2023.0412

学部等設置認可における学生確保見通しの審査基準を厳格化

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3行でわかるこの記事のポイント

●地域の18歳人口の長期的動向や競合校の定員充足状況をふまえて分析
●自学の既存学部の充足状況や学生募集の成果もふまえた見通しを説明
●高校生調査では必須の設問に基づくクロス集計で入学意向を把握

私立大学等の学部等設置認可手続きにおいて、学生確保の見通しに関する審査基準が厳しくなる。エリアごとの18歳人口の長期的な動向分析、高校生の入学意向把握における客観性の担保など、精緻なマーケット分析に基づくエビデンスが求められる。

*パブリックコメント募集時に示された審査基準改正(案)の概要はこちら
*学生確保の見通し等に関する書類の記載事項の説明はこちら
*データ提出のフォーマットイメージはこちら
*「申請・届出書類作成の手引、記入様式」はこちらに集約


●2025年度開設の大学、学部等の設置審査から適用

 審査基準(大学の設置等に係る学校法人の寄附行為及び寄附行為の変更の認可に関する審査基準)の改正は2023年3月1日に公布・施行された。2025年度開設の大学、学部等の設置審査から適用される。
 これまでの審査でも、学生確保の見通しにつながるものとして、審査基準において「入学定員が合理的に算定されていること」が求められたが、「合理的な算定」の観点は具体的に示されていなかった。今回、その観点として①入学希望者数に関する長期的な動向と人材需要の動向、②競合となる大学の定員充足状況、③学生募集活動の効果-が追加され、これらに関する分析データの提出が求められている。一部については指定したフォーマットでの記載を求める。
 以下、四年制大学による学部新設を例に、新たに求められるデータの主なものについて説明する。

●学科単位で5年間の入試方式ごとの志願動向を記載

1.  18歳人口の中長期的な動向
 学部開設から10年間の全国的、地域的な18歳人口の動向分析に基づいて新設学部の定員を充足できることを説明する。これをふまえ、学生募集地域の設定の妥当性について、学校基本調査のデータ(出身高校の所在地県別入学者数)、および自学や他大学の実績も用いて、どの都道府県からどの程度の進学者が見込まれるか説明する。

2.既存学部の定員充足状況
 学科ごとに直近5年間の入試方式ごとの志願者数、受験者数、合格者数(そのうち追加合格者数)、辞退者数、入学者数について延べ人数と実人数を整理し、入学定員充足率、歩留まり率を示す。そのうえで、今後の定員充足の見通しについて説明する。

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 申請時点で収容定員充足率7割未満の学科等がある場合は、原因を分析したうえで新設学部の定員設定の合理性について説明する。

●オープンキャンパス参加から入学までを追跡して受験率、入学率を分析

3.既存学部・学科の学生募集活動の実績と効果
 学部・学科ごとに具体的な募集施策と効果を示す。過去2年間のオープンキャンパスや各種説明会の参加者数、そのうち受験対象者数、そのうち受験者数、そのうち入学者数を整理し、受験率や入学率を算出。

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 資料請求者についても入学につながった割合を分析する。
 記載内容の例として、高校訪問の計画と実施体制、訪問エリアや学校数等の目標、ホームページのアクセス数、SNSの登録者数や配信数に関する計画、目標なども挙げられている。
 これら既存学部・学科に関する分析をふまえ、新設学部の学生募集活動の方針と戦略、実施計画・目標を説明する。新設学部で同様の取り組みをした場合に見込まれる入学者数を、取り組みごとに説明する。

4. 競合校の定員充足状況分析

 教育内容と方法、入試(実施時期や入学手続き時期等)、学生納付金・奨学金制度、取得可能な資格等の観点から競合校との比較分析を行い、自学の優位性を説明する。学校種や定員規模、学問分野、学生募集地域、ターゲットとする受験生の学力層などの類似性の観点から、「なぜその大学を競合に選んだか」も説明が必要だ。
 競合校の公表情報から過去3年間の志願状況(志願者数、受験者数、合格者数、入学者数、定員充足率)を集め、自学の優位性に関する分析もふまえて新設学部の定員を充足できることを説明する。

●募集地域の高校生の中で「新設学部への入学意向がある人数」を集計

5. 高校生対象のアンケート
 文科省は、新設学部における学生確保の見通しの根拠として、従来も高校生対象のアンケート等のデータを求めてきた。担当者は「これまでは学生募集地域と異なる地域で調査を実施したり全国調査のデータを提出したりするケースもあった。また、設問が誘導的で新設学部に好意的な評価を得やすい設計など、結果の信憑性に疑義があるものが見受けられた」と指摘。今後は客観的なエビデンスとなるよう、調査実施の要件や必須の設問項目を示し、「実際のターゲット層の新設学部への入学意向」を確認するためのクロス集計を求める。
 具体的な要件として「学部開設時期や学生募集地域とアンケート対象者の進学時期、居住地域を合致させる」「回答者に対し、学部・学科名、養成する人材像やアドミッション・ポリシー、設置場所・アクセス、学生納付金、競合する大学やその学部・学科名などの情報を明示する」といったことが示されている。
 さらに、以下のような選択肢による設問が必須となる。(①~③は新設学部の内容に応じて説明や選択肢を変えられる)。
 
①卒業後の希望進路(選択肢:大学、短大、専門学校、就職...等)
*専門学校や就職を選んだ者は以降の設問から除外
②進学を希望する大学等の設置者(選択肢:国立、公立、私立)
③興味のある学問分野(選択肢:学校基本調査の学科系統分類表の中分類から選択。新設学部に該当するものがない場合は選択肢を追加できる。複数選択可)
④新設学部の受験を希望するか
 設問:○○大学○○学部○○学科が開設された場合,受験を希望しますか。(選択肢:第一志望として受験する、第二志望として受験する、第三志望以降として受験する、受験しない)
*「受験しない」と回答した者は⑤の設問から除外
⑤新設学部に合格した場合に入学するか
 設問:○○大学○○学部○○学科を受験して合格した場合、入学を希望しますか。(選択肢:入学する、志望順位が上位の他の志望校が不合格の場合に入学する、入学しない)

 これらの設問に対する回答については、クロス集計で「私立四年制大学志望で〇〇系統に興味がある」高校生のうち、自学の新設学部を「受験し、合格したら入学する」と答えた人数を算出し、学生確保の見通しとして示す必要がある。

●精緻なマーケット分析に基づく戦略立案とビデンスが必須に

 文科省は公立大学の設置認可申請においても同様の書類の提出を求める。国立大学について、担当者は「これまでも学生確保の観点をしっかり求めているところであり、特に変更はない」と説明する。
 2024年3月末申請分(2025年度学部等設置)からは、収容定員充足率5割以下の学部が一つでもあると認可されないという新たな基準も設けられる。
 18歳人口が減少していく中、設置認可手続きによって新たな学部等を設置するためには、既存学部の定員を充足させたうえで、精緻なマーケット分析に基づく戦略立案と具体的な学部等の設計に取り組み、学生確保のエビデンスを示すことが必須となる。場合によっては届出による改組や定員削減によって充足率を改善したうえで、設置認可対象の大きな改革に取り組むという段階的な進め方も考える必要がありそうだ。