2017.1106

杏林大学―「高校生が履修した単位の認定+大学間の単位互換」スタート

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3行でわかるこの記事のポイント

●高大接続改革をテーマにした文科省のAP事業の一環として展開
●大学の正規授業で高校生を受け入れ、修了者は入学後に単位認定
●協定を結んだ大学間で、入学者の単位を相互に認定

杏林大学は2017年度、正規の科目で高校生の履修を受け入れ、修了した場合、入学後にその単位を認定するアドバンストプレイスメント(Advanced Placement=AP)プログラムをスタートさせた。高校生のうちから大学の学びに触れて意欲を高め、単位を先取りして大学進学後により高い目標を達成してもらうという高大接続の施策だ。APを導入する大学間で相互に入学者の単位を認定する協定を結んでおり、参加校の拡大に力を入れている。

*杏林大学のウェブサイトのAP紹介ページはこちら


●従来も高校教員との定期的な意見交換など、高大連携を積極的に推進

 杏林大学によると、アドバンストプレイスメント(Advanced Placement=AP)はアメリカをはじめ中国・韓国・台湾などで広く実施されている。アメリカでは意欲のある高校生を対象とするエリート教育の一環としてスタートしたが、近年はマイノリティの家庭の高校生に大学での学びに触れる機会を提供し、進学を後押しする機能も持つようになったという。日本での導入事例は桜美林大学をはじめ、ごく少数にとどまっている。文部科学省は高大接続改革のための施策として、高校生対象の科目等履修制度や聴講制度、そしてAPも推奨している。
 杏林大学は2014年度の大学教育再生加速プログラム(Acceleration Program=AP)「テーマⅢ 高大接続」に「日英中トライリンガル育成のための高大接続」で採択され、外国語学部を中心に全学で展開してきたグローバル人材育成の取り組みを生かす形で高大連携を推進している。その中で、高校教員と定期的に意見交換をするラウンドテーブルの開催、学生・留学生・高校生による日英中トライリンガルキャンプの実施、留学準備科目や英文のライティングセンターの高校生への開放などを行っている。2016年度に交通の便が良い井の頭キャンパスを新設し、八王子キャンパスにあった外国語学部や総合政策学部を移転したことで連携先が広がり、高大連携・高大接続の活動に弾みがついた。

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●高校生の囲い込みではなく、学ぶ意欲を支援するAPに

 2017年度からのAP(Advanced Placement)も、こうした高大連携、高大接続改革の一環としてスタート。授業を受けて杏林大学の教育内容に対する興味が高まり、入学する生徒が一人でも多く出てくればという期待は、もちろんある。しかし、ラウンドテーブルでは高校側から「優秀な生徒を大学が囲い込むようなAPではなく、生徒のモチベーション向上を最優先してほしい」との要望を受けた。そこで、進学の選択肢を広げられるよう、大学間での単位互換協定の呼びかけとセットで進めることにした。
 ラウンドテーブルでは他にもさまざまな注文、要望が挙がった。同大学では当初、高校の授業と重ならないよう5限の授業のみを開放する考えもあったが、高校側から「生徒の主体性を尊重し、高校の授業への出席については柔軟に対応したい」「本校は単位制なので時間割の組み方で対応できる」という反応があった。そこで、生徒の選択肢を最大限に広げるべく、内容重視で1~4限の授業も対象に含めることに。また、「3年生は受験準備で忙しいので、主に1・2年生が大学の授業に興味を持つ機会を提供してほしい」という声も、対象科目の選定に生かした。
 結果的に、高校生に開放する科目は外国語学部38、総合政策学部25、保健学部5、医学部2の計70科目。高校生の理解度、および他大学での単位認定のしやすさを考慮して低学年向けの専門基礎的な科目を選んだが、一般学生向けの正規科目なので授業内容や成績評価のレベルは落とさない。近隣の高校を中心にAPへの参加を呼び掛け、初年度はさまざまな学力レベルの9校と覚書を締結した。
 各高校から履修を希望する生徒を科目等履修生として受け入れ、授業料は通常の9分の1に設定。週1コマ(2単位)の授業は1セメスター5000円で、別途、登録料5000円がかかる。初年度は春学期と秋学期合わせて延べ6人の高3生が、外国語学部の「観光交流文化特論Ⅲ」「ことばと社会」「日本文化論」などの科目を履修。春学期は3人が単位認定に至った。1人は元々同大学の受験を考えていて、授業の雰囲気を経験し、受験や入学後に生かせるメリットも得たいという動機で履修したという。

●当面は協定参加10大学への拡大をめざす

 同大学が、APによる単位を相互に認定する協定の締結を呼びかけ、これまでに桜美林大学、共愛学園前橋国際大学、創価大学が参加している。A大学の授業を受講して単位を修得した高校生がB大学に入学した場合、B大学はその単位を自学の卒業要件として認定するという内容の協定だ。共愛学園前橋国際大学は2017年度からAPを始めており、創価大学も2018年度から導入する予定だという。

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 初年度、杏林大学のAP履修生の数はまだ少ないが、イギリス出身でこの制度の意義を熟知するポール・スノードン副学長は、「受講生の拡大以上にコンソーシアムに参加する大学の拡大に力を入れ、10大学を当面の目標にしたい」と話す。修得した単位を生かせる可能性が広がれば自ずと履修生も増えるという期待があり、今後は首都圏以外の大学にも積極的に呼びかけるという。その活動においては、外国語学部の坂本ロビン学部長の存在も大きい。アメリカでの高校時代、APを活用して10数単位を修得、「大学入学後の時間をより有意義に使うことができた」という体験に基づいて制度の意義を語れるからだ。
 APを担当する高大接続推進室の稲垣大輔室長は「本学で指導した生徒が、協定先の他大学に入学するケースも当然出てくるわけだが、そこは仕方ない」と話す。「大学の知を開放して小中高大の中で最もギャップが大きい高校と大学との接続に一石を投じることがAPの本来のねらいであり、本学がそのパイオニアになる意義は大きい」。
 2014年度から進めている他の高大連携プログラムへの参加を経て同大学に入学した学生は、10人近くに上るという。学生募集が最終的なゴールではないAPでも、高大接続改革に貢献しつつ、自学の特色を十分に理解して選んでくれる学生を少しずつ増やしていく。そんな地道な取り組みを、AP(Acceleration Program)の助成期間が終わった後も、自前で展開していきたいという。

*杏林大学は、APの単位互換に関する問い合わせを下記のメールアドレスで受け付けている。
koudai@ks.kyorin-u.ac.jp


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