2017.0915

都道府県別18歳人口推計付き! 学校基本調査から考える「大学の備え」

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3行でわかるこの記事のポイント

●小規模大学420校の入学定員合計分の受験生が12年後の市場からいなくなる
●県別18歳人口は東北で二極化、九州では3層に
●18歳人口急減期の入り口と入試改革元年が重なる

文部科学省が先ごろ発表した2017年度学校基本調査(速報値)によると、4年制大学への進学率は現役のみで49.6%、浪人生を含むと52.6%と、いずれも過去最高となった。一方で、同調査のデータを使った今後の18歳人口推計からは、学生募集環境が極めて厳しくなることがあらためて確認できる。18歳人口急減期の入り口と重なる入試改革元年への備えを着実に進めることが、生き残りのカギとなりそうだ。


●浪人生含む大学進学率は0.6ポイント増の52.6%

 2017年度学校基本調査(速報値)によると、高等教育関連の各データは次のようになっている。
○2016年度の高校卒業者(現役生)の進学状況
 大学進学率は49.6%(対前年度0.3ポイント増)で過去最高
 大学・短大進学率は54.8%(前年度と同じ)
 専門学校進学率は16.2%(0.1ポイント減)
○浪人生を含む進学状況(分母は18歳人口)
 大学進学率は52.6%(0.6ポイント増)で過去最高
 短大進学率は4.7%(0.2ポイント減)
 大学・短大進学率は57.3%(0.5ポイント増)で過去最高
 専門学校進学率は22.4%(0.1ポイント増)
 高等教育機関進学率は80.6%(0.6ポイント増)で過去最高
 
 前年度からの18歳人口の増加率を大学進学者数の増加率が上回ったために浪人を含む大学進学率は上昇したが、エリア(進研アドによる分類)ごとに見ていくと状況は一様ではない。例えば、北関東と甲信越では18歳人口、大学進学者数ともに減少し、大学進学率が低下。一方、北海道、九州では18歳人口が減って大学進学者数が増加したため、大学進学率が上昇した。

●2029年度にかけて18歳人口は11%減る

 進研アドでは、学校基本調査(速報値)の中学校等の卒業者数や小学校、中学校の各学年の在籍者数を使って2029年度(入試年度)までの18歳人口推計を更新した(図1)。

zu1zenkoku.JPG

 2018年度の18歳人口は2017年度より約1万8000人(1.5%)減って約118万人になる。その後6年間減り続け、2024年度は約106万1000人に。2025、2026年度でやや持ち直した後、再び減少に転じる。
 今の小学1年生が大学を受験する2029年度の18歳人口は約106万4000人で、2017年度と比べると約13万5000人、11.2%少なくなる。多くの私立大学で志願者が増え、定員充足状況が改善した今春の入試と、12年後の入試における市場規模の落差は具体的にイメージしておきたいところだ。日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)のデータによると、2017年度入試では、入学定員800人未満の大学420校の入学定員を合わせると約13万3000人となっている。2029年度には、これとほぼ同数の受験生が市場からいなくなるわけだ。

●2017年度の18歳人口に対する2019年度の指数は首都圏95、東北78

 全国を9つのエリアに分け、2017年度の18歳人口を100とした時の指数の推移を示したのが図2のグラフだ。2029年度は、全国平均89の中で、首都圏の95から東北の78まで大きな幅がある。

zu2area.JPG

 東北の県別の18歳人口推移(図3)を見ると、2029年度時点で宮城県が全国平均を2ポイント下回る程度であるのに対し、他の5県は全国平均を9~17ポイント下回る。地方においても、中核エリアと「地方の中の地方」との間で二極化が進むという構図だ。

zu3tohoku.jpg

 一方、九州(図4)では、2029年度の18歳人口が全国平均を大きく上回る「沖縄・福岡」と6ポイント下回る「佐賀・長崎」、両者の中間に位置する「その他4県」の3層に分かれる。

zu4kyusyu.jpg

 今後の学生募集戦略を練るうえで、こうした18歳人口のデータに着目し、自学がターゲットとするエリアの市場動向を把握、地元で志願者の減少が予想される場合にはどのエリアからどう補うか、シミュレーションしながら考えておきたい。

*全国、および9つの各エリア(都道府県単位含む)の18歳人口推移はこちら
https://f.msgs.jp/fcnts/ret/graph_renkets.pdf

●新入試制度告知のデッドラインは2019年度の2学期

 再び図2を見ると、今後3年間は、エリアによっては増加する年もあるなど、足踏み状態で減っていくのに対し、2021年度からはほぼ全てのエリアで一様に急減していくことがわかる。2021年度といえば、大学入学共通テストが導入される「入試改革元年」で、18歳人口急減期の入り口と入試改革本番とが重なるわけだ。各大学はこの時以降、自学の新たな入試の仕組みがねらい通りに機能し、厳しい市場の中で求める質と量の入学者を安定的に確保できるよう、入試改革の準備を進めることが急務と言える。

*「いつまでに何をすべきか」という工程表の例は『Between』2017年7-8月号を参照
https://shinken-ad.co.jp/between/backnumber/pdf/2017_7_tokushu02.pdf
*同号の入試改革特集全体はこちらから
/between/2017/07/20177-8.html

 高校では「入試改革一期生」を新入生として迎える2018年度から、新しい入試制度に対応するための教育・指導にシフトしていく。ターゲットとするエリアを中心に高校の変化を捉え、入試改革と募集広報の計画に反映することが大切だ。進路指導の早期化に対応できるよう、新しい入試制度の告知は2018年度の1学期頃に行うのが望ましい。ただ、多くの大学の現状をふまえるとそれは難しいと思われ、「入試改革一期生」が高2になる2019年度の2学期頃をデッドラインと設定して準備を進めるのが現実的だろう。
 無策のまま、あるいは付け焼刃的な対応で入試改革元年を迎えると、環境変化に向き合わない大学、高校の改革を受け止めてくれない大学として高校や受験生から背を向けられ、厳しい市場で取り残されることになりかねない。


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