2020.1104

コロナ禍を受け、一部の大学で検定料免除で受験生を支援する動き

学生募集・高大接続

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●千葉工業大学は地元で受験できる共通テスト利用入試を対象に
●園田学園女子大学は年内入試で免除、短い準備期間の心理的負担を考慮
●吉備国際大学の設置法人は全4校の全入試を対象に

新型コロナウイルスで家計が厳しくなった受験生を支援しようと、一部の大学で2021年度入試の検定料を免除する動きが出ている。どの大学も「在学生支援に加え、受験生に対しても何らかの支援が必要だと考えた」と説明。併願者増につなげたいとの期待もある。
*関連記事
乗り切ろう!コロナ危機⑩ 学生に加え受験生の経済支援と広報も重要


●千葉工業大学―経済的負担とコロナ感染リスクの両方を軽減する施策

 千葉工業大学(千葉県習志野市)は大学入学共通テスト利用入試の検定料1万5000円を免除することを、10月14日に発表した。
 2020年度入試のセンター利用入試出願者数は延べ約4万2000人。学科併願割り引き制度適用者が相当数いるため、単純にこの数からの減収額算出はできないが、「億単位に上るのは間違いない」と入試広報部の日下部聡部長は話す。
 同大学ではコロナ禍にあっても、訪問対応可と答えた高校を積極的に回りコミュニケーションを続けた。地方の高校を中心に「保護者の所得が減り、受験費用の捻出が難しくなっている。併願校を減らしたり、交通費や宿泊費がかかる都市部の大学の受験をあきらめたりする生徒が出てきそうだ」との声を多く耳にした。
 地元で受験でき、経済的負担とコロナ感染のリスク、両方を軽減できる共通テスト利用入試を無料にすれば、自学を志望する受験生の選択の幅を広げられると考えた。共通テストは問題を自前で作成する必要がなく、事務的な費用と大学入試センターに支払う成績情報提供料などの負担だけで済むことも決め手となった。コロナの収束時期が見通せない中、大学独自入試を実施できないという万が一の事態も想定し、共通テスト利用入試を受けやすくしておきたいとの考えもあった。
 今回の施策は瀬戸熊修理事長が、かねてより学内で発信している「検定料収入に依存せず、学納金で教育・研究活動ができる経営にすべき」というメッセージを背景とした実験的な意味合いもありそうだ。
 懸念材料もある。経済的なハードルが下がる共通テスト利用入試に乗り換える形で、大学独自入試の志願者が減らないかというのが一つ。さらに元々、同大学を第一志望としている受験生が合格しにくくなる可能性もある。最大の懸念は、他大学との併願が増えることによって例年以上に歩留まりが読みづらくなることだという。
 年内入試では総合型選抜の志願者が減少。日下部部長は「課題演習を伴う入試のため、オープンキャンパスの中止で十分な情報を入手できなかったことに、受験生が不安を抱いているのでは」と分析している。一方で指定校推薦の出願に向けた高校の動きは例年以上に活発で、総合型選抜からこちらに回る受験生が増えそうだ。こうした志願動向も注視しながら、これから出願を受け付ける共通テスト利用入試の歩留まりを慎重に見定めたい考えだ。

●園田学園女子大学-他大学に先駆けて5月に検定料免除を発表

 園田学園女子大学(兵庫県尼崎市)は総合型選抜、学校推薦型選抜、スポーツ特別選抜など年内入試すべてについて、検定料3万円を免除することを5月7日に発表した。「全国初!入試検定料無償化」を掲げて広報し、複数のメディアで紹介された。
 「今年度の受験生はコロナによる経済的負担感に加え、入試制度が変わることによる心理的負担も大きい。休校が長引き、特に年内入試については準備不足で大きな不安を抱えているはずなので、ベストな状態で挑戦してもらうための支援を考えた」。広報戦略室の佐々木傑三室長はそう説明する。専願、併願可のいずれの入試も対象だが、併願型、特に年内合格を望む12月の入試で受験生の選択肢に加わり、志願者が増えると予想している。
 高校訪問では、たびたび「英断だ」「ありがたい」と言われ、教員には施策が周知されていることを確認。一方で「オープンキャンパス来場者については『知らなかった』という反応が約4割に及ぶなど、個々の受験生には情報が十分届いていなかった」と佐々木室長。
 今回の施策はコロナ禍を受けた受験生支援であると同時に、テストマーケティングとしても位置付けている。10月下旬現在、併願可能な公募制学校推薦型選抜の志願者数は前年度の1.3倍に増えている。これ以降の入試の結果もあわせて今回の施策の効果を検証し、今後、検定料の在り方を検討することもあり得るという。

●吉備国際大学-緊急措置として決定し、出願者には個別に連絡

 吉備国際大学(岡山県高梁市)はすべての入試方式について検定料を免除することを10月5日に発表した。九州保健福祉大学(宮崎県延岡市)、および医療・福祉系の専門学校2校とあわせ、設置者である順正学園を挙げての措置だ。
 吉備国際大学の場合、本来の検定料は総合型選抜、指定校推薦などの専願入試や共通テスト利用入試が1万円、公募制推薦、一般選抜が2万円。「緊急特別措置」として発表したため、募集要項等の修正やウェブ出願システムの改修が間に合わず、「(募集要項等には)入学検定料について記載されていますが、納入せずに出願してください」と注記し、総合型選抜の出願者には個別に連絡したという。
 入試広報室の的場嘉男室長は「コロナ禍を受けて在学生にはさまざまな支援策を講じており、受験生にも何かできないかと考え、全ての入試方式を対象に無条件で免除とした」と説明する。
 発表が遅かったこともあり、志願動向への影響は今後の併願型入試で現れてくると見て注目している。