2022.0801

東京都市大学が探究学習を支援、受講証明書を総合型選抜の出願にも活用

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3行でわかるこの記事のポイント

●学科ごとに課すミッションに高校生が取り組み、3か月間の成果を発表
●オープンキャンパスとは一線を画し、アカデミズムに触れる機会に
●高校教員に趣旨と成果を発信し、探究に積極的な高校との連携を図る

東京都市大学は2022年度から、高校の探究学習を支援し、受講実績を総合型選抜の出願にも活用できる高校生向けプログラムをスタートさせた。探究活動を通じて自学の教育に対する高校生の理解を促す一方、高校との連携を強化。入試との接続によって入学者の多様化も図りたい考えだ。


● ほぼ全学科が参加して17のテーマを設定

 東京都市大学(東京都世田谷区)は理工、建築都市デザイン、情報工、環境、メディア情報、都市生活、人間科学の7学部に17学科を置く。現在の学生数は約8000人。2022年度にはデザイン・データ科学部を新設し、8学部体制になる。
 同大学が高校の全学年を対象に2022年度から始めた探究学習支援プログラムは「OPEN MISSION」。オープンキャンパスの語感に近づけ、受験生向けイベントとしてイメージしやすいネーミングにした。各学科が提示するミッション(課題)に取り組み、中間報告をはさんで成果を発表してもらうという内容だ。
 ほぼ全学科が参加して17のテーマを設定し、大学のウェブサイトでそれぞれ約5分間の動画を公開。テーマ解説と取り組みのヒントを説明したうえでミッションを課した。あえて学科名を出さず、「地球外に生命がいる惑星を探す」「ドローンでイノベーションを起こそう」「まちの『ならでは』を探究しよう」など、高校生の知的好奇心に訴えるテーマを設定した。

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 参加者は5月に公開されたこれらの動画を視聴したうえで、取り組むテーマを選び参加登録を行った。6月下旬、キャンパスで中間発表とグループワークを実施。引き続き個人ワークに取り組み、8月上旬に成果を発表する。

●マーケットのトレンド、政策、データに基づいて募集戦略を提案

 OPEN MISSION は、入試部が「学生募集マーケットのトレンド」「政策」「自学のデータ」について、次のような情報を全学に共有したうえで提案した。

<学生募集マーケットのトレンド>
18歳人口の減少に加え従来、大学入試の中心だった一般選抜での入学者は減少傾向にある。
⇒年内入試をオプションとして位置付けるのではなく、むしろ総合型選抜・学校推薦型選抜の重要性を再認識すべき。年内入試ならではの入学者の多様な資質を分析・再評価したうえで、年内入試の志願者層が期待する「大学との関係性の構築」を新しい進学イベントによって実現したい。

<政策>
高校で新課程が始まり探究学習が導入された。高校教育はますます探究的な学びにシフトしていく。
⇒高校現場では過渡期における困惑も見られ、探究学習の指導方法を模索している。大学と連携してそのリソースを活用したいという意向も強く、都市大にも連携や教員派遣に関する依頼が増えている。大学側から先行して探究学習を提供する機会を設けたい。

<自学のデータ>
年内入試の選抜方法の見直しを重ねてきた結果、入試方式と入学後の成績の間に相関はなく、年内入試でも優秀な学生を獲得できていることが判明。年内入試で不合格になった受験生が一般選抜で再受験する割合は低く、入試制度は学生のタイプを仕分ける仕組みになっている。
⇒年内入試には学力の低い層が集まるという先入観は持たず、各入試方式の特性に応じて多様な入学者を受け入れるという考え方にシフトすべき。このことについて教員の理解を深められるよう、教員が高校生と直接コミュニケーションする機会を設けたい。

 こうした説明が学内で理解され、高校の探究学習を支援しながら総合型選抜の出願にもつなげるOPEN MISSION の実施に賛同が得られた。入試部の菅沼直治部長は「本学の教員が年内入試を軽視していた時代は、大学が自ら選抜機能としてのハードルを下げていた面もあった。納得いくデータと理論があれば入試制度は改善できる。今回の新しい試みも、データと理論に基づいて必要性を示したことでスムーズに協力を得ることができた」と話す。

