2018.0711

どうなる?高等教育無償化<上> 支援の概要と支援対象者の要件

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3行でわかるこの記事のポイント

●所得と進学意欲の要件を満たせば高校での成績にかかわらず支援の対象に
●私立大学の授業料は約70万円を上限に減免
●支援打ち切りに関する情報公表を大学に課し、適正な判定を促す

低所得世帯を対象として2020年4月にスタートする高等教育無償化の制度設計に関する報告が、このほどまとまった。支援措置の対象となる大学には実務経験のある教員や学外理事の複数配置といった一定の要件を課し、2019年夏をめどに対象大学を公表する見通しだ。文部科学省への取材をふまえ、4年制大学を中心に制度の概要を2回に分けて紹介する。初回は、支援の概要と支援対象者の要件について詳しく見ていく。

*「どうなる?高等教育無償化<下> 支援対象となる大学の要件」はこちら
*「高等教育段階における負担軽減方策に関する専門家会議」の報告書はこちら


●予算規模は幼児教育無償化と合わせて1兆7000億円

 高等教育無償化の制度設計については、文部科学省の「高等教育段階における負担軽減方策に関する専門家会議」(座長:三島良直東京工業大学前学長)が検討し、6月14日に報告をまとめた。今後、詳細を詰めて次年度の通常国会で法案を成立させ、2020年4月の制度スタートをめざす。
 この制度は2019年10月に予定されている消費税率引き上げによる増収分を財源とし、2017年12月の閣議決定では、幼児教育無償化と合わせて1兆7000億円という予算規模が示された。今後、高等教育と幼児教育それぞれのニーズや基本単価を算出したうえで配分を調整する。高等教育無償化については大学のほか、短大、高専、専門学校への進学者も支援の対象となる。 
 2017年度にスタートした現行の給付型奨学金制度(2018年度は予算105億円、支援対象者は1学年2万人)は、高校ごとの推薦枠の割り当てがある。一方、新制度では所得要件を満たしたうえで進学意欲が確認されれば、原則として高校での成績にかかわらず支援対象となる。文科省の推計では現在、住民税非課税世帯で短大や専門学校も含む高等教育機関で学んでいる学生は約18万人おり、非課税世帯やそれに準じる世帯の学生が大幅に増えることを想定して支援ニーズの検討がなされる。
 給付型奨学金に加えて授業料も減免し、「しっかりした進路意識や進学意欲があれば貧しい家庭からでも大学等に進学でき、大学等での勉学が職業に結びつくことによって格差の固定化を防ぐ」という理念の実現をめざす。

●2020年4月現在の2年次以上も対象とする方向で検討

 無償化の対象となるのは住民税非課税世帯(両親と本人・中学生の4人家族の場合で年収270万円未満)で、これに準じる年収270~300万円未満の世帯、および300万~380万円未満の世帯を含めた支援の概要は下表の通り。私立大学の授業料減免は、国立大学の標準授業料(54万円)に、「私立大学の授業料の平均額(約88万円)」との「差額の2分の1」を上乗せした額(約70万円)が上限となる。

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 一方の給付型奨学金制度については、現行制度の月額が「国公立・自宅=2万円」「国公立・自宅外=3万円」「私立・自宅=3万円」「私立・自宅外=4万円」となっており、新制度ではこれを大幅に拡充する方向だ。私立大学で授業料とは別に納める施設設備費等は給付型奨学金によってカバーされる。
 専門家会議の報告書では、大学等の受験料も給付型奨学金の対象とする考えが示された。複数校の受検料が対象になるか、進学した大学の受験料のみが対象かという点について、文科省は「給付型奨学金は学生生活調査の各項目をもとに積算した定額を給付するものであり、個々の学生の支出に対応した給付は行わない。積算にあたって受験料に相当する額を含める方向だが、具体的な内容については今後、検討する」と説明する。
 住民税非課税世帯とそれに準じる世帯との間に支援の「崖」が生じないよう、「年収270万~300万円未満」「年収300万~380万円未満」の2つのゾーンも設け、それぞれ非課税世帯の3分の2、3分の1の支援をする。
 2020年度の入学者だけでなく、同年4月時点で所得要件を満たし、要件を満たす大学に在学し、学習状況に関する要件を満たしている学生も支援の対象とする方向で検討されている。

●「標準的な修得単位数の5割以下の修得」で支援を打ち切り

 支援対象者の要件は下表の通り。

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 大学進学前段階の支援決定にあたっては高校での成績だけで否定的な判断をせず、レポートの提出や面談により本人の学習意欲を確認する。大学進学後は学習状況について一定の要件を課し、それに満たない場合は支給が打ち切られる。「手厚い支援によって意欲の低い者まで安易に進学・在学するようになっては、税金投入に対する国民の理解が得られない」との考えによるもので、表に示した「直ちに支給を打ち切る」4つの要件は現行の給付型奨学金でも設けられている。
 打ち切りの要件である「1年間の修得単位数が年間の標準的な修得単位数の5割以下」の「年間の標準的な修得単位数」は、各大学が学部・学科ごとの実態に応じて設定する。
 支援打ち切りを回避するための教育的措置として新たに導入されるのが「警告」制度で、修得単位数などが打ち切りの基準に達する前の段階で実施される。警告の対象となる「GPA等が所属学部等の下位4分の1」については、専門家会議での「資格取得に至るほどの教育成果を上げているにもかかわらず、所属する学生全体が高水準であるために結果的に下位4分の1に属してしまい警告を受ける可能性もある」との指摘をふまえ、「斟酌すべきやむを得ない事情がある場合の特例措置を検討」とされた。
 こうした「支援打ち切り」や「警告」は各大学の責任の下で判断される。支援を打ち切られた学生が経済的理由で中退することになれば大学の収入が減るため、適正な判定がなされないことも予想される。そこで専門家会議の報告書では、支援を打ち切られた学生の数や理由について大学ごとに公表すべきとされた。他大学に比べて極端に数が少なければ、社会から疑念を持たれかねないとの自制が働くことへの期待がある。不正受給については、文科省の立ち入り検査もできるよう検討する方向だ。

「どうなる?高等教育無償化<下> 支援対象となる大学の要件」はこちら


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