2022.1206

首都圏の3大学が各地で高校教員との情報交換会を開催、接続強化を図る

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●千葉工業大学が単独実施の手応えから桜美林大学、東京農業大学との共同開催へ
●新学習指導要領への対応で悩む本音も語り合い、高大連携の可能性を探る
●相互理解を深め、各大学がエリアごとに連携のパートナーを新規開拓

千葉工業大学、桜美林大学、東京農業大学は互いに連携して、全国各地で地元の高校と情報交換をする「高大接続研究会」を開いている。新学習指導要領の下での「情報」をはじめ各教科・科目や探究学習の指導状況、各大学の入試におけるこれらの科目等の取り扱いについて理解を深め合う。学生募集環境が厳しさを増す中、高校との相互理解と連携による高大接続を図り、安定的でミスマッチのない学生確保につなげるねらいもある。


●4か月間で7都市の高校教員と懇談

 千葉工業大学、桜美林大学、東京農業大学の3校を中心とした「高大接続研究会」は、2022年8月の仙台を皮切りに11月下旬まで、函館、大宮、大阪、宇都宮、高崎、つくばの各市で開かれた。年内に広島でも開催を予定している。他大学にも参加を呼びかけ、全6校前後で臨むことが多い。国立の福島大学が準レギュラーとして加わり、高校の参加促進にもつながっている。東京家政学院大学も複数回参加した。
 ベネッセコーポレーションなど、教育関係企業の協力を得て地元の高校に研究会を告知し、参加者を募集。5校前後から主に進路指導担当者が参加する。
 研究会では高校から、新学習指導要領の下での「情報」や探究学習の授業運営の状況、観点別評価への対応等について話を聞く。大学側も、自学の入試で「情報」をどう扱うか、探究学習支援としてどのようなプログラムを設けているかを説明し、高校から意見や要望を聞く。
 その後、各大学が10分程度のプレゼンテーションを行い、教育の特色、高大連携の取り組み、入試等について紹介。高校が大学から詳しい情報を得るための、個別相談の時間も設ける。

●自らの意思で参加する問題意識の高い高校教員に出会う

 「高大接続研究会」は、2022年6月に千葉工業大学が名古屋市で単独で開いた高校との情報交換会が発端になっている。首都圏の大学に関する情報ニーズの高さを感じた同大学入試広報部の日下部聡部長は、「他大学と共同で開催すれば、より多くの高校に参加してもらい、高大双方にとって有意義なコミュニケーションができる」と考えた。そこで、共通の知人を通じて桜美林大学入学部の高原幸治部長、東京農業大学入学センターの小林順センター長に提案し、3大学を中心とする会を各地で展開することになった。
 各大学は独自に高校訪問も実施している。しかし、地方での合同大学説明会等の機会を捉えて地元の高校を訪問しても、短時間の形式的な表敬訪問になりがちだという。また、会えるのは主に進路指導担当者で、提供した情報をクラス担任や学年団に伝えてもらえないことも多いようだ。
 しかし、複数の大学が連携すれば、それぞれのネットワークを活用し合うことによって、各地で、自らの意思で足を運んでくれる意識の高い高校教員に会える。3大学の入試担当者はそう考えた。複数の高校からまとめて話を聞くことができれば、個別の取り組みに加え、エリアごとの固有の背景や指導傾向もつかむことができ、それを学生募集戦略に反映できる。

