2022.0719

ベネッセ入試結果調査③私大は学校推薦型、総合型とも合格者が1割増

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3行でわかるこの記事のポイント

●国公立大の総合型選抜は募集人員急拡大で志願者増、合格者も大幅増
●次年度は岡山大学、立命館大学などで年内入試の拡大や見直し
●一般選抜中心の高校も年内入試に関心、高大の新たな関係構築のチャンス

ベネッセコーポレーションが独自に収集したデータや情報に基づく2022年度入試結果シリーズ、3回目は年内入試について取り上げる。国公立大学、私立大学ともに、総合型選抜を中心に年内入試の枠の拡大が続いている。これに伴う一般選抜の競争緩和と併せ、高校の進路指導に変化をもたらしつつある。「偏差値以外の軸による大学選びがさらに活発化しそう」との声も聞かれる。

*各データは、特にことわりがない限りベネッセの調査によるもので、大学の公表数値を基にしたデータは5月中旬までに収集・確認できた情報を反映している。
*各データはベネッセの分類・集計によるもので、各大学が公表している数値とは異なる場合がある。
ベネッセ入試結果調査①現役生中心で競争緩和の傾向が続く(Between情報サイト)
ベネッセ入試結果調査②私大の合格率は入定厳格化前より上昇(Between情報サイト)


●国公立大の年内入試入学者は年々増加、昨年度は17年前の1.6倍

 最初に、この20年近くの学校推薦型・総合型選抜の入学者数の変化を見ておく。
 下のグラフでは、国公立大学におけるこれら年内入試による入学者数について、2004年度を100とした指数の推移を示している。年々上昇を続けて2021年度は157になった。

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  私立大学については、全入学者に占める一般選抜と学校推薦型・総合型選抜、それぞれの入学者数の割合をグラフにした。学校推薦型・総合型選抜の入学者は2008年度、過半数に達した後、2015年度から増加を続け、2021年度は58.2%になった。 

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●私立大は学校推薦型、総合型とも募集人員と志願者数は前年並み

 2022年度入試における学校推薦型・総合型選抜の志願動向を見ていく。
 下のグラフは、国公立大学におけるこれらの入試の募集人員、志願者数、合格者数について、2020年度を100とした指数を示している。学校推薦型選抜は募集人員がほぼ横ばいの中で志願者数が減少し、合格者数はほとんど変動していない。総合型選抜は募集人員の急拡大に伴って志願者数が増加、合格者数はさらに大きく増加している。

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 2022年度入試で新たに年内入試を導入したり、見直したりした国立大学には、北海道大学、山口大学などがある。
 北海道大学は工、理、医、歯、水産の理系学部で総合型選抜の「フロンティア入試」を導入。共通テストを課す方式と課さない方式を設け、募集人員を90人増やした。山口大学は教育学部で学校推薦型選抜の募集人員を19人から44人に拡大した。
 私立大学では2021年度入試において、学校推薦型選抜の募集人員を移す形で総合型選抜を拡大するケースが目立ち、総合型選抜の募集人員と志願者数が急増。コロナ禍を背景にした早期の入学者確保で合格者数も増えた。2022年度は学校推薦型選抜、総合型選抜とも募集人員と志願者数は大きく変動しない一方、合格者数の指数はいずれも10ポイント程度、上昇している。

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  早稲田大学社会科学部は2022年度入試の学校推薦型選抜で全国を7ブロックに分け、ブロック単位で合格者を出す方式を導入した。龍谷大学は指定校推薦で共通テストの一部教科の受験を課すようになった。「入学までの学習継続と入学準備の一環」と説明し、合否には影響しないという。

 2023年度入試でも、多くの大学が学校推薦型・総合型選抜の新規導入や変更を予定している。
 本シリーズ1回目で触れた岡山大学の後期日程廃止は、学校推薦型・総合型選抜の募集人員拡大(計98人増)と連動している。京都工芸繊維大学は募集人員90人の「学校推薦型選抜<一般プログラム>」を新設し、総合型選抜の「ダビンチ入試」の枠も拡大する。
 私立大学では、立命館大学は総合型選抜で、経済学部が「数学重視方式」、食マネジメント学部が「プレゼンテーション方式(基礎数学型)」、スポーツ健康科学部が「CREA 方式(課題発見・解決型、数学的素養型)」などを新たに実施。広島修道大学人文学部英語英文学科は小論文と面接を課す学校推薦型選抜(公募・専願)を導入する。

●「外部メディアも活用し、受験生との出会いを広げる努力を」

 高校の進路指導に詳しいベネッセコーポレーション高大接続戦略部の仁科佑一氏は「一部の私立大学が年内入試での入学者確保にシフトした結果、一般選抜は志願者が減少して競争倍率が下がっている。難関私立大学と呼ばれる12大学でも、模擬試験でD判定やE判定だった受験生の合格が増えた。大学入試はコロナ禍以前、合格者が厳しく絞り込まれた入学定員管理厳格化のときとは別のステージに入っている」と指摘する。
 こうした状況が高校の進路指導に変化をもたらしつつある。「進学校では国公立大学や難関私立大学の競争倍率低下のデータを使って十分に合格が狙えることを示し、挑戦を促すだろう。一方で、年内入試をメインにしてきた高校はもちろん、『共通テスト全員受験』という方針で指導してきた一般選抜中心の高校でも、学校推薦型・総合型選抜で受験する生徒が今後も増えるのは間違いない。これまで推薦入試などに興味を示さなかった高校から問い合わせが来るなど、大学にとっては高校との新たな関係を築くチャンスが生まれそうだ。」(仁科氏)。
 偏差値が進路指導の重要な軸であることは変わらないが、別の軸による大学選びがさらに活発化しそうだ。仁科氏は「一般選抜でも『偏差値が高い(ちょうどいい)から』ではなく、『自分が成長できそうだから』という理由で志望校を決める受験生が増えている。年内入試ではなおのこと、教育への共感や自分との相性を重視した選択がなされる。受験生のこだわりや強みを軸とした大学選び広がる中、大学は自学にマッチする受験生を引きつけ、出願に導くために何をどうアピールすべきかという視点で広報を考えていく必要がある」と話す。
 同氏はさらに、外部メディアを活用した情報発信の必要性も指摘する。「自学に興味を持っている受験生だけでなく、まだ自学のことを知らない受験生の目にもとまり、魅力を知ってもらえるような広報活動が必要になる。直接的な効果は見えにくくても、外部メディアへの情報提供やパブリシティを活用した発信を継続し、受験生との出会いの場面を広げていく努力が大切だろう」。