2022.0509

新課程入試科目等調査 一部の私大は「情報」を課す方向で検討

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3行でわかるこの記事のポイント

●ベネッセ文教総研が539大学の回答結果を分析
●8割の私大が「科目公表時期は未定」と回答
●高校生の文理選択、科目選択に間に合うよう今夏までの公表を

2022年度から高校で新学習指導要領による教育が始まった。高校教員、高校生の間では新課程に対応した2025年度入試に対する関心と不安が高まっている。そこで、ベネッセ文教総研は2022年2月から3月にかけて、全国の大学を対象に新課程入試に関するアンケート調査を実施した。西島一博所長が、大学が留意すべき点に触れつつ、調査結果を解説する。
新課程入試を考える-「探究」で大切な「良い問い」の手本、大学が示そう(「Between情報サイト」記事)


 今回の調査は国公私立大学783校を対象に実施し、539校から回答を得た(回答率68.8%)。調査実施は、国立大学協会から「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度 国立大学協会の基本方針」が出された直後。それに加え、2022年度入試の実施で多忙な時期だったこともあり、新課程入試の検討や学内の情報集約が難しかったと推測され、「未定」との回答が多かった。これから決めていくという状況だからこそ、その検討材料として調査結果のポイントを解説する意義があると考える。この報告を、大学が高校と高校生の状況を理解し、より良い高大接続を図るうえでの参考にしていただければ幸いだ。

 調査では、2025年度入試における、①「情報Ⅰ」の扱い、②「地歴・公民」における「歴史総合」の扱い、③文系学部での「数学C」の扱い、④英語外部検定の利用、⑤教科・科目の公表時期の予定について聞いた。ここでは①②⑤の結果を紹介する。③④を含む詳細な結果報告は「VIEW next ONLINE」をご参照いただきたい。

●「情報Ⅰ」の扱い-国立大学は必須で課すところが多い

①共通テスト(私立大学の場合は共通テスト利用入試)で「情報Ⅰ」を課すか
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 国立大学では、国大協の基本方針通り「情報Ⅰ」を課す方向で検討されている。公立大学、私立大学は課す、課さないが分かれているが、課す方向で検討しているところが多い。

②(①で「課す」「一部で課す」と回答した大学に質問)「情報Ⅰ」は必須/選択のどちらを予定しているか
②johokyote.png
 国立大学は必須で課すところが多く、私立大学は選択が多い。公立大学は対応が分かれそうだ。

③個別試験で「情報Ⅰ」を課すか
③johokobtsu.png
 少数ではあるが、個別試験でも「情報Ⅰ」を課す方向で検討している大学がある。国大協は共通テストで課すことを原則とするとの方針を発表した。これを受け、高校は、共通テストに関しては試作問題の研究など、「何らかの準備をしなければ」という心構えができているはずだ(すでに準備できているということではない)。
 一方、個別試験に関しては、各大学からどのような出題をするのか発信がない場合、受験生は不安を抱くことになる。受験生が安心して志望校合格に向かって努力できるように、個別試験で課す大学は事前に試作問題を公開するなど、高校の準備を支援するような丁寧なコミュニケーションが必要だ。高校では『情報』の専任教員が圧倒的に不足し、生徒に幅広く十分な力をつけて受験に向かわせる体制はできていない。授業中心の学習だけで解答できる基礎的な出題をするなどの配慮が、大学に期待されている。
 「情報Ⅱ」を履修する高校はほとんどないので、入試科目に加えることには慎重さが求められる。

●個別試験における「歴史総合」の扱い-既卒生への配慮が必要

④新設科目「歴史総合」を個別試験の出題科目に含めるか
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 ここでの論点は、既卒生への対応をどうするかである。新設された「歴史総合」は必修科目なので、新課程で学ぶ生徒にとっては入試科目に含まれても問題はなく、共通テストでも「歴史総合+世界史探究」のような出題がなされる。
 一方、「歴史総合」は日本史と世界史、両方の観点が融合され、既卒生にとってはなじみがない内容になっている。たとえば「歴史総合+世界史探究」を出題科目にする場合、日本史の知識も一定程度、必要になるため、現役での受験時に日本史を選択していない既卒生は対応が困難になる。共通テストでは既卒生への配慮として、「世界史A」「日本史B」といった現行課程 の科目での出題を決めている。個別試験でも「歴史総合」を出題科目に含める場合、既卒生への対応をどうするか、検討が必要である。

●入試科目の予告・公表の時期-オープンキャンパスで何らかの情報提供を

⑤2025年度入試の教科・科目公表時期の予定
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 いわゆる「2年前ルール」により、新課程入試の科目は2022年度中に予告・公表することになっている。ここでも「未定」と答えた大学が多いが、実際には夏頃と年明けに公表の山があると予想される。
 2021年7月に文部科学省が大学に出した通知では、「2年程度前を待たず、可能な限り早期に検討し、予告・公表するよう」求めている。高校生が十分に準備をして入試に臨み、力を発揮してもらうことを考えれば、大学は可能な限り2022年夏頃までに公表するのが望ましい。新課程入試1期生である今の高校1年生の多くは、2023年春の2年進級時に文理や履修科目を選択する。6月ごろから選択について考え始め、12月にはおおむね決定しなければいけない。年明け以降の公表だと検討の参考にできない。意中の大学・学部の入試科目が分からない状況で文理選択や科目選択を迫られる不安は想像に難くない。
 総合型選抜と学校推薦型選抜、いわゆる年内入試の募集人員が拡大し、これらの受験を希望する生徒も増える中、高校では志望校の検討が早期化する傾向にある。1年次でのオープンキャンパス参加も増加すると予想される。中には新課程入試の科目に関する情報を期待して参加する生徒もいることだろう。大学がそこで何らかの情報を提供することが参加者への励ましとなり、満足度を高めることにつながるはずだ。新課程入試に関するすべてのことが確定していなくても、方向性や決まっている範囲のことだけでも説明する準備をしておく必要がある。
 入試科目や入試問題は「こういう学生に入学してほしい」というアドミッション・ポリシーを具現化した、大学から受験生へのメッセージだ。高校生が志望校合格を目標に据えた学習に安心して励むことができるよう、そのメッセージを可能な限り早く高校生に届けてほしい。

西島一博(にしじま・かずひろ)
ベネッセ文教総研所長。ベネッセコーポレーションで小・中・高校の教材開発に従事。2016年度から高校用教材、生徒手帳等の制作・販売を行うグループ会社「ラーンズ」の代表取締役社長を務める。2021年度から現職。主として中高接続、高校教育、高大接続の各領域について研究と情報発信を行っている。
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