2016.1101

文科省「私立大学振興検討会議」で10年連続志願者増の福岡工大が報告

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3行でわかるこの記事のポイント

●福岡工大では3年ごとの経営計画が予算、各部門の行動計画と連動
●経営計画の策定過程で全学に情報公開し、意見を求める
●学生募集のV字回復は改革着手の10年後から

文部科学省の有識者会議「私立大学等の振興に関する検討会議」の第8回が10月24日、都内で開かれた。「学校法人の経営強化」を議題に、地方の小規模大学3校が、それぞれ経営のPDCAサイクル、地域との連携、地域における大学間連携について報告。PDCAサイクルの下で経営強化、財務面の体質強化に取り組み、2016年度まで10年連続で志願者が増えた福岡工業大学の報告を中心に紹介する。
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●経営理念と行動規範を全スタッフで共有

 福岡工業大学の改革について報告したのは大谷忠彦常務理事。
 同大学は1963年創設で、工、情報工、社会環境の3学部があり、入学定員は計915人。「For all the students ~すべての学生・生徒のために」という経営理念、「Just Do It!(速断実行)」という行動規範を「警備や清掃のスタッフ含め、全学で浸透させるよう努めている」という。
 大学の課題に関する意思決定は、学長が議長を務め、常務理事や事務局長、教学部長職が構成員となる運営協議会でなされ、教学・経営両面の視点から調整して迅速に結論を出す。
 1998年から7次にわたる中期経営計画「マスタープラン(MP)」を策定してきた。MPは5年間の計画だが、3年ごとに見直すため実質的には3年計画となっており、環境変化へのスピーディな対応が可能だ。
 MPの策定は「組織・総合力の重視」「全員参画、合意形成」を原則とし、会議には教職員が自由に陪席して意見や質問も出せる。速報や議事録を全学に配信し、MPの素案も全学に公開して意見を求める。計画が固まってから浸透を図るのではなく、策定過程で浸透させ、固まったらすぐに取り組める当事者意識を醸成していく点がポイントと言えそうだ。MPと連動する中期財政計画も立てられ、財政的な裏付けのある経営計画である点も注目される。
・各部門はMPに基づいて単年度のアクションプログラム(AP)を策定し、予算を申請。予算審査会にかけられる(Plan)。
・部門ごとにAPの下で業務を遂行し、予算を執行(Do)。
・半期、および通期ごとにAPレビュー報告会と予算実績報告会で取り組みを評価する(Check)。
・各部門は、評価をふまえて改善に取り組み、次期予算を編成する。(Action)

●専門の部門を置かずにIRを機能させる

 このように、全学のMPを部門のAPに落とし込む仕組みとPDCAサイクルが、予算とのリンクの下で確立されている。このサイクルに、適正な評価のためのデータを管理する「調査分析IR」、取り組みの成果を広報や認証評価に活用する「情報公表IR」が関与。IR部門は置かず、経営企画や総務等の部門がこれらの機能を担う。
 MPを策定するようになってからもしばらく学生募集での効果は現れず、第2次MP期間中の2002年度からは5年連続の志願者減。しかし、改革着手後約10年となる2007年度から一転し、2016年度まで10年連続の志願者増となった。この間に教職協働が定着。格付け会社のR&IとJCRから、それぞれ連続して「A」「A+」の格付けを取得した。
 福岡工業大学の報告を受け、企業から加わっている検討会議委員は「PDCAの回し方が企業並み」とコメント。他の委員からは、企業出身の大谷常務理事の改革手法に関心が示された。
 会議ではほかに、松本大学の小倉宗彦常務理事・法人事務局長と北陸大学の小倉勤理事長・学長が報告。
 松本大学の小倉常務理事は、「地域の教育力を取り入れる教育手法」について紹介。GP等、文科省の競争型資金の補助事業に相次いで採択されたことが教職員の自信と意欲、教職協働につながったと説明した。一方で、こうした補助事業は制約が多く、申請や取り組みが難しい面もあると述べた。
 北陸大学の小倉理事長・学長は、県内全ての高等教育機関が参加する「大学コンソーシアム石川」の取り組みを、自学独自の地域連携と合わせて紹介した。文科省の競争型資金の補助事業は助成期間終了後の継続性が課題であり、そこの計画も含めて審査すべきだと指摘した。

 次回は11月10日(木)10時から三田共用会議所で開かれる。