●探究ワーク期間中は図書館の自由な利用を認める

 菅沼部長はオープンキャンパスについて「高校生が大学のキャンパスに気軽に足を運ぶことができるフェスティバル。近年は学校の宿題の一環として参加する生徒も増え、入学の動機づけ以外の目的も持つようになっている」との見方を説明。
 新たなイベントは、一方通行になりがちなオープンキャンパスの模擬授業とは一線を画し、大学のアカデミズムに触れる機会として設計した。事前にミッション(課題)を与え、探究ワーク期間中は図書館を自由に利用できるようにしたのは、そのためだ。
 OPEN MISSION の実施が決まった4月以降、急ごしらえで準備が進んだ。十分な広報ができなかったにもかかわらず、350人の定員に対して約250人の申し込みがあり、入試部は一定の成果だと受け止めている。

●教員と補助学生の力量、参加者のモチベーション、保護者の関心が噛み合う

 6月の探究ワークでは、参加者の中間発表に対して教員や補助学生がコメントしてアドバイスを与えながらグループワークを行った。
 準備期間が短かったこともあり、テーマごとの進行は基本的に各担当教員に任せることになった。教員から苦言が来ることも予想したというが、普段から演習科目や卒業研究指導で探究スタイルを実践している教員にとって、それは杞憂だったようだ。アイスブレイクから始まり、モチベーションの高い参加者を積極的にリード。入試部の小澤亮賀課長は「本学の教員の底力を見せてもらった」と振り返る。サポート役の補助学生も、参加者の学年や理解度に合わせた丁寧な解説と助言でロールモデルの役割を十二分に果たしたようだ。

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 保護者の探究ワークへの同伴は想定されていなかったが、3割ほどの保護者が来場。興味深げにワークシートをのぞきこむ姿も見られたという。
 これらがうまく噛み合い、「しっかり学ばせ、成長させる大学」のアカデミックな雰囲気を存分にアピールできたと、担当者らは捉えている。
 8月の成果発表では各自が最終成果をアウトプット。教員がコメントしたうえで、約3か月間の探究活動に対して受講証明書を授与する。証明書は総合型選抜の出願書類「自己アピール申請書」としても活用できる。取り組んだミッションにかかわらず、どの学部・学科でも出願が可能だ。
 入試部の村上守係長は「OPEN MISSIONは総合型選抜への誘導以上に高校の探究活動の支援を目的としているが、事前の告知が十分ではなかったこともあり、今回の参加者は本学にもともと関心がある3年生が多数を占める。そのため本年度は、参加者の多くが総合型選抜に出願するのでは」と予想する。

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●女子学生獲得の糸口も見出す

 初年度の試行で得た手応えとノウハウを土台に、次年度以降のOPEN MISSIONをさらに充実させたい考えだ。三木千壽学長からは早くも、「ロボットやDXなど、最先端のテーマで各学科の強みをより強力にアピールできるものを」との宿題も。各学科から複数のテーマを出すことも可とし、高校生の興味・関心に広く応える方向で検討する。
 工学系の大学・学部にとって女子学生の受け入れ拡大が共通課題となる中、同大学は今回のイベントの申し込み者の45%が女子だったことにも注目している。2021年度にスタートした文理・分野横断の「『ひらめき・こと・もの・ひと』づくりプログラム」でも、入学者に占める受講希望者の割合は女子の方が高いという。「入試の特別枠や経済支援策が女子獲得の主流になろうとしているが、本学では女子が受けたいと思うプログラムの開発にも力を入れていきたい」(小澤課長)。

●高校教員向けの報告会も視野に

 OPEN MISSION は高校や高校生の探究学習支援を主たる目的とする。今後、イベントに参加せず個人でミッションに取り組む高校生のため、探究ワークの動画を公開する予定だ。
 高校教員に対しても、今回のイベントの趣旨と成果を伝える報告会を秋ごろに開く方向で検討している。菅沼部長は「例年6月に実施している大学説明会よりも効果的な大学紹介になるだろう。高大連携の重要性が増す中、高校の要望に応えて個別にカスタマイズしたプログラムを実施し続けると負担が増える。OPEN MISSIONの規模が拡大していけば、探究学習に積極的な高校と連携し、参加指定枠を設けることなども考えている」と話す。

 データと理論に基づいて入試改革を重ねる方針は、別の形でも具体化されている。理工学部では総合型選抜「学際探究入試」と学校推薦型選抜(公募制)で、さらに新設する「一般選抜(理工系探究型)」でも、教科・科目横断型の筆記試験「探究総合問題」を課す。
 高校教育にリスペクトを払い、尊重し、支援しながら入試での評価にもつなげる。この基本姿勢の下で入試のPDCAを回し続けたい考えだ。