2021.1104

中退防止、「中核的人材」獲得のため総合型選抜を見直し―羽衣国際大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●「お手軽入試」を脱し、大学の学びを疑似体験させる入試へ
●ゼミ受講、レポート作成、面接、計3回の来校で志望の本気度を確認
●広報努力によって2年目は出願・入学者が増加の見通し

羽衣国際大学は2021年度入試から、総合型選抜のメーンとなる入試を一新し、「総合型選抜(課題探求型)」をスタートさせた。「課題探求ゼミ」を受講し、自学自習を深めたうえで「課題レポート」を作成するという「大学の学びの疑似体験」を通して意欲と適性を評価する。ミスマッチによる中退を防ぎ、「中核となる学生」を受け入れることがねらいだ。

*この記事では、2020年度入試以前に実施していた「AO入試」も便宜上、「総合型選抜」で統一しています。


●ミスマッチ防止のため、総合型選抜を段階的に見直し

 羽衣国際大学(大阪府堺市)は現代社会学部と人間生活学部に計4学科を置く。「総合型選抜(課題探求型)」を提案した清水明男事務局長は、その背景を次のように説明する。「本学のようなブランド力の弱い大学では、残念ながら総合型選抜は、受験生から『お手軽入試』と受け取られていた。教科学力に自信がない受験生が、本学の中身について十分理解しないまま、エントリーシートと面接だけで早めに簡単に合格できる入試というイメージを持っていた」。その結果、入学後のミスマッチが表面化することも多く、総合型選抜による入学者の4年間を通しての中退率が4割に達した年度もあったという。
 そこで、同大学では適性や意欲を確認してミスマッチを予防しようと、出願者にオープンキャンパス参加を義務づけたり、課題レポートを提出させたりと、総合型選抜を段階的に見直してきた。しかし、手応えのある結果はなかなか得られない。自宅で作成する課題レポートについて、公平性を疑問視する声も学内で出た。

●自学自習の成果を書き込んだノートを持ち込んでレポート作成

 2021年度入試で従来の「AO入試」から「総合型選抜」へと名称変更するにあたり、共通教育開発センター長を兼務する清水局長は入試委員会で「名前だけ変えて中身がほとんど変わらないのでは意味がない。本来、本学の学びにマッチし、志望度の高い受験生を受け入れるべき総合型選抜が『お手軽入試』として中退予備軍を集める結果とならないよう、選抜内容を変えませんか」と提起し、「総合型選抜(課題探求型)」の素案を示した。
 「『大学の学びへの導入的なことを選抜プロセスでしっかりやって意欲と適性を確認し、入学後に中核となって活躍できる学生をとっていきましょう』と訴えた」(清水局長)。教職員にとっては手間ひまがかかる入試改革であるため、「そこまでやる必要があるのか」という声も挙がった。「志願者が減らないか」との懸念も示されたが、ミスマッチを防ぐメリットを重視し、まずはやってみることになった。
 「総合型選抜(課題探求型)」の流れは下図の通り。

