2017.0927

地域の産官学連携体制作りの重層的支援―内閣府も地方大学支援へ

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3行でわかるこの記事のポイント

●文科省には「COC+」「私立大学等改革総合支援事業」などの既存事業
●内閣府は次年度から、文科省と共に地域の中核産業振興を支援
●産官学コンソーシアムによる中核産業の振興や専門人材育成が対象

地域の大学群と自治体、企業の連携体制構築の支援やその検討が、政府内で重層的に進められている。東京一極集中の是正と地方創生、地方大学の経営力強化という課題の解決をめざす施策で、中央教育審議会大学分科会の将来構想部会も、地域における産官学連携の成功事例に関心を寄せている。


●内閣府は23区での定員規制と地方大学振興をセットで推進

 地域の産官学連携を支援する文部科学省の事業としては、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」がある。地方の大学群と、地域の自治体・企業等が協働し、地域を担う人材の育成、魅力ある就職先の創出を推進することがねらい。2015年度に42件が選定され、それぞれの拠点となる申請校を含め大学は194校、短大は31校が参加している。
 私立大学対象の事業として、2017年度には私立大学等改革総合支援事業の中にタイプ5「プラットフォーム形成」が設けられた。複数大学間の連携、自治体・産業界等との連携を進めるためのプラットフォームを構築し、地域の課題やビジョンに対応する高等教育の中期計画を共同で策定し、実行することを支援する。選定予定件数は初年度の5~10グループから2018年度は50~100グループへの拡大をめざしており一層、力を入れる方向だ。
 これらに加え2018年度予算で、内閣府が新規事業「地方大学・地域産業創生交付金の創設」で120億円を要求している。首長のリーダーシップの下で産官学連携のコンソーシアムを構築し、地域の中核産業の振興や専門人材育成に取り組むことを支援する。東京23区内の大学の定員抑制を提言した「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」の議論を反映した施策だ。
 対象となる取り組みとして、「産官学コンソーシアムによるバイオ医薬品等の専門人材育成や研究開発」「理工系の国公私立大学が同一キャンパスに集積して行う介護ロボット等の専門人材育成や共同研究」を例示。コンソーシアムが申請するこうした計画の中から優れたものを有識者の委員会が選定し、5年間をめどに継続的に支援する。計画で設定したKPIの達成状況は、委員会が年度ごとに検証する。
 概算要求では内閣府100億円(コンソーシアムを主宰する自治体への交付を想定)、文科省20億円に分けられたが、一体的な執行も視野に、交付される側にとって使い勝手のいい方法を検討するという。自治体の単位を都道府県に限るか、市町村まで広げるか、東京圏のコンソーシアムも対象にするか等、東京一極集中の是正という目的の下で具体的なニーズを調べ、決めていく予定だ。「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」では、「地域の振興計画に取り組む本気度を担保するとともに、産官学の役割の明確化や取り組みの強化を図るため、各参画機関の資金拠出等を求めるべき」といった提案も出ており、今後、検討がなされる。
 内閣府は、こうした地方大学振興策と東京23区内の大学の定員抑制策とをセットで講じ、東京一極集中の是正をめざすと説明している。

*内閣府の予算資料はこちら
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/daigaku_yuushikishakaigi/h29-09-19-sankou.pdf

●将来構想部会では長野県、北九州市が取り組みを紹介

 中央教育審議会大学分科会の将来構想部会も地方における産官学連携に強い関心を持ち、大学や自治体から成功事例の報告を受けている。9月20日に開かれた5回目の会合では、2014年に高等教育振興の担当課を設け産官学連携のコンソーシアムを設置した長野県、その支援も受けながら地域連携による人材育成に力を入れる松本大学が取り組みを紹介。理工系の国公私立大学が集積する北九州学術研究都市での産官学連携について、北九州市、および連携に参加している早稲田大学からも報告がなされた。
 このように、文科省を中心に政府が地域の大学群と自治体、企業の連携推進に力を入れる背景には、地域の産業振興につながる人材育成や共同研究の推進による地域活性化という目的に加え、地方大学に地域の中で特色を発揮して存在価値を高めてもらおうとのねらいもある。文科省の私立大学担当者は、「厳しい国家財政の下、今後も公費負担によって高等教育を支えていくとするなら、その大学が地域から必要とされ、地域と支え合う関係を構築できているかどうかが重要になる」と話す。
 これらの施策の下、地域の大学同士が結びつきを強めることで、資源の共有、運営の効率化が進み、それぞれが強みとする部分に重点的に資源を投下できるようになるという期待もある。今後、地方を中心に経営困難に陥る大学が増えると予想される中、大学間の統合・再編、大学を閉鎖する際の学生の引き受け先確保等をスムーズに行うための環境整備と見ることもできそうだ。

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