2019.0725

高校との関係強化で戦略的な推薦・AO入試を~進研アドセミナー報告

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3行でわかるこの記事のポイント

●無償化、新入試などへの適切な対応がチャンスを生み出す
●高校の努力に応える入試が高校教員を味方につけるカギ
●募集広報のKPIは資料請求数から出願継続高校数、新規出願高校数へ

「定員確保が目的の青田買い」「学力不問の入試」-。推薦・AO入試に対するこうしたネガティブな評価が大きく変わろうとしている。大学側は自学の教育にマッチした志望度の高い学生を受け入れるための選考方法を練り、高校側は自校で育成した力が評価される選考であれば積極的に受験を勧めるなど、双方で推薦・AO入試を重視するようになってきた。今こそ、大学には自学のプレゼンス向上につながる戦略的な推薦・AO入試が求められている―。そんなメッセージを込め、進研アドは2019年6月から7月にかけて全国7会場で「"攻める推薦・AO入試"を考える会」を開催、計197大学、278人の大学教職員が参加した。大学を取り巻く環境変化をいかにして追い風にするのか。参加者と共に考え、整理したこれからの推薦・AO入試の方向性とは―。


 「"攻める推薦・AO入試"を考える会」は全国7会場で開催、環境変化の影響や対応策についてグループで話し合うワークショップを盛り込んで展開された。さまざまなデータや事例を読み解きながらこの会で発信された情報や提言は以下の通り。

●無策のままでは無償化がむしろピンチを招く

 2020年度は、新入試や大学無償化などさまざまな制度がスタートし、高等教育における重要な節目の年となる。では、推薦・AO入試を重視する大学にとってポスト2020年はチャンスなのか、またはピンチとなるのか? ここは「攻めの推薦・AO入試」という発想で、「適切に対応すれば大きなチャンスになる!」と考えるべきだろう。
 例えば、高等教育の負担を軽減する政策によって大学進学率が上昇し、学生募集マーケット全体が拡大すると予想される。その中で、推薦・AO入試のマーケットも広がるだろう。ただし、座して待っているだけでは逆に苦境に陥るだけだ。大和総研は独自の推計を基に、無償化制度が大都市圏への進学を後押しし、地方からの若者の流出を加速させる可能性があると指摘している。 
 つまり、高等教育無償化をチャンスとして生かすには、受験生をとどまらせるような地域や大学の魅力づくり、地元の高校との関係づくりが大前提となる。
 一方、ベネッセコーポレーションの調査では、無償化の対象となり得る低所得層でこの制度に対する理解が浸透していないことがわかっている。
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 大学は高校生に対して、制度自体についての理解を促しつつ、自学が制度の対象であることを伝える情報を発信する必要がある。

●国公立大の推薦・AO拡大で私大にも上位層獲得のチャンス

 次に、入試改革や新たな入試制度に着目した推薦・AO入試の機会点について考えてみる。国立大学協会は2021年度までに推薦・AO入試等による入学者の割合を全体の30%まで上げるという目標を掲げ、各国立大学はこれらの入試方式の募集人員を増やしている。

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 国公立大学での推薦・AO入試の拡大、そして高校現場での探究活動の進展も後押しとなって、成績上位層が推薦・AO入試に積極的にチャレンジするようになっている。これによって私立大学の推薦・AO入試のマーケットも拡大し、基礎学力不足の問題が改善される可能性もあるわけだ。
 2020年度からスタートする新入試で、学校推薦型選抜(現行の推薦入試)、総合型選抜(現行のAO 入試)でも知識・技能を評価しなければいけないというルール変更がなされるが、これも推薦・AO入学者の基礎学力面の問題を改善する可能性がある。ただし、推薦・AO入試で知識・技能を含む学力の3要素をどう評価し、どのような比重で合否を判定するのか大学がわかりやすく説明しなければ、高校教員は生徒にその大学の受験を勧めないはずだ。
 同じく入試ルールの変更によって合格発表が学校推薦型選抜は12月以降、総合型選抜は11月以降と現在の実態より後ろ倒しになるため、高校では「ダメだったら一般入試に切り替え」という指導が難しくなる。推薦・AO入試で確実に合格させるための志望校選びでは、選考基準や合格者数がきちんと開示されていることが重要なポイントになるだろう。
 ここまで挙げたことに他の論点も加え、まとめると下表のようになる。

