2017.0207

東京での新増設抑制の是非を検討する有識者会議が初会合

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●大学、自治体、企業等の委員13人で構成、5月に中間まとめ
●「留学を推進する一方で地元進学推奨は疑問」との指摘も
●保護者代表からのヒアリングも予定

東京での大学・学部の新増設抑制をテーマの一つとする「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」の初会合が2月6日、都内で開かれた。「東京の大学の収容力増大には歯止めが必要」「地方大学の魅力を高めることのほうに力を入れるべき」という両論が展開された。
事務局の資料はこちら
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/daigaku_yuushikishakaigi/h29-02-06.html


●東京の大学・学部の地方移転も検討

 有識者会議は、大学関係者や自治体首長、企業トップなど13人で構成。鎌田薫早稲田大学総長、黒田壽二金沢工業大学総長、原田博史岡山短大学長、石橋良治島根県邑南(おおなん)町長、御手洗瑞子(たまこ)気仙沼ニッティング代表取締役社長らが委員で、坂根正弘コマツ相談役が座長、増田寛也東京大学公共政策大学院客員教授が座長代理を務める。
 山本幸三地方創生担当大臣の下、非公開で開かれ、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部に事務局が置かれる。文部科学省はオブザーバーとして参加し、新委員の下で2月から始まる中央教育審議会の議論も報告する。
 進学や就職に伴う若者の移動の観点から東京一極集中の是正について検討する。地方大学の振興を図るうえで、東京での新増設抑制のほか、東京の大学・学部の地方移転(サテライトキャンパス等)も議題とする。5月中旬まで6回の会合を重ねて基本的な方向性を中間報告にまとめ、予算を伴う事業を次年度予算に反映する。新増設の抑制等、制度面に踏み込む場合には引き続き議論する。

●2020年目標値「自県進学率36%」に対し、2016年は32.2%

 初会合では、事務局から都道府県別の大学進学者数、大学入学定員、大学入学者数や私立大学の入学定員充足状況等のデータを提示。「まち・ひと・しごと創生総合戦略2016改訂版」では、成果指標として「自県の大学に進学する者の割合(東京都を除く全国平均)」の2020年目標値36%を掲げており、2016年実績値は32.2%となっている。
 こうしたデータをふまえ、委員が意見交換を行った。
 閉会後の事務局の説明によると、東京での新増設抑制については、「かつての工場等制限法のように東京の大規模施設を地方に移すことは難しいが、少なくとも大学の新増設を抑制する制度は考えるべき」「自県進学率をもっと上げる必要がある」といった賛成意見のほか、「地方大学の魅力を高め、地域密着の教育によっていい人材を育てる一方、いい雇用を生み出すことによって、若者が地元にとどまったり戻ってきたりするしくみを整えるほうがよい」との慎重論も出た。「政府を挙げて学生の海外留学を推進する一方で、国内においては地元にとどまらせようとするのは矛盾が大きい」「たくましい人材を育てるには、むしろ地元を離れて切磋琢磨する環境に飛び込むよう推奨すべき」という意見も聞かれた。

 2回目以降は大学や自治体、産業界からのヒアリングを行う。進学や就職における保護者の影響力が大きくなっている現状をふまえ、3回目にはPTA団体等からも意見を聞く予定だ。

 2015年に文科省が定員管理の厳格化を決めた際、都市部の大学の肥大化に歯止めをかける目的で、定員充足率による規制だけではなく、地域を指定して定員増を認めないようにする措置も検討した。しかし、工場等制限法の復活ともいえる規制は時代に逆行すると考え、見送った経緯がある。今回も同様の考え方から、東京での新増設抑制は難しいのではないかとの見方が大学の間にある。
 ただ、今回は「地方創生」という政権の重要課題の下、政治主導で会議が設置された面も多分にあり、今後の行方は不透明だ。会議を通して抑制に現実味が出てくれば、東京で新増設の計画がある大学が前倒しで踏み切るといった動きも出てきそうだ。