2022.0912

英語4技能評価、記述式、高大接続型など入試の好事例を紹介-文科省

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3行でわかるこの記事のポイント

●入試のあり方検討会が推進を求めた5つの観点ごとに選定
●「高校での学びと入学後の学びのつながりがあるか」も評価の観点に
●私立大学からは東洋、藤田医科、東京電機の3大学が選ばれた

文部科学省は2021年度入試で実施された各大学の入試方式の中から、他大学の参考となる「好事例」を選定して公表した。英語4技能の評価や記述式問題による思考力・表現力の評価を独自の手法で行うもの、高大接続を重視する育成型の入試など、18件が紹介されている。
*文科省の発表はこちら
*記事内の図・表はいずれも文科省の発表資料から引用
*参考記事
英語4技能、多様な背景の学生受け入れで新項目-改革総合支援事業(Between情報サイト)


●選定数は国立大学12件、公立大学2件、私立大学4件

 入試の好事例集の作成は、「大学入試のあり方に関する検討会(以下、「入試のあり方検討会」)が2020年7月にまとめた提言の中で打ち出された。英語4技能評価や記述式問題の出題等において、他大学の模範となる先導的な取り組みを促すことが目的だ。


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 大学・短大から自薦で申請を受け付け、大学と高校の教員を中心とする選定委員会が審査。
 選定にあたっては、入試のあり方検討会が推進を求めたことをふまえ、「ア 総合的な英語力の評価・育成」「イ 思考力・判断力・表現力の評価・育成」「ウ 多様な背景を持った学生の受け入れへの配慮」「エ 高校との連携をはじめとする高大接続改革の推進」「オ 文理融合の推進やその他の好事例」という5つの観点を設定。
 さらに、学力の3要素を適切に評価し、高校での学びを大学での学びにつなげる入試を重視するという考え方から、
・求める能力やその測定方法を明示し、高校で取り組むべき学習や活動を説明しているか
・求める能力を実際に測定できていることを示すエビデンスがあるか
・マンパワーを含め、無理のない体制・仕組みになっているか
・新規性・先進性、他大学にとって参考になる工夫があるか
・入試前後の教育を含め、高校での学びと入学後の学びが有機的につながっているか
といったことを確認事項とした。
 これらの観点・確認事項に基づき、84件の申請の中から18件を好事例として選んだ。5つの観点別の選定件数は次の通りで、1つの入試が2つの観点に該当するケースも複数ある。

ア 総合的な英語力の評価・育成 4件
イ 思考力・判断力・表現力の評価・育成 7件
ウ 多様な背景を持った学生の受け入れへの配慮 3件
エ 高校との連携をはじめとする高大接続改革の推進 6件
オ 文理融合の推進やその他の好事例 0件

 選定された大学と入試は下表の通り。国立大学12件(コンソーシアム1件を含む)、公立大学2件、私立大学4件(2件の入試が選定された1大学を含む)で、国立大学の多さが目立つ。

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●記述式問題の採点時間を短縮する工夫も

 以下、好事例に選ばれた入試の概要を観点ごとに紹介する。

ア 総合的な英語力の評価・育成
 小樽商科大学は2021年度開設の主専攻プログラム「グローカルコース」の学生を選抜するため、総合型選抜「グローカル総合入試」を新設。募集人員は学部全体の約4%にあたる20人。1次選抜は、英語による志望理由書や学習計画書、および英語外部検定の成績等で総合的に評価する。2次選抜では英語を主体としたグループディスカッションと口頭試問を行う。この入試の合格者から選抜し、入学前に留学に送り出すギャップイヤープログラムも実施する。
 東京外国語大学は国際日本学部の一般選抜で、イギリスの公的な国際文化交流機関「ブリティッシュ・カウンシル」と共同開発した学習指導要領準拠の英語スピーキングテスト「BCT-S」を実施。採点はブリティッシュ・カウンシルが行い、上級採点官によるモニタリングによって質を保証する。2022年度入試では約1500人分の解答を約3日間で採点した。同大学はスピーキングテストの得点は他の3技能の総合点との相関があまり高くないと説明、スピーキング力を単独で測定する意義を示している。
 東洋大学は全13学部の一般選抜で、出願時に申請すれば外部検定のスコアの提出を認め、個別試験の英語の得点として換算する。検定を活用する場合は入試の検定料を約43%減額。家庭の経済状況による外部検定活用状況の格差に配慮した措置だろう。申請者が個別試験の英語を受けることも可能で、その場合は高得点の方を採用する。

