2018.0109

共通テスト試行調査の問題分析~個別試験でも高校の教育改革への対応を

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3行でわかるこの記事のポイント

●探究活動の話し合いやグループワークの場面からの出題が増加
●高校では身近な課題を掘り下げ意見をまとめる「探究的な学び」が推進される
●各大学の個別試験も、マークシートの工夫含め入試の見直しを

大学入試センターは先ごろ、2020年度から導入される大学入学共通テストの第1回試行調査の問題を公表した。現実の課題について考える力、さまざまな情報を統合したり多面的・多角的に考察したりする力、他者の意見をふまえて自分の意見を組み立てる力など、入試改革の議論を通して強調されてきた観点が反映された。試行調査の問題を分析し、その方向性をふまえた高校教育の改革に大学がどう対応すべきか考えてみたい。

*入試センターの発表はこちら


●マークシートでは複数の正解や「該当なし」の問題も

 試行調査は2017年11月、英語を除く5教科11科目で実施され、約1900の高校で延べ18万人の生徒が参加した。国語と数学ⅠAはマークシート式と記述式で2年生以上、それ以外の理科、地歴、公民はマークシート式で主として3年生が受験した。
 全教科・科目を通じた問題の傾向として次のようなことが挙げられる。

1.「社会とのかかわり」や「探究活動」を意識した出題の増加
・すべての教科で社会との関わりを意識した素材が取り入れられた。授業における話し合いやグループワークの場面が扱われるなど、「探究活動」を意識した出題も目立つ。
・生徒どうしの会話文など、さまざまな場面設定において論理展開を把握する必要があり、全体的に問題文の分量が増加。従来のセンター試験以上に読解力が要求された。

2.「複数の資料」を読み取り情報を統合・考察する力を重視
・複数の資料が扱われる問題が全体的に増加した。多様な資料を比較したうえで情報を統合したり多面的・多角的に考察したりと、思考力重視の出題意図がうかがえる。
・資料をもとに考察を深めていくタイプの問題だけでなく、ある「主張」に対して「前提となる事実」や「主張の根拠として適切な資料」を選択させるなど、問い方にも工夫が見られた。

3. 解答形式の多様化(記述式、新形式のマークシート式による出題)
・記述式の問題では、根拠を示しながら論理的に記述する力などが問われた。
・マークシート式の問題でも「正解が複数ある問題」や「前問の解答と連動する問題」、「当てはまる選択肢をすべて選択させたり、『解なし』を選択させたりする問題」など、従来なかった問い方や解答形式の問題が多く見られた。

 これらの傾向の具体例として、次のような問題が挙げられる。

○国語:生徒会の話し合いという場面設定の下での50字以内、25字以内、80字以上120字以内の3つの記述問題。いずれも話し合いの内容をふまえて複数の資料から情報を選択・整理し、目的に応じて適切にまとめる。経験や既有知識に基づいて情報を整理し、根拠を示しながら論理的に記述することが求められる問題も。
○数学ⅠA:高速道路の渋滞表示と運転手の道路選択の関係という日常生活や社会の事象を扱った確率の問題。与えられている条件を数理的にとらえ立式する力や得られた結果から社会の事象を解決する力が求められた。
○物理:ブランコの揺れという身近な物理現象を題材に、実験結果からの考察として合理的なものを全て選ぶが、該当するものがない場合もあり得るという問題。
○生物:除草剤による植物枯死に関する探究活動のグループワークを想定した問題。リード文の情報を整理して探究活動を振り返る力、各実験の結果を推定して仮説を検証する力が求められた。
○世界史B:第一次世界大戦中の外交に関する複数の資料のうち、任意のものから読み取れることを選択肢の中から1つ選び、それと関連が深い事項を次の問いで選ぶという形で正解を2組設けた問題。

●共通テストの問題を参考に、個別試験でも知識や思考力の問い方の工夫を

 こうした出題は、高大接続システム改革会議の最終報告の提言に基づいている。最終報告では、現行のセンター試験について「知識の習得状況の評価」「与えられた問題を分析的に思考・判断する能力の評価」においては優れているとした。一方で「複数の情報を統合し構造化して新しい考えをまとめる思考・判断の能力の評価」「過程や結果を表現する能力の評価」についてはさらなる改革が求められると指摘した。
 これらの課題をふまえて新しい共通テストへの記述式の導入が提言された。マークシート式についても、①問題に取り組むプロセスにも解答者の判断を要する部分が含まれるよう工夫する、②複数のテキストや資料を提示して必要な情報を組み合わせ思考・判断させる、 ③分野の異なる複数の文章の深い内容を比較検討させる、④他の教科・科目や社会との関わりを意識した内容を取り入れる、⑤正解が一つに限られない問題とする、などの改善を求めた。
*最終報告はこちら
 こうした改善によって大学入学共通テストでは学力の3要素のうち知識・技能、思考力・判断力・表現力をセンター試験以上に適切に評価し、各大学の個別試験で主体性等を評価することが想定されている。
 入試センターは、今回の問題構成や内容が必ずしもそのまま2020年度からの大学入学共通テストに受け継がれるものではないと説明している。それでもこのテストの基本的な方向性は十分に読み取れるので、各大学は個別に課す筆記試験で知識や思考力を評価する出題の工夫として今回の問題を参考にすべきだろう。マークシート式の出題の改善にも生かせるはずだ。

●「特別な対策が必要な入試は国公立との併願で敬遠される」

 ベネッセコーポレーション初等中等教育事業本部教育情報センターの渡邉慧信センター長は「公表された問題をふまえて高校では、新入試に対応すべく授業改善が進むと考えられる」と指摘する。「教科で学ぶ内容を活用して身近な課題の解決について考えさせる指導、自分の考えを根拠や理由とともに表現する機会の設定、多様な立場の異なる意見を受け入れて対話を重ねて解を見出していくような指導、すなわち探究的な学びを取り入れた授業改善の流れが加速するだろう」。
 探究的な学びは2020年度から実施される新学習指導要領の下で「総合的な学習の時間」から移行する「総合的な探究の時間」を中心に、各科目で取り入れられる(先行的に導入されている探究学習の情報はこちら)。
 高校の進路指導に詳しい進研アド基盤戦略室商品基盤部の仁科佑一グループリーダーは「高校教育の変化に向き合い、そこで育成される力を正攻法で問う個別試験であれば高校から評価され、教員が生徒に受験を勧めるはずだ。逆に大学入学共通テストの方向性とは相いれず特別な対策が必要な入試は高校から敬遠され、国公立大学との併願で優秀な受験生を集めることは期待しにくくなる」と話す。
 入試問題は大学からのメッセージだと言われる。「高大接続改革の下で授業に真剣に取り組み、社会で求められる確かな力を身に付けた高校生に受験してほしいという期待は、全ての大学から発信されるメッセージの共通項となるべきだろう」と仁科グループリーダー。
 2018年度のセンター試験は1月13、14の両日実施される。新たな共通テストへの移行に向け、何らかのメッセージが出されるか注目したい。


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