2020.0402

主体性等評価の公平性に懸念も―文科省の有識者会議がスタート

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校・大学関係者の委員が調査書への記載項目等について議論
●2022年度からの電子調査書導入の是非もテーマに
●「主体性等の評価は一般入試での実現より推薦・AOの充実を」との声も

大学入試における主体性等の評価について議論する文部科学省の有識者会議の初会合がこのほど開かれた。主体性等評価の意義があらためて指摘され、「家庭の経済状況による不利益が生じない仕組みを」など、具体的な注文がつく一方、主体性等評価の必要性や実現可能性に疑問も示された。電子調査書に過大な期待をすべきではないという趣旨の発言も目立ち、文科省は2022年度からの電子調査書導入の是非も含め調査書と入試との関係など、基本的な方向性を会議での検討に委ねる考えだ。

*会議の資料はこちら


●2020年末のとりまとめをめざす

 文部科学省の「大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議」(主査:圓月勝博・同志社大学学長補佐)は高校・大学の関係者、有識者、保護者関係者など15人で構成。①大学入試における多面的な評価の内容や手法、②調査書に記載すべき項目や電子化の手法③調査書や志願者本人記載資料の活用、大学への情報提供のあり方などについて、2020年末まで議論する。
 文科省は一般選抜における「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価での活用を念頭に、2022年度からの電子調査書導入をめざしている。学校現場の働き方改革の動きも念頭に、高校教員の負担軽減につながる形での実現を図りたい考えだ。
 3月中旬に開かれた初会合では全委員が意見を述べ、「主体性とは何か」「公平性を担保しながら主体性等を評価することは可能か」「完全に公平な入試は実現可能か」といったことにも言及された。

●「短期間で活動プロセスまでの評価は困難」

 教育社会学が専門の垂水裕子委員(武蔵大学教授)は、主体性評価が経済的に恵まれない受験生に不利益をもたらすことに懸念を表明した。「裕福な家庭では幼少時から計画的に多様な経験を積ませることが可能だが、貧困家庭の子どもはボランティア活動等をやる余裕がないためコミュニケーション能力や自己肯定感が低く、主体性が育ちにくい」と解説。「主体性等評価を導入するなら、『就学支援を受けているか』といった家庭環境も把握し、アルバイトやきょうだいの世話といった家庭内での貢献も評価するなど、貧困家庭の子どもが排除されない手立てを講じる必要がある」と述べた。
 明比卓委員(日本私立大学協会大学教務研究委員会副委員長、神奈川大学事務局長・理事)は、一般入試で活用できる調査書の電子化を歓迎する一方、主体性等の評価には懐疑的な見方を示した。「大学によって『主体性』に対する考え方が異なり、公平に評価できるのか。生徒会長をやったという事実ではなく、なぜやったのかとか、目標を達成するまでのプロセスも大事だが、短期間で合否結果を出す必要がある私立大学にとっては、そこまで評価するのは難しい」と説明した。
 高校側からも、長塚篤夫委員(日本私立中学高校連合会常任理事、順天中学・高校長)が「一般入試での多面的評価のために調査書の電子化の話が出てきたが、調査書で本当に主体性を評価できるのか。それより、推薦・AO入試をさらに見直すべきではないか」と述べた。
 高校関係の委員からは他に「調査書に何を載せるかと入試で何を見るかは分けて考えるべきで、あらゆることを調査書に記載して大学に出してくれというのはおかしい」「調査書は入試だけでなく就職にも使われており、そのことをふまえた設計が必要」「一般入試で本当に調査書が活用されるのか懐疑的に見ている」という声も聞かれた。

●文科省は各大学の2021年度入試における主体性等評価について調査を予定

 電子調査書に関する文科省の委託事業にかかわっている巳波弘佳委員(関西学院大学学長補佐)は「多様な生徒に多様な光をあてて見いだすことが大事」と主体性等評価の意義を指摘。「そのためには活動のプロセスまで見る必要があるが、電子調査書には結果しか記載されない。生徒が自主的に蓄積するポートフォリオの情報を抽出することによって、多様な光をあてることが可能になる」と述べ、電子調査書を中心とした全体的な仕組みの必要性に触れた。
 川嶋太津夫委員(大阪大学高等教育・入試研究開発センター長)は「主体性とは何か、委員によって考え方が異なる。主体性として評価すべきは学習か課外活動かも大学のアドミッション・ポリシーによって異なり、評価には主観が入らざるを得ない。しかし、だからと言って今後の入試がテストで点数化できるものだけでいいのか。主観が入ることも認めて入試を変えなければ日本は変わらない」と指摘。「調査書の電子化だけでは多面的・総合的評価は難しく、やろうと思うなら時間をかけてでも全ての入試を推薦・AOのような形に変えていく必要がある」との考えを示した。
 会議では、各大学が2021年度入試で予定している主体性等の評価について把握するため、文科省が実施する調査の案も示された。質問項目として、入試区分ごとの主体性等評価の実施の有無、主体性として評価する項目、提出を求めるエビデンスなどが検討されている。