2018.0125

佐賀大の入試改革<下>2019年度一般入試で主体的な活動・実績を評価

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校時代の活動・実績をアドミッション・ポリシーに基づいて評価
●ネット出願と連携する「評価支援システム」の開発で効率的な評価環境を構築
●「受験対策が自らの成長につながる入試」を設計

佐賀大学は2018年度入試でタブレットを使う試験を実施した。さらに、2019年度入試では一般入試で主体性を評価・加点する特色加点制度もスタート。文部科学省が検討課題に挙げるCBT、および多くの大学が課題とする一般入試における主体性の評価等、入試改革の重要テーマに先行的に挑む。2つの新入試を概観し、これらに共通する同大学の理念を紹介する。今回は2学部で予定する主体性評価型の一般入試を取り上げる。
*佐賀大の入試改革<上>はこちら
*佐賀大学のこれまでの入試改革はこちら


●芸術地域デザイン学部のAO入試の特色加点はほぼ全員が申請

 佐賀大学は理工学部と農学部の2019年度一般入試で、受験生の主体的な活動による実績や成果をアドミッション・ポリシー(AP)に基づいて評価する「特色加点」を導入する。
 特色加点は芸術地域デザイン学部のAO入試(募集人員15人)で2015年度の新設時から実施されている。部活動や探究活動、ボランティア活動などの実績や成果を紙の申請書に記入して任意で提出してもらい、加点方式で評価するというものだ。必須ではないにもかかわらず、開始当初からほぼ全ての出願者が申請書を出している。2018年度の入試では経済学部も推薦入試(募集人員60人)でこの方式を採用した。

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*佐賀大学HPでの特色加点の説明はこちら

●合否ボーダーの層を切り出して特色加点を適用する方向で検討

 理工学部と農学部の2019年度一般入試の募集人員はそれぞれ359人と106人を予定している。例年の出願者数は合わせて1,000人ほどで、アドミッションセンターでは大多数が特色加点を申請すると見込んでいる。
 この規模、および1月下旬の出願から個別試験を経て3月上旬に合格発表というスケジュールに対応するため、特色加点の申請書やそのエビデンスとなる資料をデジタル化してネット出願で受け付ける。提出された情報を短時間で処理し、ルーブリック設定や自動的な判定処理まで行う「評価支援システム」の開発をはじめ、効率的な評価体制を構築中だ。同年度入試からは、芸術地域デザインと経済両学部の特色加点含め、全学部の全ての入試方式で「評価支援システム」を活用する。
 主体性評価については、関西学院大学などが文部科学省の委託を受け、多くの高校生に該当する資格・検定や活動を統一的な表記で蓄積して共同利用するJAPAN e-Portfolioを開発している。佐賀大学はこれとの連携も視野に入れ、評価環境の構築を進めている。
 2019年度入試からの理工と農、両学部の一般入試では、学力テストの得点への加点によって合否が入れ替わる可能性がある層のみを対象に、「2次選考」として加点評価を行う「段階選考」が検討されている。これにより、多数の出願者を適正な規模に絞り込んで主体性を評価できるようになる。

●主体的な活動への意識的取り組みと振り返りを促す

 アドミッションセンターの西郡大教授は「タブレット入試や特色加点をはじめとする本学の入試改革の真のねらいは、高校の学習のあり方を変えていくこと」と話す。大学が入試をどのように変えても、高校は必ずその対策に動く。そうであれば、高校と大学双方にとって「望ましい対策」を促す入試に変えようとの発想の下、評価の信頼性や妥当性という技術的な視点だけでなく、大学入試のあり方と学習活動との相互作用という新たな価値観を提起する。
 推薦入試における教科書レベルの基礎学力・学習力評価型のタブレット入試では、日ごろの授業を真面目に受けることの大切さを伝え、知識の詰めこみではなく解説を読めば解答できるような学習能力を高めてほしいというメッセージを込めている。
 「特色加点も、入試で評価の対象になるならと、主体的な活動に積極的に取り組んでもらうねらいがある。やりっぱなしになりがちな探究活動をはじめ、自分の取り組みをポートフォリオなどにきちんと蓄積し、受験を機に振り返って、身に付けた能力やスキルを大学でどう生かせるか考えてほしい」と西郡教授。主体的な活動に対する評価を当初配点に組み込むのではなく加点方式にしているのも、大学が評価する学習活動や取り組みに着目し、意識的に捉えてほしいからだという。自分の活動を入試でアピールするためにAPをきちんと理解してほしいとの期待もある。

●一般入試含む全ての入試で学力の3要素を評価する方向で検討

 国立大学協会は2021年度までに、推薦・AO入試等による入学者の割合を全体の3割程度にする目標を掲げている。佐賀大学は2019年度の理工学部と農学部の改組によってこの割合が大幅に上昇、全学でも現在の20%から27%になる予定だ。西郡教授は「本学では、推薦・AO入試の拡大を目指すというよりも、一般入試を含む全ての入試で学力の3要素をどう評価するかという方向で検討を進めている」と説明する。
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 入試改革の先頭を走ることによって「大学で学ぶために高校で必要な学習活動、学習経験を喚起する入試」をスタンダードとして確立したいとの考えが、佐賀大学にはある。西郡教授は「本学だけでスタンダードを作ることはできないので、九州の他の国立大学と連携してさまざまな検討を進めている。これまでなかった形の大学間連携がなされていることも、入試改革の果実と言える」と話す。