2019.0819

私大協会がガバナンス・コードを公表~情報公開の充実などを宣言

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3行でわかるこの記事のポイント

●社会からの信頼獲得のため、私学団体による策定が求められた
●私大協会は有識者会議の議論と並行する形で独自に検討
●「入学定員確保策」など、中期計画に盛り込む項目も例示

日本私立大学協会(会長:福井直敬武蔵野音楽大学理事長・学長)は、加盟校の自主的な行動基準の指針となる「日本私立大学協会憲章 私立大学版ガバナンス・コード」を策定し、このほど協会のウェブサイトで公表した。策定を主導した同協会の水戸英則常務理事(二松学舎理事長)は、ガバナンス・コードについて「私立大学が社会からの信頼を得るための宣言」と説明、各加盟校がこれに準じる形で自学のガバナンス・コードを策定することに期待を寄せる。
*私大協会の「日本私立大学協会憲章 私立大学版ガバナンス・コード<第1版>」はこちら
ガバナンス・コードについての説明はこちら


●「私学の健全な成長と発展につなげる」ための行動基準

 「私立大学版ガバナンス・コード」は私立大学が社会からの信頼を得るための自主的な行動基準だ。文部科学省の「私立大学等の振興に関する検討会議」が2017年5月に出した「議論のまとめ」で、「私立大学が公共性と公益性を確保し、社会的責任を果たすためのガバナンスの在り方のガイドラインや留意すべき点」として、私学団体ごとにガバナンス・コードを作るよう求めた。私立学校法をはじめとする法令に一律に縛られるのではなく、私立大学の自主性・自律性を発揮して社会の期待に応えられる運営を自ら宣言・約束すべきという考え方だ。私立大学のガバナンスが問われる問題が多発し、税金を投入して支えることに対する社会の理解が得られなくなるという危機感が背景にある。
 同検討会議からガバナンスの議論を引き継いだ大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の「学校法人制度改善検討小委員会」が2018年8月にまとめた「学校法人制度の改善方策について」では、ガバナンス・コードについて「ステークホルダーに対して積極的に説明を果たすとともに、学校法人を運営する者が経営方針や姿勢を自主的に点検し、私立学校の健全な成長と発展につなげていく」ものと説明している。
 産業界出身の学校法人トップとしてこれら2つの有識者会議の委員を務めた私立大学協会の水戸英則常務理事は、協会としていち早くガバナンス・コードを策定すべきだと提起。学校法人制度改善検討小委員会での議論と並行する形で、事務局長で構成する大学事務研究委員会(担当理事=水戸氏)のガバナンスワーキンググループ(座長=松井寿貢広島経済大学常務理事)で検討を始め、理事長・学長で構成する私立大学基本問題研究委員会の了承を得ながら進めた。
 2019年3月の総会でワーキンググループの案を了承。同5月に成立した改正私立学校法の内容をふまえた最終調整を加えたうえで協会のウェブサイトで公表した。
 以下は、水戸常務理事による私大協会のガバナンス・コードについての説明。

●トップ層、教職員への周知徹底が必要

 「日本私立大学協会憲章 私立大学版ガバナンス・コード」は協会加盟各校が自学のガバナンス・コードを作る際のガイドラインとして策定した。改正私立学校法の内容、および学校法人制度改善検討小委員会がガバナンス・コードに規定すべき事項として挙げた内容をそれぞれ反映している。つまり、これに従って学校法人を運営すれば法律に抵触することはなく、公共性のある機関として社会からの要請にも応えられるという内容であり、トップ層はもちろん、教職員にも周知徹底していく必要がある。
 私大協会としていち早くガバナンス・コードを作ることで私学の自主性を示すべきだと提起した時、会長、副会長をはじめトップ層はすぐに賛成してくれたが、一部からは慎重な意見も聞かれた。しかし、この間にも大学にガバナンス強化を求める声は高まる一方で、今や国立大学もガバナンス・コード策定に向けて動いている。その中で、中小規模の加盟校が多い本協会が先陣を切った意義は大きいと思う。

●理事の研修機会の充実について明記

 私大協会のガバナンス・コードは以下のような構成になっている。

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 「教育と研究の目的(私立大学の使命)」には、中期計画に盛り込む内容として「教育改革の具体策と実現見通し」「経営・ガバナンス強化策」「法人・教学部門双方の積極的な情報公開」「財政基盤の安定化策」「設置校の入学定員確保策」等を例示。計画の進捗状況を管理把握する委員会等を明記し、その結果を公表することも盛り込んだ。私立大学全体の約4割が中期計画未策定である実情をふまえ、考え方の「いろは」から示している。
 「理事」の項には、理事会機能の実質化のため、外部理事を含む全理事に対し、「十分な研修機会を提供し、その内容の充実に努めます」と書いた。
 社会に対する積極的な情報公開の推進については1つの章をあてた。

●多様なバックグランドに配慮し、加盟校への策定義務づけはなし

 本協会加盟校が自学のガバナンス・コードを作るかどうかはそれぞれの判断に任せている。約400の加盟校はバックグランドもガバナンスの考え方も多様であり、一律に何かを課すことは難しい。また本協会では、ガバナンス・コードの中で実施しない事項についてはステークホルダーに対してその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則も採用していない。これも、一律の義務付けは適切でないとの判断からだ。
 とはいえ、私立大学に社会から厳しい視線が注がれる中で今後、組織を強くしていくためにはこうした行動基準が必要であり、どの私立大学もいずれは作らざるを得なくなるだろう。
 私が理事長を務める二松学舎では企画部門が担当してガバナンス・コードを作る。その内容に沿って寄附行為の改正も生じるため、寄附行為を担当する総務課とも連携することになるだろう。改正私学法が施行される2020年4月公表を目標にしており、同じスケジュールで動く加盟校が多いのではないか。
 私立大学が今後も高等教育における重要な役割を担っていくためには、社会からの信頼と支援が欠かせない。私立大学版ガバナンス・コードは、「われわれを信頼してもらって大丈夫」という社会に対する約束であり、宣言なのだ。ガバナンス・コードに対してどんな姿勢をとるかで、私立大学トップの見識が示されると言えるだろう。