新課程入試を考える-「探究」で大切な「良い問い」の手本、大学が示そう

●知識の再生産ではなく、与えられた材料を基に考えさせる出題を
●「探究」に呼応する入試が高校教育の支援となり、意欲的な入学者を増やす
●強い志望に直結する学校推薦型・総合型選抜のブラッシュアップを

2022年度、高校で新しい教育課程がスタートするのを受け、大学は入試の見直しを求められている。そこで、ベネッセ文教総研の西島一博所長が「新課程によって高校の教育、授業はどう変わるか」「大学入学共通テストの主な変更点と、活用における留意点」を解説する。これらをふまえ、各大学が個別試験を設計するうえで考慮すべきことも提言してもらった。

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 西島所長の解説・提言は以下の通り。

●「2年前ルール」は2022年夏頃までの入試科目発表を想定

 2021年9月初旬現在、高校では新課程に基づくカリキュラムが固まり、初年度の教科書採択も終えている。
 7月30日には、文部科学省から大学に「『令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告』及び『令和7年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告』について」が通知され、各大学では新課程入試の具体的な検討が始まっている。いわゆる「2年前ルール」により、おおむね2022年夏頃までには入試科目を発表することが求められている。
 入試の検討の一助にしてもらうべく、高校の新課程カリキュラムの状況を説明し、2025年度入試からの共通テストの出題科目をどう捉えたらよいか、整理していく。

●知識伝達型授業から生徒が活動主体となる授業へ

 新学習指導要領では、「何を学ぶか」に加えて「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」ということが重視される。生涯学び続けることができるように、また、学んで得た力を将来、社会で発揮できるように、学校教育と社会とのつながりが強調されているのだ。
 その趣旨に基づいて教科書が作られ、授業が変わる。どの科目でも知識伝達型の授業が減り、生徒が活動の主体となる時間が増える方向にある。知識伝達型の授業が減ると言っても、生徒が自ら調べたり考えたりする中で知識・技能の習得がなされることが想定され、学習指導要領上、学ぶべき内容は削減されない。

●知識定着度合いの個人差が広がる

 一方で、学習者主体の授業を行うためには一定の授業時数の確保が必要で、学習進度の遅れが気になる。大学入試で求める知識レベルがこれまでと変わらないとすれば、これまで同様の知識の定着が必要ということになる。そのため、高校としては学習者主体の授業に一気に転換することには不安がある。実態としては学校ごと、教員ごとに転換のペースが異なり、全体としては徐々に変化することになるだろう。
 その結果、知識定着度合いの個人差が広がると予想される。新課程入試においては、知識の再生産的な問題ではなく、その場で与えられた材料から何が考えられるかというタイプの問題を増やすことが、高校の授業をより学習者主体のものに変え、ひいては主体的に学ぶ意欲をもった入学者を増やすことにもつながる。学ぶ内容というよりも学び方が変わり、大学での学びや研究活動の充実につながるような教育を高校に促す出題は、受験生、大学の双方にとってプラスになるはずだ。

●教科・科目の留意点-入試検討のポイントは「地歴・公民」と「数学」

 リンク先の表では、新旧両課程における学習指導要領上の科目構成と、共通テストでの出題科目の対照関係を示している。高校の教育課程の計画状況等もふまえて、大学が各入試科目をどのような観点で検討するのがよいか、整理する。

○国語
 さまざまな科目構成の変更はあるが、基本的には現代文(論理的文章・文学的文章)、古典(古文・漢文)のうちの何を出題するか、という認識でよい。
 高校では古典と現代文の融合、論理的文章と実用的文章の融合、あるいは図表などのいわゆる非連続テキストを含む文章など、複合的な素材を用いた学習が増える。共通テストでもそのような出題になることが明示されている。
 各大学の個別試験においても、実用的文章や非連続テキストの活用といった素材選びをはじめ、さまざまな角度から思考力を見ることができるようになり、設問の自由度が高まると言える。

○地理歴史・公民
<地理歴史>
 科目構成がこれまでと大きく変わり、「地理総合」「歴史総合」が必修科目になる。これによって「地理総合」「歴史総合」の範囲であれば、理論上は地理と歴史の融合問題も出題が可能になる。
 「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」は総単位数の関係で、高校の実態としては2科目までの選択履修にとどまる。

<公民>
 選択必修科目だった「現代社会」が「公共」にかわり、必修科目になる。選挙年齢の引き下げを考慮して2年次までに履修することになっている。「公共」は教科書によって、現代社会の課題解決のためのテーマ学習を中心にしているもの、「倫理」と「政治・経済」の合体のようなつくりになっているものなどがあり、幅が広い。
 「倫理」と「政治・経済」については大きな変化はない。

