2018.1218

高等教育無償化の最新情報<下> 「実務経験のある教員」の要件とは

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3行でわかるこの記事のポイント

●詳細な定義はなく、各大学の責任の下で趣旨をふまえた判断と説明を
●常勤/非常勤、必修/選択などは問われない
●学問分野の特性上、対応不可能な場合も合理的・具体的な説明が必要

真に支援が必要な低所得世帯の学生を対象として2020年度にスタートする高等教育無償化の制度の詳細が固まりつつある。次の国会での法案成立後、速やかに大学等からの申請を受け付けて夏ごろには対象校公表というタイトなスケジュールになる見通しだ。文部科学省は「今後の変更もあり得る」とのただし書き付きで制度の周知に努めている。申請に向けて大学が知っておくべきポイントとして今回は、特に関心が高い「実務経験のある教員による授業科目の配置」に関する要件について、詳しく紹介する。

*「高等教育無償化の最新情報<上> スケジュールと情報公表等の各要件」はこちら
*2018年7月の解説記事も合わせてお読みください。
どうなる?高等教育無償化<上> 支援の概要と支援対象者の要件
どうなる?高等教育無償化<下> 支援対象となる大学の要件


●全学部で要件を満たすことが原則

 大学、短大、高等専門学校、専門学校が高等教育無償化の対象になるためには、①実務経験のある教員による授業科目の配置、②外部人材の理事への任命、③厳格な成績管理の実施・公表、④財務・経営情報の開示の4項目すべてについて、一定の要件を満たす必要がある。今回はこれらのうち、大学等が判断に迷いがちな「実務経験のある教員による授業科目の配置」について解説する。
 「実務経験のある教員」に関する要件は、学外理事の要件と共に、大学等での勉学が職業に結び付き、社会で自立できるようになるためには大学教育が社会、産業界のニーズに対応するとともに、学問追究と実践的教育のバランスが取れている必要があるとの考えに基づいて設定されている。
 具体的には「卒業に修得が必要となる単位数の1割以上、実務経験のある教員による授業科目が配置され、学生がそれらを履修し得る環境が整っていること」となっている。4年制大学の場合、「実務経験のある教員による授業科目」を「標準修得単位数(124単位)の1割」、すなわち13単位以上配置するという要件を、原則として全学部で満たす必要がある。2019年春から夏に行われる機関要件の確認に当たっては、どのような「実務経験のある教員」がどのような授業を担当するか、シラバス等で学生に明示している授業科目を計上する。従って、シラバス等の対応を急がないと申請に間に合わなくなる恐れがある。

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 文科省には、大学から「『実務経験が〇年以上』『実務を離れてから●年以内』など、『実務経験のある教員』の具体的な定義はあるのか」といった質問が寄せられているが、答えは「No」だという。こうした定義を示す予定はなく、各大学の実情に応じた解釈・判断に委ねる考えだ。担当者は「どんな『実務経験のある教員』が、その経験を生かしてどんな授業を担当して実践的な教育をするのか、大学として責任を持って説明してほしい」と話す。

●オムニバス形式や学外実習などの授業による代替も可能

 文科省が作成したFAQ(2018年11月版)では以下のような説明がなされている。
・実務経験があっても、担当する科目の内容と関わりがなく、授業に実務経験を生かしているとは言えない場合は要件の対象としてカウントしない。
・「実務経験のある教員」が直接、担当しなくても、多様な企業等から講師を招くオムニバス形式の授業や、学外でのインターンシップや実習、研修などを中心に構成する授業など、主として実践的教育から構成される科目はカウントできる。オムニバス形式の授業において、外部からの講師を何回くらい招けばよいといった基準は設けない。大学等が対外的に責任を持って、実践的教育であることを説明できることが必要。
・「実務経験のある教員」が他大学との兼務であったり、非常勤教員であったりしても問題ない。
・「学外での勤務経験=実務経験」とは限らず、担当科目の内容と関連した実務経験であることが重要。逆に、大学附属病院の医師や看護師が教員として実務に関連した内容の科目を担当する場合は、学内での実務経験であっても該当する。
・「実務経験のある教員」が担当する科目は必修・選択の別は問わないし、学部共通科目等であってもよい。
・ある学科の科目だけで1割を満たせなくても、学部内で学科間の相互履修が可能な環境があり、「実務経験のある教員」が担当する他学科の科目を履修できる場合、学部単位で計上すればよいことにする予定。
・「卒業までに修得が必要な単位数の1割以上」であり、必ずしも1年次から4年次までコンスタントに履修できるようにする必要はない。

 一般的に「実務」とのつながりが強くない学部等については、やむを得ない理由や、実践的教育の充実に向けた取り組みを説明・公表することで要件を満たしたことになる。その場合も、財政的・時間的な理由のみでは認められず、その学問分野の特性等に応じて困難である合理的な理由を具体的に示す必要がある。

●国と地方との間で費用負担の調整がおおむね決着

 高等教育無償化の予算規模については2017年12月の閣議決定で、幼児教育無償化等と合わせて1兆7000億円と示された。これらの内訳は未定だが、幼児教育無償化等は2019年10月、先に制度がスタートするため、その具体的な額が2019年度予算編成で精査されるのと連動して高等教育無償化分の予算規模が固まる見通しだ。
 給付型奨学金は学校種や設置者の別にかかわらず国が全額を負担する。授業料等減免については、公立校は設置者である都道府県や市町村が全額負担し、私立専門学校は国と都道府県が2分の1ずつを負担、それ以外の国立・私立の大学等は国が全額負担とする方向で政府と地方団体が調整し、おおむね決着した。
 給付型奨学金の額は現在の2万~4万円から大幅に拡充される方向で、文科省はできるだけ速やかに給付額を決定したい考え。担当者は「どの学校に入学・在籍するかによって支援が受けられないなど、学生に不利益が生じることがないよう、基本的には全ての大学等が要件を満たして無償化の対象になることを期待している」と話す。