2017.1012

地域別・分野別の進学者数・受け入れ数のデータを提示―将来構想部会

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3行でわかるこの記事のポイント

●全国11のエリアごとに、大学の学問分野別の需給状況を整理
●エリア単位、および全国的な高等教育整備に向け、現状を分析し課題を洗い出す
●地方では人文・社会分野の供給が足りないため都市部に流出

文部科学省は中央教育審議会の大学分科会将来構想部会に、地域別・学問分野別の大学教育需給状況等の基礎データを提出した。地方では人文科学、社会科学の供給が需要を満たせず、進学時の都市部への流出につながっていることなどがあらためて浮き彫りになった。

*文科省が提供した基礎データはこちらhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2017/10/06/1396989_04.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2017/10/06/1396989_05.pdf


●北陸は工学分野の供給が需要を上回るという独特の状況

 基礎データは、2016年度の学校基本統計等を基に作成。将来構想部会で、地域ごとに整備すべき分野別の高等教育の規模、全国的な配置のあり方等を検討するための材料として先の第6回会合で提供された。
 全国を「北海道」「東北」「北関東」「東京圏」「甲信越」「北陸」「東海」「近畿」「中国」「四国」「九州」の11のエリアに区分。大学の学問分野は学校基本統計の大分類に基づいて分類し、「人文科学」「社会科学」「理学」「工学」「農学」「保健」「教育」「その他」の8つについて詳しく分析している。「その他」は教養学、コミュニケーション学、環境・バイオサイエンス学などを例示し、「多様な学部が該当する」とされている。
 各エリアにある高校を卒業して大学に進学した者(他エリアへの進学者を含む)の学問分野ごとの人数、および各エリアにある大学の学問分野ごとの入学者数(他エリアからの入学者を含む)がグラフで示され、エリアごとの学問分野の需要と供給の関係がわかる。2016年度のデータと共に2033年度の推計値も示されている。
 データを見ると、一般的に言われる「大学進学で地方から都市への流出が起きている」という状況も、エリアや分野によって一様ではないことがわかる。
 例えば人文科学、社会科学は多くの地方エリアで供給量が少なく地元の進学者の需要を満たしきれていないため、これらの分野に進学する場合にはエリア外への流出が目立つ。これに対し、工学はほぼどのエリアでも国立大学を中心に一定の供給が確保され、私立と合わせると需要とのバランスが取れているエリアも少なくない。東北エリアがその例だ。

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 北陸エリアは私立大学による工学の供給量が多く需要を上回っている点が、他の地方エリアとの違いだ。同エリア全体では流出超過だが、工学分野では他エリアからの入学者の受け入れが可能な規模がある。

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 甲信越は北関東とともに、「その他」の供給量が需要に対して極端に少ないというエリア特性が見られる。

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 東京圏は、私立を中心に人文科学、社会科学、「その他」の供給量が圧倒的に多く、全国からの進学者の受け皿となっている。一方で、相対的に工学の供給はさほど多くなく、エリア内における工学分野の入学定員の割合は8.6%で、全国平均の11.2%を下回る。近畿エリアも、工学分野の定員の割合は8.6%となっている。大学進学における東京一極集中の問題が指摘されているが、文科省は「東京圏での理工系の選択肢は、実はさほど広くない」と説明した。

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●「全分野で一定規模の定員を各エリアに設けるべきか」等が論点に

 データに関する説明を受け、ある委員は「『教育』の分野は地方でも一定程度の供給が確保されている。これは地元に教職という受け皿があるためだが、人文、社会は地方に学部を作っても公務員以外には就職につながりにくい面がある」と、地方における文系分野の供給不足の背景を読み解いた。23区内での定員規制に対して「地方での雇用創出を図らないと流出の抜本的な対策にはならない」という意見が盛んに聞かれるが、地元で文系に進み、就職も地元でしたいという受験生の希望にどう応えていくか、大学と行政、産業界の連携による課題解決が必要と言える。
 文科省は「地域における高等教育の将来像を検討する際の論点例」を次のように示した。

①学生の進学機会の確保の観点から、地域ごとに必要とされる分野の割合、規模についてどう考えるか。
(例)
 ・全ての分野において、一定規模の定員が地域で用意されるべきか。
 ・流出超過の大きな分野について、確保すべき定員はどの程度と考えるか。

②地域における研究拠点の形成の観点から、地域ごとに必要とされる分野の割合、規模についてどう考えるか。
(例)
 ・全ての分野において、一定規模の研究者が配置されるように配慮すべきか。

③地方と都市部とで、分野ごとの定員の割合が異なる状況についてどう考えるか。
(例)
 ・地方においては、人文科学、社会科学の分野の定員が極めて少ない状況についてどう考えるか。
 ・都市部においては、工学分野の定員の割合が相対的に低い状況についてどう考えるか。

④分野・規模の在り方などを検討する際に、地域の産業や自然環境などの特性との関係についてどう考えるか。

 今後の将来構想部会ではこうした論点について議論を重ね、エリア単位の高等教育の整備、および全国的な観点からの配置について検討される。委員からは、「単に現在の需給状況を基に供給の過不足を調整するということではないはず。エリアごとの産業構造等から将来的に必要とされる人材を育成するにはどうすべきかとの観点が必要だ」「単なる人数ではなく、同じ分野であっても人材の質・レベルにまで着目して調整を考えるべき」といった意見が出た。


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