2018.0705

次年度からの入定厳格化策の検討が難航、当初案修正も視野に結論を急ぐ

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●2018年度入試での影響が大きく、文科省にはさらなる厳格化について慎重論も
●都市部の大学と地方大学の温度差も判断を難しくしている
●ペナルティを見送り1.0倍へのインセンティブのみ設ける案も浮上

2019年度以降の私立大学における入学定員管理厳格化と私学助成配分の新たなルールに関する文部科学省の検討が難航している。2018年度入試の合格者絞り込みが大学・高校にもたらした影響の大きさが、次なる施策を慎重にさせているようだ。とは言え、次年度AO入試の本格化を前に決定までの時間的猶予はない。「教育の質担保のため、1.0倍をめざす定員管理を」というメッセージを発信すべく、定員超過に対するペナルティではなく、一定程度の定員未充足を救済するインセンティブのみを導入することなども選択肢として検討を急ぐ。


●地方大学からは「募集が上向いてきた」と評価する声

 文部科学省は2019年度以降、定員以上の入学者受け入れを抑えるため私学助成による新たな策を講じるかどうか、6月中に大学に通知する予定だった。「1.0倍を超える入学者数に応じて学生経費相当額を減額」というペナルティ、および「定員超過率を0.95~1.0倍にした大学に補助金を上乗せ」というインセンティブの両方を盛り込んだ当初案に沿ったルールを設けるか否かが焦点だ。
 しかし、2018年度入試では、文科省の想定以上に入学定員管理厳格化による大きな影響が出たため、慎重な判断を迫られることになった。大規模大学を中心とする合格者の絞り込みで4月に入っても追加合格を出したり、追加募集が間に合わず結果的に定員割れになったりといったことが発生。高校からも「安全校含め、受験校全てで不合格になった生徒がいる」「浪人する者が急増した」との声が聞かれ、こうした状況を「入学定員管理厳格化の弊害」という論調で報じるメディアもあった。
 また、日本私立学校振興・共済事業団が6月から全国各地で開いている補助金説明会では、入学定員管理厳格化に対する評価が都市部の大学と地方大学との間で大きく分かれるという。首都圏の大学が歩留まりの読み誤りを恐れて小刻みに追加合格を出す負担に悲鳴を上げる一方、地方の大学からは「学生募集がようやく上向いてきた」と新たな規制への期待が示される。両者の主張に耳を傾けるほど、判断が難しくなるようだ。
 省内には「そもそも定員は教育の質担保のために大学が自ら決めたものであり、超過率1.0倍をめざすのが当然」という一貫した「筋論」があるものの、大学と高校の双方に混乱と困惑が広がっている現実は軽視できないというわけだ。大学だけでなく社会からの反発も予想される以上、2019年度の新たな施策は見送るべきとの考え方と、都市と地方とで大学の見解が相反する中で一方の大学の要望にのみ応える形で「ゼロ施策」にするのは問題だという考え方との間で揺れている。

●収容定員管理でインセンティブを強化する案も

 ただし、「定員超過よりは多少の定員未充足になる方向に調整する大学を支援すべき」という文科省の基本的な考え方は変わっていない。私学助成の担当者は「2018年度からは私学助成配分の新たな指標として教育の質の観点を導入するというのに、教育の質と深く関わる定員管理の方は(大規模大学の場合)1.1倍止まりでいいのか。1.0倍をめざすべきだという何らかのメッセージは送りたい」と話し、大学の強い反発を招くことなく1.0倍に誘導する術を探っている。その中で、「定員超過人数分に対するペナルティ」と「一定程度の定員未充足を救済するインセンティブ」のどちからのみを採用するという案や、これらと同様の措置を収容定員管理の方に導入する案も浮上している。
 AO入試のスタートを控えて大学は早急な結論を待っている。文科省の担当者は「各大学の入試スケジュールを勘案すると、これ以上の遅れは許されない」と認識していて、遅くとも8月中の通知をめざす考えだ。7月第1週には補助金説明会が終わるため、各会場で出た大学の声を集約したうえで検討を急ぎ、結論を出すという。


*関連記事はこちら
2040年の大学進学者数は12万人減の51万人~文科省試算
23区規制は最終報告で歩み寄り~「一時的な収容定員増」を容認
地域別・分野別の進学者数・受け入れ数のデータを提示―将来構想部会