2020.0507

乗り切ろう!コロナ危機④ ミスマッチ入学防止のためにできること

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3行でわかるこの記事のポイント

●情報不足で自分との相性を考えられず、「知っている大学」を受験
●従来、オープンキャンパスが担っていた「学校理解」の代替的支援を
●オンライン授業を体験授業として高校生に開放することも一案

オープンキャンパスの中止や進路指導の停止によって受験生が入手する大学情報は例年と比べて圧倒的に少なくなっている。大学にとっては次年度入試の志願者確保が気になるところだが、情報不足によるミスマッチ入学者の増加というリスクも軽視できない。そこで、大学と高校、双方の支援を通じて受験生の「より良い進路づくり」に関わっている「高大共創コーディネーター」倉部史記氏に、ミスマッチ防止のために大学ができることを聞いた。また、ミスマッチ防止を目的にAO入試で課している体験授業をどうするか、九州産業大学の検討案も紹介する。

乗り切ろう!コロナ危機① 数と質の確保に向け対面型広報の代替策を


●自学で伸びる適性を持つ受験生と出会うための方策の検討を

*倉部史記氏の話は以下の通り。

 入試制度が変わるため、受験生は例年以上に大学の情報を必要としている。にもかかわらず、オープンキャンパスはじめ大学からの情報発信が止まり、進路指導も受けられない状況が続いている。このままだと、自分との相性について深く考えないまま「知っている大学」「入れそうな大学」を受験し、入ってからミスマッチに気付くということになりかねない。2021年度以降、各大学で中退者が増えるのではと危機感を持っている。
 大学にとってのゴールは出願者を増やし、定員を満たすことではなく、入学者を成長させることのはず。自学で伸びる適性を持つ受験生と出会えるよう、今の状況の中でやれることを考えてほしい。
 高校生が自分に合う大学を見つけるためには「学問(職業)理解」「学校理解」「自己理解」という3層の理解が必要になる。学問(職業)理解は大学が主に大学案内やウェブサイト、模擬授業などで支援してきた。今、模擬授業はできなくても授業の動画をサイトにアップしたり、大学案内等の制作物を活用したりすることによってカバーできるだろう。

●定量的なデータも学校理解の支援になる

 心配なのは従来、オープンキャンパス頼みになっていた学校理解が不十分になってしまうことだ。例えば、医療系であれば、自学のカリキュラムや授業は他の大学とどこが違うのか。従来ならオープンキャンパスの入試相談コーナーや模擬授業で理解を助けていたが、今はそれができない。
 では、どうすればいいか。定量データなら対面でなくても提供でき、学校理解をある程度支援できる。「自学は実践重視で、同じ資格の養成課程の標準的なカリキュラムに比べると実習が●時間多い」「公立病院の就職に強く、毎年平均●人いる」など、蓄積してきたエビデンスを今こそ、ウェブサイトなどで発信してほしい。
 可能なら中退率も開示し、高い理由、低い理由を説明するのが望ましい。そして「学生の授業外学習時間は平均●時間で、単位修得も卒業も決して楽ではない」という厳しさも伝えてほしい。それが学校理解と自己理解をつなぎ、安易な選択を防ぐことに貢献するはずだ。
 学校理解において、定性的な部分はやはり授業で確認できるのが一番だと思う。たとえば今、多くの大学が準備を進め、一部ではすでにスタートさせているオンライン授業を高校生にも開放してはどうか。可能ならIDを発行してディスカッションに加わってもらい、発言を求めたりレポートを書かせたりすることも検討してほしい。ある程度の負荷をかけることによって自己理解も深まり、その大学に対する自分の適性や本気度を確認できるはずだ。
 新型コロナ問題に対応するための緊急避難措置となるオンライン授業は、募集広報にも大きな変化をもたらすかもしれない。受験生への開放のハードルが下がれば平時に戻った後も、受講者を大学に集めたり、大学教員が高校に出向いたりといった負担がなく体験授業を実施でき、遠方の高校からも参加してもらえるようになる。
 学校理解は従来、オープンキャンパスに依存してきたと言ったが、そこでは教育の中身以上に美しいキャンパスや立派な施設といった表層的な部分が学校理解の中心になってしまうこともある。そう考えると、オープンキャンパスに頼らずオンラインで授業を体験してもらうことは、より本質的な学校理解を促すことになるかもしれない。 

●「大学はどこでも同じ」と考えるミスマッチ予備軍に情報を届ける工夫を

 大学にぜひ考えてほしいのは従来、学校から強制されて渋々オープンキャンパスに参加していた層への対応だ。大学に行くつもりはあるが学校理解や自己理解には無関心で、「大学なんてどこでも同じ」「入れるならどこでもいい」と考えているミスマッチ予備軍と言える。そのような受験生を多く受け入れる大学は、彼らに今どうやって情報を届けるか考える必要がある。
 ここまで述べてきた大学側の対応は、進路指導に手が回らず苦悩している高校教員からも歓迎されるだろう。高大接続において大学と高校が共有する「受験生の適切な進路選択の支援」というゴールに向けて、それぞれが今できることをやるべきだ。推薦・AO入試のスケジュール変更について近く文科省から何等かの通知が出る見通しだが、大学がそれを待っている間にも受験生は不安な日々を送っている。各大学の主体的な判断で情報を発信し、彼らを応援してほしい。

*倉部氏の話は以上。

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●「体験授業を通してミスマッチを防止するAO入試」をどう実施する?
~九州産業大学

 九州産業大学は2018年度入試から、丁寧なマッチングによって中退予防を図るAO入試「育成型入試」を実施している。学生と共に実際の授業を受講してもらう体験授業、学内で認定された「KSUアドミッションオフィサー」による面談、一人ひとりの面談結果を高校訪問で伝えるといったプロセスを設定。この入試によって中退率が改善しているという。学生の授業をオンラインで実施せざるを得ない中、この入試の肝とも言うべき体験授業はどうなるのか。KSUアドミッションオフィサーの中心的役割を担う一ノ瀬大一学生係長に聞いた。
*一ノ瀬係長の話は以下の通り。

 育成型入試は現段階で、例年より1か月ほど後ろ倒しになっている。起点となる体験授業は少なくとも6月末までは実施できない見通しだ。面談や高校へのフィードバックとあわせ、受験生や高校教員との接触を通じたマッチングが十分に機能しなければ、次年度の入学者は中退リスクが高まるのではと強く危惧している。
 実際の授業に参加する体験授業を評価して進路学習に活用してくれる高校もあり、「今年はいつから始まるのか」という問い合わせが来ている。高校の期待に応えるためにも、今の苦しい状況が育成型入試を進化させる契機になるかもしれないとポジティブに捉え、やれることをやっていく。
 まだ私たちKSUアドミッションオフィサーの間での案の段階だが、在学生向けに実施しているオンライン授業を、育成型入試の育成プログラムとして高校生に一緒に受講してもらうことを検討中だ。教員の協力が得られる場合には演習も対象にしたい。事前登録制でIDとパスワードを発行し、従来通りレポートの提出を課す。体験授業に来られない遠方の高校生を対象に数年前からサイトで公開しているWEB模擬授業も数を増やし、本学の授業をより多面的に体感してもらえるようにしたい。
 面談や高校教員へのフィードバックも、今の状況が変わらなければオンラインによる実施を検討することになるだろう。AO入試の出願時期や実施方法等に関する文科省からの通知もふまえ、ミスマッチ防止のため「やるべきこと」に可能な限り近づけるよう、「やれること」に取り組んでいきたい。