2020.1019

中・大規模校が合格者を増やす中で歩留まり率は低下-私学事業団調査

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3行でわかるこの記事のポイント

●定員割れ大学の割合は2ポイント下がり31%に
●小規模大学で充足率が上昇
●規模別の1区分を除いて歩留まり率が下がり、全体では2.6ポイント低下

私立学校振興・共済事業団がまとめた2020年度の私立大学入学志願動向調査によると、定員割れした4年制大学は前年度より10校少ない184校で、全体に占める割合は2.0ポイント低い31.0%だった。中規模・大規模校が入学定員管理厳格化の下での合格者絞り込みから増加へと転換する動きの一方で、歩留まり率は総じて低下。大学と受験生の間で動きの「ずれ」もうかがえる。

*調査結果はこちら
*表やグラフはいずれも私学事業団の資料より


●私大全体の志願者数は1.3%減少

 私学事業団の調査では私立大学593 校(前年から6校増)の入学定員や志願者数、合格者数、入学者数などを集計し、分析している。ベネッセグループの調査では私立大学の志願者数は14年ぶりに減少したが、事業団の調査でも1.3%減の4368000人となった。入学定員が最大規模の「3000人以上」の大学の減少幅が特に大きく、5.0%減の1846000人だった。
 全体の志願倍率は8.9倍、合格率は前年度より2.8ポイント高い32.3%。近年、40%前後で推移していた歩留まり率は2.6ポイント下がって37.4%、入学定員充足率はほぼ前年並みの102.6%だった。

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●中規模・⼤規模校の歩留まり率は2018年度→2020年度で3〜4ポイント低下

 下のグラフでは入学定員規模による11の区分ごとの入学定員充足率を前年度と比べている。

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 定員500人を境に、「定員500人未満」で充足率が上昇または前年度並み、「定員500人以上3000人未満」で充足率が下降または前年度並みとなった。
 入学定員管理厳格化の下で中規模・大規模校は合格者数を絞り込む傾向が続いていたが、「1000人以上1500人未満」「1500人以上3000人未満」「3000人以上」の各区分は2019年度から合格者数増に転じた。一方で入学者数は2018年度から2020年度にかけておおむね微増~減少となり、この間の歩留まり率はそれぞれ3〜4ポイント低下。
 これは入定厳格化に入試制度変更直前という環境変化も加わり、受験生が「超安全志向」になって本来の志望校より下位の大学の併願を増やしたためと推測される。各区分で例年より学力の高い出願者が集まり多数の合格を出したが、私立上位校や国公立に合格して辞退されるというケースが多かったのではないか。11区分のうち10区分で前年度より歩留まり率が低下しており、上記のような現象が他の区分でも起きた可能性がある。
 このような状況の下、各大学で従来入学していた層が不合格となってより下位の大学に入学する、あるいは地方の受験生が地元にとどまって進学するという動きが例年以上に増え、小規模大学の定員充足率が上昇する一因になったと推測される。入定厳格化の下でも充足率の下降が続いていた最小規模の「100人未満」も2年連続で充足率が上昇した。

●大都市周辺エリアの充足率は前年度並み

 下のグラフでは21のエリア別の入学定員充足率を前年度と比べている。

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 入定厳格化によって充足率が下降を続けていた東京(0.8ポイント減の101.2%)、神奈川(1.6ポイント増の103.1%)、大阪(2.0ポイント増の105.6%)は前年度並み、または上昇に転じ、中規模・大規模校による合格者絞り込みの収束がうかがえる。
 大都市部の中規模・大規模校を敬遠する受験生の受け皿として充足率が上昇を続けていた都市周辺エリアでは、関東(1都3県を除く。0.1ポイント増の109.2%)、東海(愛知を除く。0.9ポイント減の105.7%)など、ほぼ前年度並みとなった。
 北海道の充足率は106.1%で前年度から5.2ポイントと大きく上昇。背景には近年、首都圏の大規模大学への併願で不合格になる受験生が増えたため地元回帰の傾向が顕著になったこと、定員割れによる補助金削減を回避するため定員を減らす大学が出たことなどがある。

●「強固な第一志望者層」の形成を

 今回の調査結果から、中規模・大規模の大学が入定厳格化対応に一区切りつけて合格者数増にシフトしたのに対し、受験生は私大難化を受けた「超安全志向」で出願するというように、タイムラグとも言うべき「ずれ」が起きたことが推測される。
 入定厳格化や入試制度の変更は確実に志願動向に影響を及ぼすが、さまざまな要因と複合しながら数年のうちに影響の形が変化していく。その結果、2020年度入試においては「合格者を増やしたのに入学者を確保できない」「従来とは異なる層の学生、志望度の低い学生が増える」という状況に直面した大学も多いのではないか。入定厳格化の「恩恵」を受ける形で定員確保に一息ついていた小規模大学の一部の層でも、充足率が低下に転じている。
 新型コロナウィルス問題や入試制度変更による志望動向への具体的な影響もまだ不透明な中、結局、政策に左右されない「強固な第一志望者層」を形成するという課題に帰結する。「先輩が落ちて不安だけど、やっぱりこの大学に行きたい」「もっと難易度が高い大学でも合格できそうだけど、この大学の教育のほうが自分に合っているし、好き」という受験生を増やし、引き付け続けるためのコミュニケーションを考えることが大切だろう。活性化したキャンパスで学生を着実に成長させ、高校生や高校、社会から教育力による評価を得て学生募集につなげるという好循環をつくり出す努力が、あらためて求められている。