2018.0315

学生調査データを使いIRを体験-ベネッセが大学教職員向けイベント

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3行でわかるこの記事のポイント

●ベネッセの調査データを分析し、課題解決につながる施策を立案
●教員・職員・学生がフラットな立場で議論する共創型ワークショップ
●1位に選ばれたグループは「アルバイトの学習化」を提案

IRに対する大学の関心が高まる中、学生調査のデータを分析し、課題解決策を立案するプロセスと手法を教職員に体感してもらおうと、ベネッセ教育総合研究所は3月10日、東京都内で「共創ワークショップ 学生調査から大学教育の課題を解決する」を開催した。ベネッセ教育総合研究所の調査結果を活用し、データの中から課題解決のヒントを探すグループワークに取り組んだ。


●「データから改善策を導き出す素養は全ての教職員に必要」

 IRの一環として学生調査を実施する大学が増えているが、その結果を施策につなげているケースはあまり多くないと言われる。今回のワークショップは、調査データは改革に活用できるという認識を深め、活用ノウハウの一端を習得してもらうことがねらい。異なる立場や視点の共創から新しい発想を生み出そうと教員、職員に分けて参加者を募った。
 ベネッセ教育総合研究所は2008年から4年ごとに「大学生の学習・生活実態調査」を実施、学生の行動や意識の変化を捉えるための3回分の調査データを蓄積している。ワークショップではそのデータを分析し、調査に関わっている研究者がサポートした。京都大学の山田剛史准教授がコーディネーターを担当、大阪大学の川嶋太津夫教授、青山学院大学の杉谷祐美子教授、芝浦工業大学の谷田川ルミ准教授がアドバイザーを務めた。
 全国の大学から教員29人、職員26人、学生26人が参加。教員、職員、学生、計4~5人の混成グループでワークに取り組んだ。
 山田准教授は冒頭の趣旨説明で「調査データは使われてこそ価値がある。われわれのデータもぜひ広く使っていただきたい。データから改善策を導き出す基礎的な素養は今後、全ての大学教職員が持っておくべきリテラシーだ」と述べた。
 続いてベネッセ教育総合研究所が、3回目の調査結果の概略を報告。8年間で授業でのアクティブ・ラーニングが増えて学生が真面目に学ぶようになる一方で、依存的な姿勢が目立ち大学生活に対する満足度が下がっていることを説明した。

●解析ソフトを使いその場でデータ分析をサポート

 各グループは調査結果の資料を確認したうえで取り組むテーマを設定。報告書にまとめられた内容からさらに分析を深めて仮説を立て、課題解決のための施策を検討した。「1週間の勉強時間と、サークル日数およびアルバイト日数との相関は?」等の分析視点は、ベネッセ教育総合研究所のメンバーが解析ソフトを使ってその場で分析し、フィードバックした。
 アドバイザーからのワンポイントの情報提供で、川嶋教授は「学生はアクティブ・ラーニングに食傷気味で、ワーク(行動)はしているが頭はアクティブになっていない。『広く浅く学ぶ』から『狭く深く学ぶ』ことへの転換が必要ではないか」と課題提起した。各グループは学生メンバーに積極的に質問し、「今どきの学生」を定性的にも捉えながら議論を進めた。
 最後はグループごとに分析結果と課題、解決策をポスターに書き出して発表し、全員の投票に基づいて優秀作を決めた。

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 1位に選ばれたグループのテーマは「アルバイトをいかに学習化するか」。アルバイトに力を入れた学生、お金が必要になったら保護者が援助してくれるという学生がいずれも増えたという調査結果に着目、「ではなぜアルバイトをするのか」という疑問に基づいてデータを分析した。
 その結果、アルバイトに多くの時間を割いている学生は「興味がある授業より単位を楽にとれる授業を好む傾向にある」「大学生活に対する満足度は授業で頑張っている学生と変わらない」ということが判明。そこから「学生の興味が多様化して大学の教育だけではカバーできず、アルバイトから満足を得ているのではないか」という仮説を立てた。
 「アルバイトを学習化する」という考え方の下、大学の施策として「キャリア科目や基礎ゼミでアルバイトを通じて学んだことを振り返る」「将来の目標とアルバイト、大学の授業との関わりを考えさせる」などを提案した。アルバイトをポジティブに捉え、大学教育と連携させるユニークな発想が参加者の共感を得た。
 閉会後、本イベントを企画したベネッセ教育総合研究所の松本留奈研究員は「限られた時間にもかかわらず、グループワークで出てきた解決策の質の高さに驚いた。調査データを題材に、教員、職員、学生が大学教育のこれからを協働で考える意義は大きい。今後、学生調査のデータを各大学でも活用いただけるように提供していきたい」と話した。


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