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 事前申し込みをしたうえで、志望学科ごとに実施される対面式の「課題探求ゼミ(課題レポート対策講座)」を受講。探求ゼミは主に学科長が担当し、それぞれの専門性や特性をふまえたノートのとり方やキーワードの調べ方、レポートの書き方などを指導する。探求ゼミの受講によってエントリーの資格を与える。2022年度入試の場合、オープンキャンパスとの同時開催や単独開催で計10回の課題探求ゼミが設定されている。
 続くエントリーの後、受験生は課題探求ゼミで配られた研究シートを使って自宅で「研究」を行う。シートには各専門分野に関連したキーワードが列挙され、それぞれの意味と相互の関係について調べる。ネット検索や書籍に加え、学校の先生や保護者に質問したり、友人に相談したりしながら理解を深め、調べた内容や自分の意見をノートにまとめる課題レポートの作成に活用するための「マイノート」を作るのだ。
 こうした準備を経て、5教科の基礎学力テストと課題レポート作成に臨む。基礎学力テストは中3~高1レベルで、「羽衣国際大学で学ぶために最低限必要な学力」を確認する内容だという。
 課題レポートについては、全て本人の手書きであることを条件に「マイノート」の持ち込みを許可。あらかじめ示したキーワードと関連した課題が当日に示され、60分間で800字程度のレポートを書かせる。 
 「個々のキーワードをバラバラに調べてきただけでは対応できない課題で、複数のキーワードを関連づけて社会の課題を考察しているか、考察した内容についてキーワードを用いて論理的に展開できているかを確認する」(清水局長)。例えば2021年度入試では、現代社会学部現代社会学科は「新型コロナウイルスの感染拡大後、大阪における国際化はどのように進むあるいは後進するだろうか。自身の考えを具体的に述べよ」という課題を出した。
 課題レポートの作成によって、出願が認められる。ウェブ出願を経て最後に面接を実施。事前に提出した自己推薦シートに基づいて「なぜ羽衣国際大学を志望し、この入試を選んだのか」「入学後にどんなことをやって将来の夢を実現したいのか」を聞く。
 受験生はこの間に計3回、大学に足を運ばなければいけないため、その点でも安易な出願を防ぐことができると清水局長らは考えている。
 これら各段階では選抜を行わず、基礎学力テスト(配点比重20%)、課題探求レポート(30%)、面接(50%)を総合的に評価して合否を判定する。
 2022年度入試では選考日(面接)は10月下旬、11月下旬、3月上旬(人間生活学部のみ)の3回実施する。

●接触者をDMやメールで徹底的にフォロー

 学内では当初から「受験の負担が増えることによって志願者や入学者が減るのでは」との懸念があり、初年度はその通りになった。従来の総合型選抜の入学者は50~70人程度だったが、2021年度は37人に減少。清水局長らは、入試の変更に加え、コロナ禍で十分な広報ができなかったことも影響したと分析する。
 それでも、今回の入試改革は自学にとって必要なものだという考えは変わらなかった。オープンキャンパス参加を「必須」から「推奨」に変えて少しハードルを下げたが、2年目も入試の基本的な内容は維持している。
 一方、学生募集のための施策には力を注いでいる。課題探究ゼミは初年度、8月~1月までに5回の開催だったが、2021年度は6月から始めて1月下旬までに計10回と倍増させた。
 コロナ禍による制約が続く中、広報の新しい試みも取り入れている。入試のポイントをコンパクトに解説する「3分で学べる」動画シリーズの中で、「総合型選抜(課題探求型)」や「課題探求ゼミ」を紹介。さらに、入試センターの八木行嵩課長補佐は「オープンキャンパス等での接触者をDMやメールで徹底的にフォローし、情報を届け続けている」と説明する。
 こうした施策が奏功し、10月中旬の回までの課題探求ゼミの累積受講者数は前年度の91人から149人と1.5倍に増加。八木課長補佐らは、入学者数も従来の規模を超える可能性が高いと期待している。

●高校教員からは入試と入学前教育の連動に関する要望も

 一方、この入試によるミスマッチや中退の防止効果が見えてくるのはまだ先になる。清水局長は「まずは、1年次必修の大学入門ゼミナールの集大成となるプレゼン大会で、この入試による入学者がどの程度活躍するか、注目したい。それが、中核的人材の獲得が実現できたかどうかの一つの目安になる」と話す。
 高校教員からは「丁寧に選抜してきちんと育てようという入試は評価できる。入学前教育も入試と連動した内容にしてもらえると、生徒や保護者に受験を薦めやすい」との意見が聞かれるという。入学前教育は現在も年内入試による入学者を対象に実施しているが、学科ごとのスクーリング内容のばらつきを是正し、「課題探求型」入試と連動させる方向で見直したい考えだ。
 清水局長は「興味のあることをとことん調べ、自分の答えを見いだすことが大学の学びの醍醐味。それを入試段階で体感してもらい、大学でもっと勉強したいと思ってもらえる入試にしたかった。できれば出願前に探求ゼミを3回くらい経験させたいところだが、さすがにそれでは担当教員の負担が大きくなり過ぎる。現実との折り合いをつけながら、より良い入試に育てていきたい」と話した。