「THE大学ランキング 日本版」の評価指標-多様なステークホルダーによる評価

●THEの国別ランキングではその国の高等教育事情をふまえた指標を設定
●入学者の学力だけでない多面的評価を行い、国際性の促進も重視
●高校教員、企業の人事担当者の評判調査を導入

このほど発表された「THE世界大学ランキング 日本版」は大学合格者の学力のみによる大学の評価を変えるべく、多様なステークホルダーの視点を通して教育力を評価する指標を導入している。大学選びに影響力を持つ高校教員の評判調査など、日本の教育事情に即した評価指標について詳しく解説する。
*「THE世界大学ランキング 日本版 2017」の結果はこちら
http://between.shinken-ad.co.jp/univ/2017/03/THE-japan.html
*「THE世界大学ランキング 日本版 2017」についてのTHE、およびベネッセコーポレーションの説明と評価はこちら
http://between.shinken-ad.co.jp/univ/2017/03/THE-japan02.html


●アメリカ版のアウトカム重視に対し日本版はリソース重視

 THEが今後力を入れる国別大学ランキングでは、その国の高等教育事情をふまえて評価指標の選択と重みづけを行い、環境変化に合わせて修正を加えていく。
 日本版では2016年9月に発表された「THE大学ランキング アメリカ版」と同様に教育力が重視され、両国間での比較が可能になるよう大きな枠組み(分野)がそろえられた。ただし、アメリカでは留年や退学が多く、教育ローンの負担の下で高等教育の費用対効果に対する関心が高いという国内事情を反映し、「6年間での卒業率」「卒業生の給料」「ローン返済率」などを指標として採用。これら「アウトカム」分野の比重を最大の40%にした。日本ではアウトカムに対する関心がアメリカほどには高まっておらず、大学によるデータ整備が十分ではないケースもあるため、「教育成果」は20%。一方で、すべての評価指標に影響を及ぼす「教育リソース」の比重を最大の38%にし、最も多くの項目を設定した。
 両者の評価指標の対比は表1の通り。

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 今回の日本ランキングでは、大学合格者の学力というほとんど唯一の指標によって大学が序列化される現状を変えようと、多様なステークホルダーによる評価軸が取り入れられた。実態として広く参照されている大学合格者の学力も指標として組み込みつつ、大学の入り口と接続する高校、出口と接続する企業等による教育力評価を導入。「日本の大学は国際性の面で他国に大きく遅れをとっている」(THE編集長のフィル・ベイティ氏)という問題意識の下、国際性を促すための指標も取り入れた。
 その結果、評価指標は「教育リソース 38%」「教育満足度 26%」「教育成果 20%」「国際性 16%」の4分野で構成され、各分野の指標が計11設定された。各指標のデータソースは表2の通り。

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●高校教員の評判調査では全大学の9割にあたる大学の名前が出現

 以下、分野ごとに各評価指標を説明していく。

分野1 <教育リソース 38%>

①学生一人あたりの資金(10%)
  ②と共に教育環境の充実度を示す指標として使用。
 経常収入÷在籍学生数
 在籍学生数は学部、修士課程、博士課程、専門職学位課程の合計。
②学生一人あたりの教員数(8%)
 一方通行の講義型からアクティブラーニング型へと授業の転換が求められる中、学生に対するきめ細かい対応ができる環境を評価する。
 専任教員数÷在籍学生数
③教員一人あたりの論文数・被引用回数(7%)
 研究の卓越性が教育に還元されるという観点から、エルゼビア社のデータベースを使って論文の生産性と質を評価する。
 論文数・被引用回数(2011年-2015年)÷専任教員数
④大学合格者の学力(6%)
 「どのような学力レベルの学生と共に学ぶ環境か」を教育リソースとして捉える。
 ベネッセ総合学力テストにおける大学合格者の学力(2015年度)を使用。
⑤教員一人あたりの競争的資金獲得件数(7%)
 大学が自ら獲得している競争的資金獲得件数から教育環境の充実度がわかる。
 文科省管轄の競争的資金の大学別獲得件数÷専任教員数

分野2 <教育満足度 26%>

⑥高校教員の評判調査:グローバル人材育成の重視(13%)
 ⑦と共に、高校教員が、大学に送り出した卒業生から情報を集めて教育満足度に関する情報を持っていることに着目して指標化。進路指導における影響力が大きいため、13%の重みづけをした。調査概要は表3を参照。
 「グローバル人材育成に力を入れている大学」を最大15校挙げてもらい、大学ごとの得票数を合算。
⑦高校教員の評判調査:入学後の能力伸長(13%)
 「生徒の力を伸ばしている大学」を最大15校挙げてもらい、大学ごとの得票数を合算。
 全大学数の89%にあたる大学の名が挙がった。

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分野3 <教育成果 20%>

⑧企業人事の評判調査(7%)
 日経HRの「企業人事担当者による大学のイメージ調査(2015年)」のデータを使用。
 企業人事に対する大学イメージ調査において、多様な力を側面別に聞いている国内唯一の指標として採用した。調査概要は表3を参照。
 調査内容は次の通り。全上場企業を対象に、2014年4月~2016年3月の新卒採用で正社員として採用・入社した実績のある大学を人数の多い順に10校まで挙げてもらった。各大学について、「学生のイメージ」(「熱意がある」「コミュニケーション能力が高い」等12項目)に関して「非常にあてはまる」~「まったくあてはまらない」の6段階評価をしてもらい、各項目の獲得点数の平均値を合算。
⑨研究者の評判調査(13%)
 大学の実情を熟知している研究者の評判を重視し、項目単位の比重としては最大、高校教員評判調査の2つの指標と同じ13%にした。
 THEが世界ランキングのために世界の研究者を対象に実施した評判調査の結果から、日本の研究者が日本の大学について評価したデータを抽出。調査概要は表3の通り。
 「日本で素晴らしい教育をしていると思う大学」を6つ挙げてもらい、大学ごとの得票数を合算。

分野4 <国際性 16%>

⑩外国人学生比率(8%)
 ⑪と共に、日本の大学の課題であるグローバル化を促すために、学内の多様性確保の状況を評価する。
  在籍外国人学生数÷在籍学生数
⑪外国人教員比率(8%)
  在籍外国人教員数÷専任教員数

●教育リソース以外の比重を徐々に上げ、国際通用性を高める

 以上、11の指標について0~100のスコアで評価し、それぞれの比重に応じて合計したスコアで総合ランキング、分野別ランキングを作成した。
 次の条件のいずれかに当てはまる大学は、評価対象から除外された。
・THEのデータコレクションポータルサイトに入力しなかった大学
・ベネッセからの調査(協力:日経リサーチ)に回答していない大学
・資金、学生数に関するデータが入力されていない大学
・認証評価を受けていない大学(THEは日本の大学の教育力の高さを「認証評価制度」が保証していると考えているため)

 今後は、大学合格者の学力を含む「教育リソース」の比重を徐々に下げる一方、他の3分野の比重を徐々に上げて他国のランキングとの比較を可能なものにし、国際通用性を高める方針だという。次年度のランキングについては、「学生満足度」の分野で学生調査の導入をめざす。