<地理歴史・公民の入試科目>
 現行の共通テストで地理歴史のB科目に対応するのが、「○○総合、○○探究」の3つの出題科目であると考えてよい。A科目での受験を可としていた募集単位では、必修の3科目から2つを選択する「地理総合、歴史総合、公共」を可とすることによって、幅広い(というよりすべての)高校生が受験可能になる。
 個別試験では、基本的にはこれまでどおり地理/日本史/世界史/政治・経済......のような区分で考えればよい。たとえば「地理探究」なのか、「地理総合+地理探究」なのかは「地理総合」が必修科目であるため、実質的な差はない。
 なお、共通テストの地理歴史・公民の選択方式はかなり複雑なので、文科省が出した「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」も確認しておく方がよいだろう。

○数学
 単元の構成が次のように変わるので、科目指定の変更の有無について検討が必要だ。
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 共通テストで「数学C」も出題の対象となり、文系でもこれを入試で課す大学が出てくるだろう。難関大学を目指す生徒が多い高校では、文系でも「数学C」を履修するカリキュラムになっている。ただし、高校によってはベクトルのみを学習する可能性があるので、「数学C」を文系学部で課す場合は注意が必要だ。
 文科省の「私立大学等改革総合支援事業」への対応として文系学部の個別試験で出題する場合、最小限の出題範囲は必修科目である「数学Ⅰ」となるが、入学後の数理・データサイエンスの学修のためには、「数学A」の「場合の数と確率」は、できれば加えておきたいところだ。

○理科
 科目構成としての変化はなく、入試もこれまでと同様のとらえ方で考えてよい。

○英語
 4技能5領域の統合的な学習を重視することが強調されているが、入試科目設定上はこれまでと同様のとらえ方でよい。

○情報
 必修科目である「情報Ⅰ」が共通テストで出題されることになったが、高校の現状は専門の教員は少なく、もともと他教科の教員が担当する学校が多い。そのような状況下で「情報Ⅱ」を履修する高校はほとんどない。従って、「私立大学等改革総合支援事業」への対応として個別試験で出題する場合、「情報Ⅰ」の範囲にとどめ、高度なプログラミング等を問うのは回避したほうがよい。

●「探究」を通して志望校・学部学科が形成され、強固なものに

 現行課程の「総合的な学習の時間」は、新課程では「総合的な探究の時間」となる。少し名前が変わっただけのように思われるかもしれないが、高校での受け止め方は大きく変わった。冒頭で述べた「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」ということが重視されている新学習指導要領の理念ともつながり、生涯を通じて学び、課題解決のために主体的に探究し続ける力をつけさせたいと考える教員が、全国的に増えていると感じる。
 生徒自身の興味関心に基づいて深く思考し、表現する「総合的な探究の時間」での活動は、生徒のキャリアに深く関わってくる。ここでの自己理解の深まりや研究活動が自然と卒業後の進路を考えることにつながり、大学・学部学科研究を通して志望が形成され、強いものとなっていく。
 その研究活動と強い志望は、学校推薦型選抜、総合型選抜に直結する。高校ではこのような考え方の下、これらの入試で力を発揮できる生徒を育て、自分が行きたい大学にしっかりチャレンジさせる進路指導が広がると予想される。大学もこれに応える形で、これまで以上に学校推薦型選抜、総合型選抜の中身を磨き上げることを期待したい。
 新課程への移行は、大学にとって高大連携の教育活動を充実させるチャンスである。高校生はこれまで以上に大学の研究に触れる機会を望むようになり、それが成長の場にもなり得る。現状はコロナ禍により困難な面もあるが、高校在学中の大学の科目履修、単位認定を進めていくことも、よりよい高大接続の取り組みになるだろう。

●大学の知見を生かし、受験生をワクワクさせる探究的な出題を

 入試科目については、主に「地理歴史・公民」と「数学」で検討すべきことがあるが、それ以外の教科については基本的にアドミッション・ポリシーに基づいてこれまでどおりの考え方でよい。
 出題内容については、冒頭で述べた授業の変化・学び方の変化の話の繰り返しになるが、知識の再生産的な問題ではなく、その場で与えられた材料から何が考えられるか、というタイプの問題を増やすことが、主体的に学ぶ意欲がある学生を増やすことにつながる。
 「総合的な探究の時間」だけでなく、各教科の学習においても探究的、あるいは課題解決型の学びが重視され、高校での学びが大学での学びに近づく。探究的な学びにおいては自ら「問い」を立てられることが重要だ。入試ではそのお手本になるような、大学教員の知見を存分に生かした「問い」を、ぜひ検討してほしい。
 受験生が頭を悩ませつつもワクワクし、高校教員が「こういう問いに答えられるような生徒を育て、送り出したい」と思うような出題が、高校教育をさらに活性化させ、よりよい高大接続につながっていくはずだ。

西島一博(にしじま・かずひろ)
ベネッセコーポレーションで小・中・高校の教材開発に従事。2016年度から高校用教材、生徒手帳等の制作・販売を行うグループ会社「ラーンズ」の代表取締役社長を務める。2021年度から現職。

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