●自学のプログラムに興味を示す高校と継続的な関係を構築

 東京農業大学の小林センター長は「高大接続研究会」に期待することを次のように語る。「ひざを突き合わせるような雰囲気の中で、大学と高校、それぞれが知りたいことを忌憚なく質問し、本音で答える。大学に対する高校側の要望も遠慮なく出してもらい、各大学にできることを考える。そういう実のあるコミュニケーションを通して、それぞれの大学がエリアごとに高大連携のパートナーを見つけ、新たなネットワークをつくっていければ」。
 今後、学力で受験生をふるいにかけることができず、全入で受け入れざるを得なくなった時には、高校での学びを把握したうえで自学の学びとの相性を見極める高大接続型の入学制度によって、入学者の質を担保することになるだろう。このような入学制度を機能させるためには、大学が高校と個別につながり、相互理解を深めることが欠かせない。取り組みの背景には、そんな考えもありそうだ。
 桜美林大学の高原部長は「本学は、高大接続プログラム『ディスカバ!』や改組、カリキュラム改革などで全入時代への備えを進めているが、これらの情報はなかなか高校現場に浸透しない。研究会を通して問題意識の高い高校教員とのネットワークを構築したい」と話す。「ディスカバ!」で展開している探究支援プログラムの実施校を拡大したいとの期待もある。「地方の私立高校は、上位大学受験やスポーツ推薦をめざす生徒以外の中間層の意欲を引き出す指導に悩んでいることがわかってきた。毎回、そのような高校の先生が本学のプログラムに興味を持ってくれ、何校かは継続的に連絡し合う関係ができつつある」。

●高校側が「探究」の悩みを吐露、大学との連携に対する期待も

 11月22日につくば市で開かれた「高大接続研究会」には、中核となる3大学に加えて福島大学、成蹊⼤学、東京⼯科⼤学が参加。対する高校側は県立3校、私立3校から計8人の教員が参加した。
 トークセッションでは、高校から「情報」の授業について、「担当できる教員が2人だけで、何とか回している状態」「『情報Ⅱ』まで教える学校は、私立だとほとんどないのでは」といった状況が報告された。一方、大学側は入試における「情報」の扱いについて、「共通テスト利用方式では選択科目にする方向で検討中。当初は独自試験でも課したいと考えたが、質を担保した問題を継続的に作ることは難しいとの結論に達した」(千葉工業大学)、「高校から『指導できる先生がいない』と聞くことが多く、公平性の観点から入試科目に加えるのは難しいと考える一方、ICT教育を標榜する本学ならではの理念もある。今しばらく検討を深めたく、年度末前後に公表の予定だ」(東京工科大学)など、悩みながら議論を進める状況を率直に語った。
 探究学習については、進展度に差はあるものの、どの高校でも取り組みが始まっていることがわかる報告がなされた。その一方、「指導する教員の力量の差が大きく、一部の教員に負担がかかっている」「単なる調べ学習に終わりがち」と漏らす高校教員も。「プレゼンテーションの評価者として大学の先生を招いている」「大学の出張講義を組み込んでいきたい」など、高大連携による探究学習の充実に期待する声も聞かれた。
 明秀学園日立高校で特進推進部長を務める綿引隆教諭は「大学は、高校の探究学習でどんな手法でどんな力をどこまでつけてほしいと考えているのか、知りたい。さらに、大学がそれを受けて4年間でどう育てようとしているのかまでわかれば、高校の授業が設計しやすくなる。総合型選抜を通じた大学との接続も円滑になるだろう」と提起した。

●高校教員は、研究会で得た情報を進路面談で生徒にフィードバック

 綿引教諭は研究会2日後の進路面談で早速、生徒に成蹊大学と桜美林大学の情報を提供した。「国公立大学や上位私立大学をめざして自分で頑張れる生徒はそれでいい。一方、人柄や熱中できることにそれぞれ光るものがあるが、必ずしも学力にはつながらない生徒もいる。そんな生徒の可能性を引き出し、伸ばしてくれる大学を一つでも多く知っておき、紹介したい。今回のような学生募集の前線に立つ方々の率直な言葉が聞ける研究会は、とても有意義だった」と振り返る。
 千葉工業大学、桜美林大学、東京農業大学は今年度の「高大接続研究会」の試行実施をふまえ、次年度からは各地で年2回程度、定期的に開催したい考えだ。
 国立大学を含め、年内入試シフトの動きが顕著になる中、大きな流れとしては「高大連携による接続型の入学制度」に向かうと考えられる。3大学の取り組みはこの流れを先取りするものであり、今後、他大学の動きにも影響を与えそうだ。