2019.0904

これからの大学ブランディング<2>持続可能性を高める未来志向の ブランディング

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3行でわかるこの記事のポイント

●自学は未来をどう変えるのか"3点セット"で伝えよう
●高校生を振り向かせるOne to One コミュニケーション
●「誰でもいい」では刺さらない 勇気を持ってセグメントを

令和の時代のブランディングには、まず「主語が高校生」のビジョンを持つこと。長年大学のブランディングに携わってきた弊社社員が、ブランド作りに欠かせないコミュニケーションのコツを語る。

*この記事のPDFはこちら

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(株)進研アド エリアプランニング部部長
  新井千晶
あらいちあき●大学・専門学校のブランディング、プランニングの戦略立案サポートを行う。ACC CMフェスティバル(第51回、第52回地域テレビスポット地域ファイナリスト)ほか、広告賞の受賞多数。
〈執筆・講演活動〉 全国の大学、学校法人の学内セミナー、FD・SD講演多数。テーマはブランディング、学生募集戦略、教育力の可視化、高校訪問戦略、インナーコミュニケーションなど。


自学は未来をどう変えるのか
"3点セット"で伝えよう

 未来のことを語ろう、ビジョンを持とう、というお話をすると、「ビジョンはすでにあります」と答える大学がほとんどです。でもそのビジョンは、他大学と差別化でき、かつ具体的なものでしょうか。また、学生や地域の将来と重なるものでしょうか。
 例えば「地域No.1大学」をうたうとしたら...。入学者はどう成長し、どんな力を持つのか。それによってどの地域のどんな課題にどう貢献して、その結果どんな地域像が実現するのかまで具体的に描くべきでしょう。主語は「大学」ではなく「ステークホルダー」です。貴学の存在がもたらす、学生や地域の変容を語ってこそ、ビジョンと言えるのではないでしょうか。
 ただしビジョンだけでは"キレイごと"に聞こえ、高校生にとって"自分ごと"になりません。ビジョンを実現するためにどんな教育を提供するのかという「プロセス」、それによってどんな成果が現れているのかを示す「エビデンス」をセットで伝えることによって、なぜそのビジョンが実現できるのかがわかり、納得感を与えられます。

高校生を振り向かせる
One to One コミュニケーション

 ビジョン、プロセス、エビデンスは、ブランド形成の「コンテンツ」です。次はコンテンツをどう伝えるか、「コミュニケーション」について考えてみましょう。  高校生は、現在、過去、未来を見ています。目標を探し努力する「今の自分」。ポートフォリオ等に蓄積した「過去の自分」。将来、社会に携わる「未来の自分」。このように連続性を持ってキャリアを考える高校生に対し、貴学がどう関わるのかを示す必要があります。

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 その際に大切なのは、貴学がその人のキャリアのライン上にあるとわかるように伝えること。つまり、「ほかならぬあなたに話しかけている」と思わせることです。めざすのは、来てほしい人が明確で、その人に情報が伝わる"One to One コミュニケーション"です。
 例えば求める人材のタイプとして「クラスではめだたないが、コツコツ努力を続けられる人」を挙げ、入学後の4年間の成長をビジョン、プロセス、エビデンスと共に示す。それだけでも、「私のことを言っているんだ」と心が動く高校生は少なくないはずです。

「誰でもいい」では刺さらない
勇気を持ってセグメントを

 興味を持った人が離れることを恐れて、自学に迎えたい人物像を絞り切れないという声もあります。募集状況が厳しく、「一人でも多く入ってほしい」という大学もあるでしょう。しかし、全方位に募集をかけたままでは、入学者の志望意欲の強さ、志向はバラバラで、教育の方向性を統一できず、偏差値に代表される一般的な序列を覆せません。ブランディングとは、ある意味で絞ること、捨てることでもあるのです。
 募集対象のセグメントは、広報部署の一存では難しいでしょう。経営陣の決断が必要です。ブランディングに秀でた大学は総じて、経営トップがビジョンを語っています。"広報用"の八方美人な姿ではなく、貴学ならではの未来に向けた意志を高校生に届けましょう。