広島経済大学~戦略的定員割れの現在地<上>GPAや中退率で着実な成果

●「教育の質で選ばれる大学」をめざし6年間、定員割れを継続
●教育改革を進め、2016年度から入学者数が増加に転じた
●高校からは「大学の強い意志を信頼できる」との評価

広島経済大学は2013年度入試から合格最低点を引き上げ、同時に教育改革も進めてきた。改革7年目に入ろうとする中、志願者数やGPA、授業の雰囲気など、数と質の両面で確かな成果が表れつつある。改革構想の中心に学生を置き、トップのリーダーシップの下、教職協働で進めてきた「戦略的定員割れ」の成果と今後の課題を2回にわたって報告する。初回は改革の中身と成果について見ていく。

広島経済大学~戦略的定員割れの現在地<下>経営も底を脱し明るい兆し
*広島経済大学の戦略的定員割れに関する2016年の記事はこちら↓
選ばれる大学になるために「戦略的定員割れ」を続ける
広島経済大学―マーケットデータに基づく広報戦略で入学者の質確保を図る


●2018年度は定員管理厳格化の影響を受け、定員充足ならず

 18歳人口の減少によって大学の淘汰が現実味を帯びる中、学生の質を確保し、成長させて地域に送り出すという教育の質保証によって選ばれる大学になるー。広島経済大学の戦略的定員割れは、全学のこうした意志の下で2013年度から始まった。一般入試とセンター利用入試の合格最低点を大幅に引き上げ、次の年からは公募推薦も基礎学力重視の選考に変えた。その結果、2018年度まで入学者が定員の850人を割る状態が続いている。

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 志願者数は横ばいの中、合格者、入学者の数は3年間減少し続けたが、いずれも2016年度に増加に転じた。2017年度には入学者数が800人台を回復。定員充足が視野に入った2018年度も前年とほぼ同数の合格者を出したが、定員管理厳格化の影響をもろに受けた。上位校から追加合格の通知を受けた合格者の辞退が相次ぎ、入学者数は前年を割ることに。広島経済大学自身は、合格ラインを落とさないという方針の下、追加合格を出さず引き続き定員割れに甘んじた。

●学長による試験問題チェックで厳格な成績評価を徹底

 「合格ラインを引き上げる以上、教育もそれに見合ったものに変えて学生をしっかり成長させる必要がある」と考え、戦略的定員割れの初年度から教育改革に取り組んだ。2012年度末にCC(カリキュラム・コーディネート)会議を設け1年間、集中的に議論。教員・職員がほぼ同数の計30人の会議メンバーに加え、他の教職員も自由に参加できるようにした。CC会議での議論を基に具体化した主な施策は次の通り。

① カリキュラム改革
 「自ら学び、考える姿勢を身に付け、これからの時代をたくましく生き抜く力を持つ若者」という「育成したい人材像」に基づき、4年間しっかり勉強させるため、カリキュラムを見直した。
 教養教育は、日本の歴史・文化への理解を深め、その魅力を自分の言葉で伝えるための「自己理解系科目」、海外の歴史・文化を理解し、広い視野でコミュニケーションする力を伸ばす「他者理解系科目」という2つの選択必修科目群を設定。学生にとって、学ぶ目的がわかりやすく選びやすいカリキュラムになった。
 初年次教育では日本語文章表現の外部検定試験を導入、一定レベルへの到達を卒業要件にした。月曜日から金曜日まで毎日、英語の必修科目を設けるなど、英語力の強化も図っている。
 大学が「これを学んでほしい」という意思を持ち、それを学生の選択肢拡大より優先させるカリキュラム改革の結果、科目数は大幅に減り、体系的に整理できた。

② 出欠管理のシステム化と厳格化
 ICカードで出欠を管理し、10分以上の遅刻は欠席として扱うようになった。

③ 成績評価・単位認定の厳格化
 「安易な単位認定や進級判定が勉強しない学生を生み出す」という問題意識の下、定期試験の再試験制度を十数年ぶりに復活。救済ではなく、もう一度勉強し直して再チャレンジさせることを目的とし、受験資格は合格得点にわずかに届かなかった学生に限定、受験料も徴収する(再試験合格者には返還)。
 成績評価基準も教員任せでなく一定のルールの下、全学で設定し、シラバスで学生に明示している。2年次から3年次への進級判定制度も復活させた。
 教育の質を保証するためのこれらの施策は教員にとっても負担が大きく、相応の覚悟が求められる。定期試験の全ての問題を提出させ、学長が難易度と評価基準をチェックする。教務課は試験終了後、個別の科目について得点分布や評価に偏りがないか点検し、問題があった場合は学長に報告。学長が担当教員に改善を求める。

●授業の雰囲気が変わり、教える範囲と深さが増した

 教育改革の成果は具体的なデータとして表れている。

① 修得単位数の増加とGPA平均点の上昇 
 成績評価厳格化がスタートした2014年度は1年次の修得単位数が前年より少なくなったが、その後は増加を続けている。GPAも継続的に上昇している。

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② 英語運用力の向上
 全国平均では1年次から2年次にかけて英語運用力が下がる傾向にあるのに対し、広島経済大学では2014年度以降、2年次に力が伸びている。

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③ 中退率の低下
 成績評価厳格化の影響もあり2014年度は中退者(除籍者を含む)の数と割合が跳ね上がったが、その後は低下傾向が続いている。

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 出口にも変化が起きている。学生一人ひとりに対応する「オーダーメイドの就職支援」によって元々、中・四国でトップクラスの就職実績を上げていたが、近年は大企業や公務員の内定者が増加するなど、「就職の質」が変化。公務員試験合格者が後輩をサポートする講座を自主的に立ち上げる動きも出ている。
 学生の質の変化は教員一人ひとりが体感的にも捉えている。経済政策が専門で准教授として教壇に立つ石田優子副学長は「教室に入った瞬間の空気が以前とは全く違う。比較的大きな教室の授業でも私語はほとんどないし、質問に来る学生も増えた」。授業が静かにスムーズに進むため、扱う範囲が広がり深さも増したという。「学生のレベルも上がっているのでしっかりついてきてくれ、こちらも手ごたえを感じてやりがいがある」。

●学生の満足度や成長実感が口コミで高校に

 教育改革と連動した戦略的定員割れに対する高校教員の反応は、6年間で大きく変わった。当初は「これまでなら広島経済大学に合格できていた生徒が入れなくなった」という苦言も聞かれ、「どこまで続けられるか、本気度を見極めたい」という懐疑的なコメントも。
 しかし、学生や卒業生の「選ばれて入った」という自信と教育満足度、成長実感が口コミで母校に伝わるようになり、今や、入試広報センターの岡田英幸センター長らによる高校訪問では肯定的な評価がほとんどになった。「合格ラインを落とさないという強い意志を感じ、信頼できる」「学力が足りない生徒はどんどん不合格にしてほしい」「上位校に受かっても広島経済大学に行きたいという生徒が増えてきた」。
 こうした高校からの評価が志願者増という「数の成果」を生み出し、GPAや中退率における「質の成果」にもつながっていると言えそうだ。