2021.0531

2割近い大学が総合型、学校推薦型でオンライン入試-文科省調査

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3行でわかるこの記事のポイント

●一般選抜での実施は3%
●一般選抜での実施校のうち14%が監視システムを導入
●「実施を検討したが見送った」理由は公平性や通信環境の問題

文部科学省はこのほど、2021年度入試におけるオンライン入試の実施状況に関する調査の結果を公表した。総合型選抜、学校推薦型選抜では2割近い大学がオンライン入試を実施、特に面接でのオンライン活用が多かった。受験者層の拡大や業務効率化といったメリットが挙がる一方、不正防止には限界があるとの指摘も。コロナ禍を受けた緊急対応として実施されたオンライン入試がコロナ禍の収束後も継続し、定着していくのか注目される。

*文科省の発表内容はこちら
*記事中のグラフは文科省の発表資料より


●総合型、学校推薦型は私大での実施が目立つ

 文科省の調査は全ての4年制大学(775校)を対象に、個別試験におけるオンライン入試(大学側と受験生が対面せず、インターネットを活用して実施する入試)の実施状況について学部単位で聞いた。回収率は100%だった。
 オンライン入試を実施した大学は、総合型選抜、学校推薦型選抜、帰国生や留学生を対象とする「その他選抜」でそれぞれ2割前後ある一方、一般選抜は3%にとどまった。

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 設置形態別のオンライン入試実施率は、私立では総合型選抜、学校推薦型選抜、「その他選抜」でそれぞれ2割を超えたのに対し、国立は「その他選抜」が24%と私立を上回る一方、それ以外の入試方式ではいずれも1割以下。公立では一般選抜での実施が5%で国立と私立をわずかに上回った。

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●通信環境整備についてはサポートデスク設置などで対応

 以降の設問は「オンライン入試を実施した」と答えた大学のみが回答している。
オンラインの活用シーンは面接が最も多く、総合型、学校推薦型、「その他」の各選抜で9割前後、一般選抜でも75%に上った。これに次いで口頭試問、レポート・小論文が全体的に多かった。一般選抜の個別学力試験で活用した大学も26%ある。

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 「特定の志願者が不利益を被ることがないようにするための対応」としては、通信環境整備の配慮として「サポートデスク等の設置」「試験続行が困難になった場合の時間の繰り下げ」「高校の端末での受験を勧めた」などが多い。「通信環境の事前確認」「パソコンの貸し出し」「システムを整えた地方会場の活用」などの回答もあった。
 不正防止策としては、どの入試方式でも7割以上の大学が「選抜要項や学生募集要項での注意事項周知」を実施。「写真付き身分証明書を撮影させることによる本人確認」等も相対的に多かった。一般選抜では「監視システムの導入」が14%に上った。

●「気軽な受験が入学辞退につながる」との懸念も

 「オンライン入試を実施して良かった点」を自由記述で回答させる設問では、「遠方や海外に住む受験生が、移動とそれに伴う経済的負担なしで受験できた」といった内容のコメントで受験者層の拡大を挙げる回答があった。さらに、「グループディスカッションでの発言者の特定が容易」「試験内容の録画によって公平性の担保や事後の振り返りができた」といった趣旨のコメントも。「試験会場設営が最小限で済んだ」「教員を現地会場まで派遣する必要がなくなった」など、業務効率化のメリットも挙げられた。
 一方、「オンライン入試を実施して課題と感じた点」として、「不正防止策を講じても対面に比べると万全とはいえない」「入学意思が弱い者が気軽に受験し、合格しても入学を辞退する場合がある」などが指摘された。
 業務負担については、先述の通り効率化につながったという声がある一方、「試験の準備・実施に多くの時間と労力を要し、経費負担も大きかった」といったコメントで「課題」に挙げる大学も。大学の規模や組織体制、システム環境や元々のオンライン活用度によっても、負担感に差が出たと推測される。
 受験生の本来の能力をオンラインで適切に評価できるかという点では、「受験生が緊張せず実力を発揮できる」など、「良かった点」とするコメントがある一方、「本来の学力・研究能力が高くても、慣れない形態での試験のため点数が低く出てしまう」など、「課題」としての指摘も。これは受験者個々の習熟度にも依存しそうな部分であり、今後、高校生がさまざまな場面においてオンラインでコミュニケーションする機会が拡大した場合には、大学側の見方も変わるだろう。
 今後のオンライン入試拡大を想定してか、「希望者が非常に多くなった場合の受け入れ体制の構築、強化」を課題に挙げる大学もあった。

●実施しなかった大学も4割前後は「総合型、学校推薦型で検討した」

 この調査では、オンライン入試を実施しなかった大学に、実施を検討したかどうかも聞いている。総合型、学校推薦型、「その他」の各選抜については4割前後の大学が「検討した」と回答。

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 結果的に実施に至らなかった理由は「筆記試験での公平性担保が困難」「受験者全員に平等な受験環境を確保するのが困難」など、公平性にかかわる指摘が多く見られた。他に、「十分なトラブル対応や不正行為の防止ができない」「個別学力試験としては大学入学共通テストの方が適している」といったコメントも。「美術学部の作品制作(立体を含む)はPC上で回答できるような試験ではない」と、分野の特性上、求める能力をオンラインで評価することを困難視するケースもあった。 

●高大接続や受験生支援、業務効率化の観点から検討の余地

 大学入試については以前から、雪による交通トラブルやインフルエンザ流行等のリスクが高い時期に、受験生を一堂に集めて実施することを「不合理だ」と疑問視する声があった。大人数対象の一斉実施やトラブル発生時の対応など、大学の負担の大きさも指摘されてきた。
 今回、緊急措置として実施されたオンライン入試によって各大学は、一堂に集めなくてもできることとできないこと、さらには従来の方式に勝る点も、ある程度把握できたのではないか。実施に至らなかった大学でも、検討を通じてメリットと課題を多少なりとも整理できたはずだ。
 同じく緊急措置として導入されたオンライン授業については、教育成果を高めるためにコロナ禍の収束後も積極的に活用していくべきだとの声が多く聞かれる。入試についても今回の経験を生かしたり調査結果を参考にしたりしながら、自学にとってより良い高大接続や受験生支援、業務効率化につながる部分でオンライン入試の導入を検討するといいのではないか。