2016.0415

2016年度入試志願動向 + 【トピックス】金沢工業大学 「入学者の質」を重視する入試改革を断行

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3行でわかるこの記事のポイント

*志願動向のポイント
①一般、センターともに志願者が増加
②併願校数は絞り込み、学内併願でのべ志願者数がふくらんだ
③入学定員管理厳格化の影響で後期試験の志願者が10%増加

2016年度入試で私立大学の志願者はどう動いたのか、入試方式ごとに着目して解説する。全体として志願者が増加する中、志願者減を覚悟で「入学者の質」を重視する入試改革に舵を切った金沢工業大学の事例も、併せて紹介する。


●全体では4.4%増

 2016年4月9日までに収集した私立大学315校の一般入試とセンター試験利用入試の志願者数データを基に、受験生の動きを見ていく。
 まず、全体状況を確認しておこう。
・18歳人口が前年度の119万9977人から119万262人(対前年指数99.2)に減少する中、私立大学の志願者数は12万人以上の増(同104.4)となった。
・志願者増は大規模大学が中心だが、例年以上に大幅減となった大規模大学もあった。
・ここ数年の「理高文低」から「文高理低」に変化。特に法・政治、経済・経営・商の2系統が大幅増。

●ネット出願や全学統一入試の拡大で併願が増加

 ここからは入試方式別に見ていく。各方式の定義は次の通り。
①一般入試前期...試験日が2月24日以前
②センター試験利用方式前期A...センター試験実施前に出願締切日を設定
③センター試験利用方式前期B...センター試験実施後に出願締切日を設定、合格発表日が2月24日以前
④一般入試後期...試験日が2月25日以降
⑤センター試験利用方式後期...センター試験実施後に出願締切日を設定、個別試験が2月25日以降。個別試験を課さない場合は合格発表日が2月25日以降。

 志願動向表.png

 表に示すように、全ての入試方式で志願者が増加しており、要因としては次のようなことが考えられる。
① 景気回復傾向を背景に、受験生1人当たりの出願数が増加。
② インターネット出願、併願割り引き制度、全学統一入試などの拡大に伴う併願数の増加。

●大規模大学の合格者数絞り込みで3月入試に駆け込む

 メーンである一般入試前期の指数は104.7だが、志願者が増えた大学は全体の半数以下にとどまっている。これは、1人あたりの出願数が増加しても、学内併願が多く、出願校数は増加していないためだと推測される。併願割り引き制度や全学統一入試を利用して一つの学部に複数の方式で挑戦したり、複数の学部に出願したりする受験生が多かったのではないか。
 センター試験利用方式は、かつては毎年大幅増を続けていたのがここ数年は微増となり、2015年度には減少。今回、再び増加に転じた。新設の学部・学科と、2016年度から新たにこの方式を導入する学部・学科が例年より多かったためと考えられる。ここ数年の傾向から「センター離れ」が指摘されてきたが、今後、各大学が入試改革を進める移行期には、「わかりやすく」「対策方法が明確な」入試として、受験生が避難的にこの方式を選ぶことも予想される。
 一般入試後期とセンター試験利用方式後期、2つの3月入試の大幅な志願者増は特に目を引く。入学定員管理の厳格化を受けて大規模大学が合格者数を絞り込んだ結果、前期で不合格となり3月入試に駆け込む受験生が例年以上に多かったと考えられる。

●求められる入試改革の軸足のシフト

 私立大学全体としては「志願者数の増加」と総括できる2016年度入試だが、これは各大学がのべ志願者数を増やした結果と言えそうだ。
 18歳人口が減少を続け、高校生が教育の中身で大学を選ぶようになる中、学生募集や入試改革の軸足は、数以上に入学者の質をより重視したものへとシフトすべきだろう。自学ならではの成長支援の仕組みをアドミッション・ポリシーと共にわかりやすく発信し、それに適合する学生を受け入れるための入試を行うことが重要と言える。

*志願者データは豊島継男事務所による集計。対前年指数は前年度の同時期との比較。
*『Between』2016年4-5月号(4月27日発行)には、学部系統別の分析を中心とする「市場の現況―志願動向から見えること」を掲載します。ぜひ、併せてお読みください。

【トピックス】金沢工業大学:「入学者の質」を重視する入試改革を断行

●英語の必修化、および2教科型から3教科型への変更

 金沢工業大学の2016年度入試の志願者数(推薦・AO入試を含む)は3年ぶりに1万人を割り込み、9101人(対前年指数85.9)だった。入試センターの北村長次次長は、「入試のハードルを上げたので2割減も覚悟していた。14%程度の減で、むしろほっとしている」と話す。

金沢工大グラフ最新.png

 6つの方式がある学力型入試のうち、一般試験前期、センター試験利用前期など主だった4方式で英語を必修にしたり、2教科型を3教科型にしたりという変更を加えた。理系総合大学として確かな基礎学力を身に付けた学生を受け入れ、グローバル社会でイノベーションを創出できるエンジニアに育て上げるという意思とメッセージを込めた入試改革だ。「技術者に求められる基礎学力を身につけている学生」というアドミッション・ポリシーとの整合性も、より明瞭にした。
 同大学では2016年度から専門基礎科目とプロジェクトデザイン科目の一部の授業を英語で行い、2020年には全科目の半分を英語を軸とした授業運営にする構想もある。

●志願者数3年連続1万人突破で「今しかない」と決断

 2013年度入試で初めて3教科型を導入した時も志願者の減少を覚悟したが、同時にセンター併用型を始めたこともあって逆に大幅増に。その年から3年連続で志願者数1万人台を維持し、今回の改革は、2018年問題を目前に「今しかない」というタイミングでの決断だった。「高校の先生は、カリキュラムに合致した入試をする大学を信頼し、生徒に薦めてくれる」との確信もあったという。
 今回からインターネット出願も導入。推薦・AO入試も含め全ての方式をこれに切り替え、合格後の入学手続きまで一貫したネットシステムを運用している。
 2016年度の入学定員充足率は1.1倍。入学者の詳しい分析はこれからだが、従来の「突出した得意科目がある理系の学生」から「文系科目を含め学力のバランスが取れた学生」へと、ねらい通りに学生の層が変わる感触を得ているという。
 北村次長は「入試は大学から高校生に対する最大のメッセージ。今回の改革を通して受験生はもちろん2年生、1年生に対しても『金沢工業大学はこんな学生を求めている』と発信できた意義は大きい」と話す。