2016.0817

私学事業団の定員充足状況調査と定員拡大の動き

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3行でわかるこの記事のポイント

●定員割れの大学は7校増えて257校に
●入学定員800人未満の7区分はすべて定員割れ
●定員管理の考え方は大学ごとに異なっていくと予想される

日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)がまとめた調査結果によると、2016年度の私立大学全体の入学定員充足率は104.4%で、前年度から0.6ポイント下がった。都市部、大規模大学への学生の集中が鮮明になる中、これらの大学が定員をさらに拡大する動きが起きている。
調査結果はこちら
http://www.shigaku.go.jp/files/shigandoukou283.pdf


●入学定員800人が充足/定員割れの分岐点

 この調査では、私立大学577校の入学定員や志願者数、入学者数などを集計し、分析している。
 定員割れした大学は全体の44.5%にあたる257校で、前年度より7校増えた。   

 21のエリア別で見ると、2015年度は前年度より充足率が下がったのは3エリアだったが、2016年度はこれが12に増えた。充足率が3.3ポイント下がり98.1%になった関東(埼玉、千葉、東京、神奈川を除く)はエリア全体で入学定員が200人増えたのに対し、入学者は149人減った。3.0ポイント下がり97.9%になった甲信越は入学定員が130人増え、入学者は33人減った。充足率が90%を切っているのは東北(宮城を除く)88.6%、四国88.5%。大都市部の定員充足率は、東京109.0%、愛知104.9%、京都105.4%、大阪106.5%などとなっている。

 入学定員規模による11の区分ごとの定員充足状況を見ると、例年同様、入学定員800人が分岐点となっている。800人未満の7区分(416校)はすべて定員割れで、800人以上の4区分(161校)はすべて充足している。100人未満の大学は、全体で入学定員を1割近く減らして充足率は前年度より3.2ポイント高い98.1%になった。私学助成を受けるため、実際の入学者数の規模に合わせて定員を減らして充足率を上げたケースもあると推測される。超小規模校でこうした動きも見られるが、全体で見ると、都市部、大規模校に学生が集中して地方、小規模校が定員割れに苦しむという状況が進行している。

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●2017年度の定員増は今年度の2.5倍規模に?

 こうした状況の下、私学助成が不交付となる入学定員超過率を徐々に引き下げる定員管理厳格化を受けて、大規模校を中心に定員を増やす動きが活発化している。従来通りの数を受け入れても定員を広げておけば超過率を抑えて助成が受けられ、学費収入も減らないというわけだ。

 2017年度の収容定員増は、今年3月の44大学からの申請分7354人が全て認められた。6月に20大学が申請した2058人も全て認められると計9412人となり、これは2016年度の収容定員増の2.5倍以上の規模だ。進研アド改革支援室の加藤雄次主席研究員は、「3月申請分では、過去4年間、毎回出ていた保留もゼロで、定員増については従来の準則主義を維持する文科省の姿勢が見てとれる」と話す。
 大規模校の定員が増えて学生の集中が進むと小規模校の学生募集はますます厳しくなるが、加藤研究員は「定員を増やした大学も、定員管理においてこれまでとは全く違う判断を迫られるようになる」と指摘する。「私学助成や学費など収入の面で言えば、大学ごとにさまざまな戦略があり得る。2019年度からは、定員遵守のインセンティブとして5%以内の定員割れなら助成金が上乗せになるので、大規模校の場合、超過率0.95倍で助成金上乗せのほうがいいとの判断もあるだろうし、定員超過で助成金が減額や不交付になっても、学納金を多く確保するほうがいいと考える大学もあるだろう」。大規模校がどのような戦略をとるかは、エリア内の他大学の学生募集にも影響を及ぼすことになる。 

 特に大規模校における定員管理は、教育の質の担保という面でも、従来以上に教育に対する大学の考え方、戦略が問われるようになるだろう。