2019.0507

制度第1号として始動-国際ファッション専門職大学の融合型人材の育成

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3行でわかるこの記事のポイント

●クリエイティブとビジネスの融合によってファッション業界の課題解決を図る
●周辺領域を学ぶ展開科目では発信力と国際化への対応力を重視
●東京、大阪、名古屋に3キャンパス4学科

2019年度の制度スタートと同時に専門職大学2校と専門職短大1校が開学した。社会変化に迅速に対応してイノベーションを起こせる人材を育成するという専門職大学の理念はどう具体化されるのか。「クリエイティブとビジネスの融合」によって日本のファッション業界の競争力強化に貢献できる人材の育成を掲げる国際ファッション専門職大学に取材した。


●産業構造の劇的変化への対応がファッション業界の課題

 国際ファッション専門職大学は50年以上の歴史を持つファッション専門学校・モード学園を運営する学校法人日本教育財団が新設した。国際ファッション学部の下、3つのキャンパスを展開。東京・新宿駅前にはファッションクリエイション学科(入学定員80人)、ファッションビジネス学科(38人)の2学科を設置。大阪駅前と名古屋駅前それぞれのキャンパスには大阪ファッションクリエイション・ビジネス学科(38人)、名古屋ファッションクリエイション・ビジネス学科(38人)を置く。
 同大学が掲げるコンセプトは「クリエイティブとビジネスの融合」だ。文化庁長官を務めた近藤誠一学長は、日本のアパレル業界が直面する課題として輸出競争力の弱さ、人口減少による国内市場の縮小などを挙げる。加えて、ファーストリテイリングに代表されるメーカー兼小売業、店舗を持たない業態の広がりや流通業、IT業界からの市場参入など、産業構造が大きく変化。3DプリンタやAIといった新たな技術を駆使したもの作りも活発化している。その中で、日本のアパレルメーカーやブランドは旧来の発想や手法の枠にとどまって変化に対応できず、競争力が低下しているという。「職種が流動化する中、従来型のデザインと経営の分業ではもはや立ち行かない現状がある」と近藤学長。
 そこで、国際ファッション専門職大学は「クリエイティブとビジネスの融合」によって、日本独自の知財を職人的技術とデザイン力に結びつける力(クリエイティブ)、そこから新たなビジネスモデルを創出する力(ビジネス)の両方に秀でた人材の育成をめざす。それによって、アパレル産業が文化産業として日本独特の美意識を海外に発信したり、新たな価値を提起することで国内ファッション業界をけん引したりすることが可能になり、日本経済の活性化にもつながると考える。

●3年次に必修の海外実習

 東京のファッションクリエイション学科ではデザイン等、クリエイティブに関わる専門性を高めつつビジネスの知見も併せ持つ人材を育成。ファッション産業の製造分野における商品企画や開発、小売分野における販売企画などの専門職が卒業後の進路として想定されている。
 一方のファッションビジネス学科では、販売や経営などの教育を柱にしつつクリエイティブの感性も併せ持つ人材を育成。卒業後はファッション分野における販売企画戦略、広告プロデュース、ジャーナリストなどとしての活躍が期待される。
 大阪ファッションクリエイション・ビジネス学科と名古屋ファッションクリエイション・ビジネス学科では、世界から注目される地域独自の素材や意匠について理解を深めながらクリエイティブとビジネスの両軸をバランスよく学ぶ。
 専門職大学の設置基準に基づき、専任教員の4割は実務家教員で、その半数以上は博士号を持つなど、研究力も備えている。国内外の著名なブランドや企業でディレクターやプロデューサーとして10年以上の実績を持つプロフェッショナルを集めた。
 基礎科目では、将来の国際社会での活躍を念頭に、アートに着目しながら自国の文化を理解し、多文化・多様性に対応するための「比較文化論」「現代文化論」などを開講。ファッション業界をけん引してきたヨーロッパの文化や歴史を通してファッションの本質を理解する科目もある。必修の「英語」ではファッションを題材に、コミュニケーション重視の授業を行う。
 職業専門科目は、ファッションのコンセプトの基礎となる知識やものの見方を修得する「ファッション論科目群」、ファッション産業におけるデザインやモノづくりを学ぶ「デザイン科目群」、業界の生産と流通・販売などの管理運営や市場、産業構造について学ぶ「ビジネス科目群」などで構成される。
 専門分野と関わりがある周辺領域について理解を深めて「イノベーションを起こすことができる人材の育成」という専門職大学のコンセプトの実現を図る「展開科目」では、ファッション産業からの発信力、国際化に対応する能力の育成を重視。「発信力科目群」は「広告・PR論」「産業とメディアデザイン」「デジタルアーカイブ論」などから成り、日本の装いの文化とファッション関連の知財を新たな情報技術や創作技術と結びつける力を養う。「国際知財論」「国際連携ゼミ」などで構成する「国際科目群」では、ファッション産業のクリエイションやビジネスの国際的な動向に関心を持ち、現場での課題解決に取り組む態度・志向性を養う。
 3年次に必修の「海外実習」も国際科目群の中の一つ。米国ラルフローレンをはじめ欧米・アジアのファッション現場を体感し、実践力を養う。この科目をはじめ4年間で600時間以上の企業内実習が専門職大学の基準となっている。
 卒業後、就職が決まるまで学費を負担せずに2年間学び続けることのできる「完全就職保証制度」、卒業生の転職や再就職を支援する「15年間就職保証制度」など、モード学園の制度を専門職大学にも導入する。

●初年度の入学者は留学生、社会人も合わせて204人

 「多様な地域文化と教養を基底に、国際的視野の下で新しいファッションの価値を創造するという目標に挑戦する人」「積極的に国内外に発信する意欲のある人」などのアドミッションポリシーの下、初年度は一般入試とAO入試、留学生入試を実施。AO入試では任意提出の自己PR書を含む書類審査と面接で選考。一般入試は国語と英語の基礎学力を測定する「適性診断Ⅰ」、論理的思考力と表現力をみる記述式の「適性診断Ⅱ」に加え、AO入試同様、任意の自己PR書と面接で選考した。
 認可後11月からの短期間の募集で出願倍率は約1.6倍、入学者は高校からの進学、留学生、社会人合わせて204人となった。