イ 思考力・判断力・表現力の評価・育成
 この観点には一時、大学入学共通テストでの導入が検討された記述式問題の出題を含む。
 藤田医科大学は医学部の総合型選抜「ふじた未来入試」と一般選抜の英語と数学に記述式を導入。大問ごとにマークシート方式と記述式に分け、マークシート方式の得点が基準に満たない場合は不合格とし、記述式の採点をしない。これにより、記述式の採点時間は全ての答案を採点したときの半分程度に短縮できるという。募集人員は総合型選抜が全体の12.5%にあたる15人、一般選抜が全体の75.0%にあたる90人。同大学は「採点の効率化により、記述式の出題数の増加、高度な問題の出題が期待できる」としている。
 ⾧崎大学は県高校進学指導研究協議会、県教育委員会と共同で記述式問題の作問研究を実施。成果をふまえ、全学部の一般選抜の英語・数学・理科で高度な記述式問題を出している。募集人員は全体の約63%にあたる1038人。公表された英語のサンプル問題は、「スマホ依存の若者を救うためのアドバイス」を英文で読み、自分の意見を200語程度の英文にまとめるという内容。高校との協議で難易度を最適化でき、高校の学習指導のノウハウを採点基準や採点方法の参考にできるという。
 
ウ 多様な背景を持った学生の受け入れへの配慮 
 入試のあり方検討会では年齢、国籍、家庭環境、障害の有無、居住地域、性別など、多様な背景を持つ学生を積極的に受け入れる必要性が強調された。
 東京電機大学は総合型選抜、東洋大学は学校推薦型選抜で、いずれも昼間は学内で働き、夜間に学べる検定料免除の入試制度を設けている。東京電機大学は数学の筆記試験を課し、一定の学力を担保。面接では志望学科で学ぶための適性と学生職員としての適性を確認し、学習意欲、就労意欲とも高い学生を受け入れているという。東洋大学は、地理的な受験機会格差の是正策としてオンラインによる受験も可能にしている。授業料等の半額相当額を4年間免除し(毎年度の継続審査あり)、希望すれば提携学生寮への入居も可能だ。
 福岡県立大学は2022年度入試から看護学部で、全国の児童養護施設の入所者を対象にした「推薦特別選抜」を導入する。検定料・入学料を免除し、大学寮への入寮を希望する場合、最初の2年間は寮費(光熱費等は除く)を免除する。

エ 高校との連携をはじめとする高大接続改革の推進
 北海道大学は医学部医学科と水産学部の総合型選抜の1次選考で、高校教員によるコンピテンシー評価を導入した。募集人員は全体の約9%にあたる25人。学力の3要素それぞれに大学が設定した評価項目について、複数の教科や部活動等の担当教員がルーブリックに基づく段階評価を行い、ウェブシステムで登録する。求める能力や資質について、調査書からは読み取れない部分を、生徒の日常の様子をよく知る高校教員に評価してもらおうという発想だ。評価の根拠資料の提出も求め、妥当性が認められない場合は評価点を補正する。

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 金沢大学は全ての学域で、大学が開講する「KUGS高大接続プログラム」の修了を出願資格とする総合型選抜、学校推薦型選抜、英語総合選抜「KUGS特別入試」を導入している。募集人員は全体の約10%にあたる172人。プログラム受講者は、高校での各種活動に関する課題レポートと大学での学びを考える課題レポートを提出。課題の評価結果を通知するやり取りを通し、入学までに不可欠な資質・能力や意欲の成⾧を促す。評価基準を満たした修了者にKUGS特別入試試への出願を認め、口述試験や小論文、総合問題等による選抜を行う。選定委員会からは、高校生が自力で取り組めるよう課題レポートの作成方法やルーブリックを公開していることなどが評価された。

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 宮城大学の「総合型選抜」(高校から大学への「架け橋」となる入試)については本サイトで別途、詳しく紹介する予定だ。
 このほか、奈良女子大学「探究力入試『Q』」島根大学「へるん入試」なども選定された。

オ 文理融合の推進やその他の好事例 
 複数科目にわたる横断的な出題をする入試などが想定されているが、今回は「該当なし」だった。

●2022年度版は年度内のとりまとめをめざす

 文科省は今回の好事例集を「試行的な選定」と説明。調査項目や選定の観点を見直したうえで、2022年度入試についても好事例を選定する。8月末に申請を締め切り、年度内のとりまとめをめざしている。
 2021年度版については、入試の成果検証に関する情報が少ない、判定基準が公開されていない等、好事例としての適否の判断が難しいケースも目立ったようだ。2022年度版ではこれらの問題が改善され、より充実した「参考になる好事例集」となることが期待される。