2021.1004

データから導く「円滑な高大接続のための年内入試」のポイント<前>

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3行でわかるこの記事のポイント

●年内入試の入学者は思考力に課題はあるが、学びに向かう態度に強み
●入試を通して学部・学科の教育目標を理解し、授業に臨む
●4割の学生は1年次から3年次にかけて思考力が向上

大学入学共通テストの出願受け付けが始まり、いよいよ2022年度入試が本格的に動き出す。学校推薦型・総合型選抜の出願や選考も間もなく佳境を迎える。これら年内入試の募集人員を増やす大学も多いが、高校との相互理解と連携によって望ましい高大接続を実現するために、大学が考えるべきことは何か。ベネッセ文教総研の村山和生主任研究員に聞いた。前編では、アセスメントデータから年内入試による入学者の特徴を分析する。

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村山研究員の話は以下の通り。

●高校は「年内入試だと大学の学びについていけない」と懸念

 入試を取り巻く環境の変動要素が多い昨今、少しでも早く進学先を確定させたい受験生が学校推薦型・総合型選抜を積極的に活用するようになり、大学側でも受け入れ拡大の意向が高まっている。
 一方、高校の進路指導では、これら年内入試での受験に消極的な姿勢を示すケースが依然として多い。背景には「早期に進学先を決定した生徒が、高校での学習から離脱するのではないか」「入学後の学びについていけないのではないか」といった懸念がある。
 このように懸念される年内入試による入学者は、実際のところどうなのか。汎用的能力のアセスメントテスト「GPS-Academic」のデータを使って検証を試みた。2021年度の全国集計データを基に入試方式と能力や志向性の関係を分析。併せて、高校調査の結果から学校推薦型・総合型選抜の指導ポイントも整理した。これらのデータから学校推薦型・総合型選抜による入学者の特徴を捉えるとともに、今後、予想される進路指導の変化と高大接続の観点から大学が取り組むべき課題を考察してみたい。

●「学びについていくための能力」の育成が求められる

 学校推薦型・総合型選抜による入学者は「大学の学びについていけない」という懸念はどの程度、実態に即したものなのか。図1は今年度、大学生を対象に実施したGPS-Academicの結果から、1年生約9万人の思考力のデータを入試方式別、入試難易度別に示している。

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 当然、思考力が「入学後の学びに求められる能力」のすべてではないが、どの学部・学科であっても必要となる汎用的能力である。また、「学力の3要素」の一つとして高校での修得が求められることもふまえ、「思考力が高い≒入学後の学びについていける可能性が高い」と類推する。
 グラフを俯瞰すると、入試難易度が高い大学ほど思考力の高い学生が多いことが見て取れる。つまり、入試難易度と思考力には一定の相関性があると考えられる。前述の通り思考力が高校段階で育成される能力であり、大学入試で主たる評価対象となってきたことを考えれば当然の傾向とも言える。
 同じ入試難易度の大学群の中で比較すると、一般選抜(大学入学共通テスト利用方式を含む)で入学した学生の方が、学校推薦型・総合型選抜で入学した学生より思考力が高い傾向にある。これも、一般選抜では主に思考力が問われてきたためであろう。もちろん、学校推薦型・総合型選抜でも思考力をはじめとする学力を確認はしているが、同じ大学群の中で相対的に見た場合、入学時点での定着度合いに不安がある状況だといえる。
 これらのデータは、学校推薦型・総合型選抜による入学者に対しては、「入学後の学びについていくための能力」の育成が強く求められることを示唆している。入学前教育や初年次教育によって対応している大学も、これらのプログラムの一層の充実が必要で、それと同時に、例えば高校との対話を通して新たな形で入学前の課題等を提示することも考えられる。それについては、後半で別のデータと合わせて考察する。

●総合型選抜による入学者は目標に向けた準備に積極的

 思考力に関する調査結果のみで「学校推薦型・総合型選抜による入学生は、大学での学びについていけない」と断じるのは早計であろう。事実、IRなどを通じて「入試の成績と入学後の成績に相関がない」とする分析結果は数多く報告され、「初年次ゼミで活躍する学生は、学校推薦型・総合型選抜の学生だ」との声を聞くことも多い。
 これらの事実もふまえ、学生の「学びに向かう態度」という視点から検証してみたい。図2は、同じGPS-Academicの集計結果から、「高い目標をもって学ぼうと思っている」の肯定度を示している。

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 一見して肯定的な回答の比率が高く、入試難易度や入試方式による大きな差はない。つまり、大学での学びに対する意欲はどの入試方式の学生であっても高く、前向きな姿勢であるといえよう。
 次に、図3で「所属する学部・学科の教育目標の理解度」を見てみよう。

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 入試難易度による差はない一方、入試方式別では明確な差が見られ、「総合型>学校推薦型>一般」の順に理解度が高くなっている。総合型選抜や学校推薦型選抜では、各大学の教育目標やそれをふまえた志望理由を問われることが多い。結果として、これらの入試方式で入った学生の方が「どのような教育目標の下でその授業が開講されているか」「その授業で身に付けられる資質・能力はどのようなものか」を理解したうえで授業に臨めるのだと推察できる。
 図4では「将来就きたい仕事、やりたいことに向けて準備をしているか」の肯定度を示している。

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 ここでも入試難易度による差はなく、1年次から将来を見据えて行動を起こしている学生が、どの大学群にも一定の割合で存在している。入試方式に注目すると、特に総合型選抜では将来への準備に積極的な学生が多いことがわかる。総合型選抜では、自己PRなどを通じて自身の将来像と大学での学びを結び付けて考える機会が特に多く、それが入学後の具体的な活動につながると考えられる。

●大学の支援によって「学びについていくこと」は十分可能

 ここまでのデータから、学校推薦型・総合型選抜の学生は、入学時の思考力には課題があるものの、学びに向かう態度という面では一般選抜による入学者と同等、またはより望ましいものを身に付けている可能性があることが確認できた。学びに向かう態度は、受験を通して大学の教育目標を深く理解し、自身の将来ビジョンと関連付けて考えることによって形成されるのであろう。
 図5では入学後の思考力の変化をグラフ化している。

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 同じ学生について1年次と3年次の思考力の総合評価を比較すると、一般選抜の学生の半数近くは思考力が向上しており、入学時点の思考力が入学後の成長にもつながっていることがうかがえる。
 一方、学校推薦型・総合型選抜の学生で思考力が向上した者の割合は、一般選抜よりはやや劣るものの4割前後に上っている。一般選抜と比較して思考力が低下する学生が少ないことにも注目したい。
 これらのことから、学校推薦型・総合型選抜の学生は、大学での学びの基礎となる思考力などの資質・能力の育成という課題が解決されれば、「入学後の学びについていく」ことは十分可能であり、むしろ、一般選抜の学生以上に能動的に学びに向かう可能性が高いといえよう。

 後編では、高校での年内入試の指導実態から入試実施への示唆を得る。

村山和生(むらやま・かずお)
ベネッセコーポレーションにて、ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室シニアコンサルタント、『VIEW21大学版(現在は『Between』に統合)』編集長、一般財団法人大学IR総研副事務局長(兼務)などを歴任。2021年からベネッセ文教総研の主任研究員として、高等教育領域を中心に「学修成果の可視化」「IR」等について調査、研究、および情報発信している。

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