2018.0713

どうなる?高等教育無償化<下> 支援対象となる大学の要件

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3行でわかるこの記事のポイント

●全学部で「13単位以上の授業科目を実務経験のある教員が担当すること」が必須
●除外条件として「経営指標に基づく指導+定員充足率8割未満が継続」を検討
●2019年夏に対象となる大学を募集し、夏のうちに公表

低所得世帯を対象として2020年4月にスタートする高等教育無償化の制度設計に関する報告が、このほどまとまった。支援措置の対象となる大学には実務経験のある教員や学外理事の複数配置といった一定の要件を課し、2019年夏をめどに対象大学を公表する見通しだ。文部科学省への取材をふまえ、4年制大学を中心に制度の概要を2回に分けて紹介する。今回は、大学にとって特に関心が高い無償化の対象となる大学の要件について、詳しく見ていく。

*「どうなる?高等教育無償化<上> 支援の概要と支援対象者の要件」はこちら
*「高等教育段階における負担軽減方策に関する専門家会議」の報告書はこちら


●実務経験のある教員の配置については分野の特性による例外的扱いも

 2020年4月にスタートする高等教育無償化の対象となる大学の要件は下表の通り。daigakuyoken.jpg

 大学での勉学が職業に結び付き、社会で自立できるようになるためには大学教育が社会、産業界のニーズに対応する必要があるとの考えに基づき、実務経験のある教員や学外理事の複数配置等、4つの要件に加え、経営面に関する要件も設ける方向で検討されている。
 大学の場合、実務経験のある教員が「標準修得単位数(124単位)の1割」、すなわち13単位以上の授業科目を担当するという要件を、原則として全学部で満たす必要がある。ただし、歴史や哲学など一般的に産業界との関わりが薄い分野を念頭に、「学問分野の特性により基準を満たすことができない学部等については除く」としたうえで、その場合には大学がその理由やその後の取り組みを公表することとされた。
 学外理事に関する要件については当初、理事総数の2割以上という案もあったが、理事の定数が少ない小規模大学にとっては人材の確保や運営上の難しさがあることに配慮し、「複数」とした。文科省が2017年に実施した調査では、回答した私立大学の学校法人113のうち106法人が「複数の外部理事を登用」と答えており、同省は「ハードルはさほど高くないのでは」と見ている。
 経営面については、経営に問題があるとして早期の経営判断を促す経営指導の対象となり、かつ、継続的に定員の8割を割っている大学は対象としないなど、除外条件を設ける方向で検討する。文科省は「定員割れという事実のみで対象から除外することはなく、経営困難な状況から脱却するための経営努力をしているかどうかも重視する。人生100年時代構想会議等では主に大学関係者以外の委員から、今回の制度が赤字体質の大学を救済するものになってはならないとの考えが繰り返し示された。その点には国民からも賛同が得られていることに十分、留意する必要がある」と話す。

●手続き効率化のため日本学生支援機構の体制強化を検討

 文科省は2018年末から2019年初頭にかけて支援措置の対象となる大学の要件について具体的な内容を公表、対象となることを希望する大学の受け付けを2019年夏に始める見通しだ。夏の間に対象大学を公表し、支援を希望する受験生が進路選択できるようにする。
 2年目以降も、対象校の申請は継続して受け付ける。
 また、すでに対象となっている大学が引き続き要件を満たしていることの確認も行うが、大学に過度な負担がかからないよう、変更点のみを申告してもらうことなども検討するという。対象大学が要件を満たせなくなって対象からはずれた場合、すでに支援を受けている学生はどうなるのか。こうした点も今後の検討課題だが、学生については学年進行で対象外となり、要件を満たさなくなった後に入学した学生から対象外になるというのが現時点での案のようだ。
 今回の高等教育無償化において文科省が課題の一つに挙げるのが、日本学生支援機構の体制強化。「現行の給付型奨学金制度でも、手続きにあたる高校の負担が大きいと聞いている。今後、授業料減免が加わり大学も手続きに関わっていく中、日本学生支援機構がマイナンバー制度を使って世帯年収等の情報を把握して大学に提供する仕組みをつくるなど、制度の円滑な運営を図りたい」と話す。

●新制度導入に伴い既存の減免制度等を調整

 今回の制度は住民税非課税世帯とそれに準じる世帯のみを対象にしているが、「中間所得層にとっても高等教育の費用負担は重く、何らかの支援が必要」との声は多く聞かれる。文科省は「限られた財源の下、まずは特に困窮している層を対象にした制度を作る。中間所得層については、6月に閣議決定した骨太の方針で『大学等へのアクセスの機会均等について検討を継続する』とされた通り、今後の検討課題となる」と説明する。
 新たな制度創設によって私学助成による授業料減免等、政府予算の下で実施されている既存の制度は調整がなされる。文科省は「授業料の全額免除等、新しい制度と重複する部分は当然、調整が必要だ。私立大学の場合、新たな制度によって最大で70万円の授業料減免となる。対象の学生も大幅に増え、これまでになく手厚い支援になるので、各大学は新制度とのバランスも見ながら、既存の支援制度を見直して財源の有効活用を図ってほしい」と話す。


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