2017.1110

<続報付き>他大学への学部譲渡を可能にする制度検討へ―文科省が論点提示

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3行でわかるこの記事のポイント

●中教審で文科省が連携・統合の円滑化に向けた制度見直しについて説明
●私大の学部・学科単位の設置者変更、国立大のアンブレラ方式も論点に
●教員が複数の大学の専任教員になるための制度見直し案も

<2017年11月10日更新>

 11月8日の中央教育審議会大学分科会・将来構想部会では、大学間の連携・統合について文科省が示した論点について討議した。地方大学が経営困難に陥った場合、その地域の高等教育機会の確保については、国公私の別に関係なく地域の大学が責任を負うという考え方を確認したうえで、次のような意見が出された。

●現状、地元との連携がほとんどない地方大学が多い。困難な状況に陥る前からの連携が必要。
●連携によって地域の教育の質を保証するのは難しい。個々の学生に対する教育責任を共同で負うなどということはあり得ず、所属大学が負う。だから結局は統合しかない。

●公立、私立は一つの法人の下に複数の大学を置けるのだから、国立も同様にすべきだ。地方国立大学は独自性に乏しいが、一法人複数大学方式によって活性化するだろう。法人の長と学長は責任が違うので、別々に置くべき。
●国立の一法人複数大学方式については、アメリカの州立大学システムが参考になるのではないか。個々に特色もあると聞いた。
 これらの意見に対し、筑波大学の金子元久特命教授は「国立大学を一法人複数大学方式にすることにどんな意味があるのか疑問だ。公私立と形をそろえるだけなら意味がない。アメリカの州立大学には歴史的な経緯があり、一法人複数大学と同じとは言えない。一つの法人が複数の大学を運営する方式は実質的には日本だけだ」と国立の一法人複数大学方式に懐疑的な見解を示した。 

 大学経営を研究テーマとする東京大学大学院の両角亜希子准教授は、私立大学の統合について次のように述べた。「これまでの例を見ると対等合併というのはあまりなく、多くは吸収合併で、建学の精神が近い大学同士の例が目立つ。吸収される側は経営が厳しく、施設の更新もできない状況に陥っているものの、何らかの魅力がある大学だ。吸収する側にとっては、(吸収する)学部の新設に一定の投資が必要で、経済的負担が大きい。補助金等による後押しが欲しかったという話も聞いた。経営が厳しいのは主に地方大学であり、そこに他大学を吸収できるほど経営基盤の強固な大学があるのか。都市部の大学がわざわざ手を挙げるとも思えない」。こうした実情・分析をふまえ、「吸収合併と言っても成立要件が厳しい。経営強化のための制度の見直しは必要だが、統合による解決は難しいのではないか」と述べた。
 金沢工業大学の黒田壽二学園長・総長も、「私立大学の合併は難しい。(吸収のメリットが全くなく)引き取り手がなかなか出ないという大学もある」と、経営困難な大学の問題を統合という手段で解決を図ることの難しさを指摘した。


<以下、10月30日の初出記事>

 文部科学省は、大学の連携・統合を推進するために検討すべき制度上の課題など、論点をまとめて中央教育審議会の大学分科会・将来構想部会の合同会議に提示した。私立大学については、学部・学科単位で他大学に移管できるようにする制度改正などを挙げた。この日は本格的な意見交換はなされず、示された論点に基づいて今後、制度の見直しが議論される。

*連携と統合に関する論点整理の資料はこちら
*合同会議の全資料はこちら


教員養成系の統合等を念頭にアンブレラ方式を検討

 10月25日に開かれた合同会議では、文科省から大学間の「連携と統合の可能性」に関する論点が示された。18歳人口の減少によって、地方を中心に大学の経営が厳しくなるのは必至だ。そうした中でも高等教育へのアクセス機会を確保するために、大学間の多様な連携を促す一方、統合の方策についても具体的な検討を本格化する。
 これまでの将来構想部会では、「教育・研究の積極的な連携を推進すべき」との意見で一致しているが、連携を困難にする制度的な制約も指摘されてきた。そこで今回、問題となっている制度について文科省が説明し、見直しに関する考え方を示した。大学間の大胆・柔軟な連携が、運営の効率化や特色強化に向けた統合という次のステップにつながるとの考えもある。
 広い意味での「統合」も含む論点として、①私立のA大学からB大学への一部学部・学科の移管・譲渡を可能にする、②1つの国立大学法人が複数の国立大学を設置する「アンブレラ方式」を可能にする―などが示された。
 ①については、現在、大学の設置者を他の法人に変える「設置者の変更」は学校教育法で規定されているが、学部・学科単位の設置者変更に関する規定はない。そのため、A大学の学部をB大学に移すには、A大学での学部廃止、B大学での学部新設という双方での手続きが必要だ。これについて文科省は、「各私立大学の特色化・強みのある分野への資源集中を進め、円滑な事業譲渡が可能になるよう、学部・学科単位での設置者変更を認めるなど、制度面での改善を検討すべき」との見解を示した。

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 ②について、国立大学法人法では、1つの法人は1つの大学のみを設置できることになっている。そのため、例えば教員養成系の大学・学部を1つの法人の下に束ねて運営の効率化を図ることが不可能だ。「一法人一大学」は法人化の際、大学運営の自主性・自律性を高め、教学と経営との一体化を図るねらいで導入された仕組みだが、近年は国立大学の再編を検討するうえでの制約となっている。文科省は、1つの法人が複数の大学を設置できるようにした場合、「法人の長や学長等をどのように任命するか」等の論点を示した。  

●単位互換を妨げる「必要科目は自ら開設」原則も検討課題

 大学間の教育・研究の連携を困難にしている制度についても見直しが提起された。
 その一つが、単位互換制度と「必要な科目は自ら開設」という大学設置基準の規定との関係だ。単位互換は学生に多様な選択肢を提供する一方、大学間で授業科目を共有することによって個々の大学が選択と集中を進め、運営の効率化、特色化を図るうえで有効な手段とされている。しかし、大学設置基準では「教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し」とある。他大学の授業で代替できる科目でも自前で開講する必要があると解釈でき、単位互換のメリットに疑問符がつく。
 これについて文科省は、単位互換制度の運用によっては卒業に必要な単位数を自学の授業だけで修得できないといった問題が起きることも懸念されると指摘。一方で「『自ら開設』の規定は、過去に一部の大学で、必要な授業科目を系列の資格試験予備校に丸投げしていた事例を受けて設けられた」と説明、この原則の考え方や単位互換制度の適切な運用について、「あらためて明示すべき」との見解を示した。
 さらに、「教員は1つの大学に限り専任になれる」という原則の問題点も取り上げられた。大学間連携が進化する中で、教員が「共有資源」として複数の大学で同等の責任を負って教育・研究にあたることなどを想定した指摘だが、専任教員制度は学内連携においてもネックになりがちだ。現状、設置審査では、教員は1つの学部のみで専任教員としてカウントされるため、ある学部の専任教員が他の学部の教育・研究に関与できないと解釈され、学部横断的な教育の取り組みが停滞するケースもあるという。
 そこで、まずは1つの大学内で複数の学部・学科の専任教員になれるよう運用を緩和し、将来的には複数の大学の専任教員になることを可能にするという段階的な見直しが例示された。

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 ただし、「1人の教員を2つの大学で専任教員として扱うことを許容した場合、現在の1校分の教員数で2校分の設置認可が可能となってしまう点について、慎重に検討する必要がある」との留意事項も挙げられた。


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