2018.0702

主体性等の評価で高大が意見交換-JePのカギの一つは「省察」欄の活用

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3行でわかるこの記事のポイント

●JePでは最終的な到達段階だけでなく、そこに至るプロセスも見る
●「省察(リフレクション)」による活動への意欲向上を期待
●大学は主体性を評価する観点について募集要項で明記が必要

入試改革において、学力の3要素の一つ「主体性・多様性・協働性」をどう評価するかが大学にとって大きな課題となっている。そうした中、高校生の主体性等に関する情報を蓄積し、大学に情報を提供する「JAPAN e-Portfolio(以下、JeP)」に対する関心が、高校と大学、双方で高まっている。ベネッセコーポレーションが高校教員向けに発行している『VIEW21』高校版では、高校教員とJePの開発に関わる大学の研究者による座談会を実施。主体性等の評価をめぐる課題とJePの可能性について高校現場と開発側がそれぞれどう考えているか、座談会のダイジェストを通して紹介する。

*JAPAN e-Portfolioのウェブサイトはこちら
*JAPAN e-Portfolioに関する記事はこちらこちら
*JAPAN e-Portfolio関連の『Between』特集はこちら


●座談会出席者

北海道札幌北高校 福士公一朗教諭
兵庫県・私立灘中学校・高校 井上志音教諭
岡山県立玉島高校 山﨑淑加副校長
大阪大学高等教育・入試研究開発センター 井ノ上憲司特任助教
関西学院大学高等教育推進センター 時任隼平専任講師

●2900の高校がJePを活用

時任 JePは高校生活の活動を記録するe ポートフォリオで、受験生の主体性を評価するために文部科学省の委託事業として開発を進めています。2018年5月現在、全国の約2900校の高校の先生と生徒に無料で活用いただいています。
 本事業には、多くの高校の先生から「そもそも主体性を評価できるのか」といった質問をいただきます。生徒が主体的な思考をしていても、それが言動に表れない限り、測ることはできません。JePでは具体的な言動から主体性があるかどうかを評価しますが、最終的な到達段階だけではなく、そこに至るまでのプロセスを見ることができるよう、生徒が自身の活動を振り返り、その過程や結果に対して何を考えたのかを記入する「リフレクション(省察)」の欄を設けました。

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山﨑 JePは、学校生活のあらゆる活動が網羅されている点がよいと感じています。探究活動や学校行事、部活動など、教科学習以外の活動内容も評価されるようになっているので、生徒の学校生活全般への意欲が高まりそうです。高校現場でもうまく活用するとよいと思います。
井上 私は、リフレクションが入っている点がよいと思います。これを「反省」の意味と取ると、失敗した時に行うものというイメージになりますが、成功時も何が成功につながったのかを省察し、自分が次に何をすべきかが明らかになれば、活動への意欲が高まるのではないでしょうか。

●大学は自学のAPに基づきJePで参照する項目を選定

福士 自分の活動を言語化することは、メタ認知を促す点でも効果的です。生徒に振り返る力をつけるために、何度もリフレクションをさせることが大切でしょう。
時任 生徒は初めから省察力を持っているわけではなく、先生方が教育的な意図を持ってJePのリフレクションの項目を設定することによって深い省察ができるようになります。大学の授業でも振り返りができない学生が多く、入学前から自分の考えを言語化する訓練を積んで省察する力を育成する必要があります。
井上 各大学は入試において、JePの項目からどのように生徒の主体性を見ていくのでしょうか。
井ノ上 各大学はJePにある項目のすべてを見るのではなく、自学のアドミッション・ポリシーをふまえて取捨すると想定しています。探究活動における主体性を重視するならその項目を参照するでしょうし、生徒会活動や部活動を見る場合もあるでしょう。そのため、大学が「こういう面で主体性のある生徒が欲しい」ということをアドミッション・ポリシーで明示する必要があります。

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●デジタル調査書の普及で一般入試でも調査書がより重視される

福士 入試でポートフォリオが使われるというと「入試のために教育をしているわけではない」と抵抗感を持つ教師もいます。しかし、JePの場合、入試利用の側面もさることながら、ポートフォリオを活用することで「見えない学力」と言われてきた部分が「見える化」される点こそが重要です。ポートフォリオの項目を意識することで教師の指導観や生徒を見る視点が変わり、「教育の本質」により迫ることができるのではないでしょうか。大学は、入試においてJePをどのように活用するのでしょうか。
井ノ上 各大学は入試区分ごとにJePのどの項目を見るのか募集要項に明記することになります。大学によって見る項目は異なるでしょうから、全体として多くの項目が入試で見られることになると推測されます。
時任 JePに限らず、大学が受験生に提出を求めたものは評価の対象として利用することが入試の原則です。仮に見られない項目があったとしても、福士先生が言われた「教育の本質」を追求するという観点で、生徒が自身の3年間の軌跡を客観的に振り返る教育的効果は小さくないと考えています。
井上 一般入試の調査書の扱いは変わるのでしょうか。
井ノ上 デジタル調査書が普及すれば情報の把握が容易になり、一般入試でも調査書が今まで以上に重視され、探究活動や学校行事など、多様な活動が評価対象になるでしょう。

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 座談会後半では「各種活動で特筆すべき成果がない場合、主体性等の評価は低くなってしまうのか?」「高校の教員間で主体性等の捉え方に違いがある場合、JePへの記載の足並みがそろわないのでは?」など、JePの運用に関する高校側の懸念が示され、その解消に向けた基本的な考え方が共有された。主体性等の評価を求められている大学にとって、情報を登録する高校側の期待や懸念材料を知り、それに対する開発担当者の見解を理解しておくことが重要と言えるだろう。

*ベネッセコーポレーション発行『VIEW21』高校版の座談会記事はこちら