等の情報公表についても規定された。収支計算書、貸借対照表等の財務諸表はこれまで、在学生をはじめとする利害関係人の閲覧に供する義務が課されていたが、一般市民に対する閲覧も義務づけられた。ウェブサイト等での公表が政省令で課される見通しだ。
 学校法人の破綻処理手続きの明確化についても法改正に反映。従来、法令違反を犯し、かつ監督が困難な学校法人に対して文科大臣が解散命令を出せる規定があったが、清算人になるのは当該法人の理事であった。それでは、財産の処分等において学生への学費の返還等よりも自らの利益を優先させかねない。そこで、解散命令時には利害関係人の申し立てまたは職権により、文科省が清算人を選任できるようにした。
 今回の法改正を受け、各学校法人は2020年4月までに寄附行為を改訂する必要がある。文科省は今年夏をめどに関連の政省令改正を行い、学校法人に通知することにしている。

●国立大学法人法改正で一法人複数大学制度を導入

 今国会では、「大学等の管理運営の改善」を目的に、私立学校法に加え学校教育法、国立大学法人法などの一部改正もなされた。
 学校教育法の改正は、認証評価において教育・研究が大学評価基準に適合しているかどうか認定するよう義務づけ、不適合となった場合は文科大臣が報告や資料の提出を求めるという内容。これにより、「保留」は出せなくなる。
 国立大学法人法の改正は一法人複数大学制度の導入とそれに付随した内容になっている。従来の一法人一大学の場合も含め、法人の長と大学の長を分けることが可能になり、大学の長を兼ねない法人の長は「理事長」という名称になる。岐阜大学と名古屋大学を統合して東海国立大学機構を創設することも盛り込まれた。