2016.0826

AP「卒業時の質保証」選定結果について、文科省に聞く

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学の選定率は16.0%
●出口の質保証+4年間の教育プロセスの計画を評価
●本質的な課題と対峙する文系大学に、選考委員が共感

文部科学省の大学教育再生加速プログラム(AP)の「テーマⅤ 卒業時における質保証の取組の強化」に、15大学が選定された。94大学から申請があり、大学の選定率は16.0%。私立は理系、資格系の大学が目立つが、文科省の担当者は「選考プロセスを通じて、文系でも今後、各大学独自の質保証の仕組みづくりが進む可能性を感じた」と評する。
選定結果の詳細はこちら。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/ap/1374754.htm


●4年間の教育プロセスの集大成として、質保証を重視 

 APは、国として進めるべき大学教育改革を一層推進するため、教育再生実行会議等で示された方向性に合致した先進的な取り組みを支援する。3年目となる2016年度からは、重要課題である高大接続改革を推進するための事業として位置付けられ、コンセプトが「高校や社会との円滑な接続の下、3つのポリシーに基づき、入り口から出口まで質保証の伴った大学教育を実現する」と、より具体的に示された。
 これまで、初年度の「テーマⅠ アクティブ・ラーニング」「テーマⅡ 学修成果の可視化」「テーマⅢ 入試改革・高大接続」、2年目の「テーマⅣ 長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)」と、入り口、中身をテーマに設定してきており、今回は出口に焦点をあてた。
 テーマは出口部分の取り組みだが、低学年からの教育プログラムの構築を期待し、申請対象を「卒業時における質保証の強化に向けた大学教育のプロセス全体に係る取組を実施する事業計画」と規定。初年次教育や総合的なキャリア教育等、4年間の教育プロセスの集大成として卒業生の質を保証する仕組みの構築を求めた。

 具体的には、次の4つの取り組みを示して公募。
① 3つのポリシーに基づく教育活動の実施
② 卒業段階でどれだけの力を身に付けたのかを客観的に評価する仕組みの構築
③ 学生の学修成果をより目に見える形で社会に提示するための手法の開発
④ 学外の多様な人材との協働による助言・評価の仕組みの構築

 ①では、身に付けるべき資質・能力をディプロマ・ポリシーで明確にし、それを育成する体系的、組織的な教育を求めた。
 ②では、学修成果の客観的評価の基準や方針を全学で共有することを重視。
 ③については、学修履歴や取得資格、学修時間、学修の達成度などを示し、学位の実質的な中身を記す「ディプロマ・サプリメント」等の様式の開発を例示した。
 ④では、高校や企業が加わる助言評価委員会等の設置、卒業生調査を実施して大学教育の改善に生かすことなどを求めた。卒業生の就職先等で学修成果がどのように生かされ、どう評価されているか把握・分析し、教育プログラムのPDCAサイクルに組み込むことを重視。卒業生調査の実施率(回答者数/卒業者数)の数値目標は、事業計画に示す必須指標とされた。

●「今後の文系らしい質保証の仕組みに期待」

 こうした要件の下、大学は国立31、公立9、私立54の計94校が申請。その中から、国立5、公立2、私立8の計15校が選定された。短大、高等専門学校を含む全体では116校から申請があり、19校が選定され、選定率は16.4%だった。  

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 私立では大規模総合大学も数校申請したが、比較的規模の小さい大学が選ばれた。「学長のリーダーシップの下での全学的な取り組み」というAPの必須条件が、小規模校に有利に働く面もあったようだ。
 理系や資格系の大学が多く選ばれたのも私立の特徴。専門性がより明確なこれらの分野のほうが取り組みに落としやすいテーマだったとはいえ、卒業時の質保証は、文系でこそ重要な課題になっている。申請しなかった大学も、文系の質保証モデルがどう示されるか注目したと思われるが、やはり文系にとっては困難なテーマなのだろうか。文科省の見方は、必ずしもそうではない。
 ある担当者は「各大学の独自の工夫という点ではむしろ文系の方が興味深く、文系ならではの着眼点、学内での真剣な議論を感じるものがいくつかあった。申請を機に大学の中で良い意味での揺さぶりと波紋が起きたのでは」と話す。「申請校の多くは、学修成果として汎用的能力・スキルに寄りがちだったが、専門教育と教養教育を通じて何を教え、何を身につけさせるかという本質的な課題に正面から向き合う大学は、選考委員の共感を集めた」。読書という学問の原点に立ち返る、授業と課外活動との両輪で力をつけさせるといった独自の発想が評価されながらも、成果指標を全学で共有できるかという点などで、理系の大学に一歩及ばないケースもあったという。
 「文系で選定された大学は、学士課程答申以降、中教審などで議論されてきた3つのポリシーや学修成果に基づく質保証の概念をしっかり咀嚼し、時間をかけて具体化してきたのではないか。他の大学も、先に公表された3つのポリシーのガイドラインなどを参考にしつつ、学内で十分議論することによって、文系らしい質保証の仕組みがつくれると期待している」(担当者)。


大学での学修に対する卒業生の評価を分析し、教育の質の保証、改善に生かす取り組みは、AP選定校に限らず、全ての大学に求められています。卒業生調査を含む進研アドの「学修成果リサーチ」のご案内はこちら
https://shinken-ad.co.jp/service/research/research.html