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 ●高校から敬遠されないために「早くわかりやすい情報共有」を

 推薦・AO入試は一般入試に比べて高校教員の関与度が高く、大学は志願者を確保するうえで地域の高校との信頼関係構築が欠かせない。では、地域の高校から敬遠されないために必要なことは何だろうか。
 進研アドが2019年6月、高校教員を対象に実施した調査では、公募推薦入試とAO入試に共通する大学への要望として「選考方法の変更については早く情報を出してほしい」「専願か併願可か明示してほしい」「エントリー者や合否の情報を高校に知らせてほしい」などが多く挙がった。つまり、「早く」「わかりやすく」「情報共有する」ことが、地域の高校から敬遠されないためのポイントと言える。

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 さらに踏み込んで、「ファンになってくれる高校」を増やすにはどうすればいいか。2018年度から2019年度にかけて推薦入試またはAO入試の志願者を大幅に増やした大学の取り組みを調べると、「誠実な情報公開」「学力の3要素のわかりやすい説明」など、前述の「敬遠されないための3原則」をより積極的に展開していることがうかがえた。具体的には、「推薦・AOを含むすべての入試について募集人員、志願者数、合格者数などを複数年分、ウェブサイトで公表している」「学校推薦の複数の選考方式における学力の3要素それぞれの相対的な重視度を◎、〇、△で端的に示している」といった具合だ。
 一方、高校現場では高大接続改革の動きを捉え、ポートフォリオを活用した多様な活動履歴の蓄積、教科学習以外での探究的な学習の実践などが急速に進んでいる。そこで育成された力を入試で評価して大学でも伸ばす意思を示し、高校の努力に応える大学こそが共感を集めるはずだ。この点でもやはり、アドミッション・ポリシーをわかりやすく示し、それらとの整合性がわかる形で推薦・AO入試における評価の基準と方法を説明することが重要になる。 

●入試広報担当者は教育改革でも先頭に立つ気概を

 さて、今後の推薦・AO入試の学生募集におけるKPI(key performance indicator)はどう変わるだろうか。従来、多くの大学が資料請求者数やオープンキャンパス来場者数などをKPIとしてきたが、これらは一人ひとりの志望度を高め、最終的に出願につながってこそ意味を持つ。従ってこれからのKPIは「第一志望者の割合」「出願継続高校数」「新規出願高校数」などになっていくべきだろう。
 推薦・AO入試では高校教員の経験値に基づく出願指導がなされるため、「この大学の入試は信頼できる」と評価されれば、複数の生徒に勧めたり、毎年送り出したりしてもらえる。特定の高校との継続的な関係を築いていく入試と言えるので、「お得意様」を増やしつつ「新規顧客」の開拓にも力を入れる両軸の活動が重要になる。

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 ここまで示してきた考え方は次のようにまとめることができる。

●推薦・AO入試重視の大学にとってポスト2020年はチャンスかピンチか?
 →大きなチャンス! そのポイントは地域の高校とのリレーション
●地域の高校に敬遠されないためにおさえておくべきことは?
 →「早い」「わかりやすい」「情報共有」
●ファンになってくれる高校を増やすには?
 →高校の努力が報われる入試と教育
●学生募集のKPIはどう変わるか?
 →「第一志望者の割合」「出願継続高校数」「新規出願高校数」
 
 今回の「"攻める推薦・AO入試"を考える会」では主に学生募集の観点から推薦・AO入試について考えたが、教育の魅力を高めてこそ学生募集が成功することは言うまでもない。これからの入試広報担当者は、入学前教育を含む教学面まで視野に入れ、教育改革の先頭に立つ気概も求められるだろう。
 環境変化を追い風にしてまずは5年後、さらにその先の推薦・AO入試の戦略を描きながら入試改善から教育改善へのステップを構想する、そんな入試広報担当者の活躍の場面が今後、確実に増えていくはずだ。

「"攻める推薦・AO入試"を考える会」参加者アンケートの結果は下記のリンク先からご確認いただけます。
~「戦略を見直したい」「学内で共有したい」「参考にしたい」の合計が98%~