2016.0908

高大接続改革の進捗状況-共通テストの記述式を大学が採点する案も

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3行でわかるこの記事のポイント

●「センターでデータ処理後、2月上旬から大学が採点」も検討
●私立には難しい入試スケジュールへの組み込みと採点者の確保
●英語は将来的に、認定を受けた民間の資格・検定試験のみに移行

文部科学省は8月31日、高大接続改革の進捗状況を発表した。センター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」への記述式問題の導入については、採点に要する時間が障壁となる中、出願先の各大学が採点するという案が浮上。私立大学がこれを受け入れて記述式問題を利用するかどうかが、今後の焦点となりそうだ。
*文科省の発表はこちら http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/08/1376777.htm


●記述式答案のグルーピングによって採点を効率化

 「大学入学希望者学力評価テスト(仮称。以下『新テスト』)」は2021年度入学者選抜(2020年度実施)から導入される。マークシート方式に加え、まず国語と数学で記述式問題を導入する予定だ。記述式の実施時期と採点について、文科省は次のような案を示した。

【案1】1月に実施し、センター(大学入試センターを改組)が採点
【案2】12月に実施し、センターが採点
  ①マークシート式と同一日程での実施
  ②マークシート式は1月に実施
【案3】1月に実施し、センターがデータを処理したうえで出願先の各大学が採点

 【案1】だと短期間で採点する必要があるため、問題の量と質が大きく制約される。【案2】は入試の早期化となり、高校の理解を得るのが難しい。さらに、②は2回に分けての実施となり、大学・受験生双方にとって負担が大きい。これらの問題点をふまえ、【案3】も検討対象の一つになっているが、出題や採点の幅が拡がるメリットがある一方、各大学の負担など、検討すべき論点・課題も多い。文科省に【案3】を示した国立大学協会(国大協)も、各大学が採点を行う場合の論点整理をしている(詳しい内容はこちら http://www.janu.jp/news/files/20160819-wnew-newtest1.pdf)。 
 いずれの案についても、採点を効率化するため、OCR(スキャナーで文字を読み取りテキストデータに変換する装置)を使い、答案をクラスタリング(類似するグループに分類)したうえで、グループごとに採点する手法も検討されている。これにより採点の精度が上がり、出題パターンによっては採点時間を3~4割短縮できるという。【案3】については1月の試験実施後、センターが一定の処理をしたうえで、2月上旬に各大学にデータを提供して採点してもらうというスケジュールを想定している。

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●「国公私問わず利用できるよう、歩み寄り課題克服を」

 しかし、私立大学は2月はじめに合格発表する入試方式があるなど、国公立大学より早い日程で入試を行うため、この採点スケジュールだと、事実上、記述式問題を利用できない大学も多くなる。国公立大学に比べると採点する教員の確保も難しい。
 文科省の担当者は、「記述式導入について私立大学が必ずしも否定的というわけではない」と説明。採点の効率化については、大学入試センターとの間で様々な手法を検討しているという。「思考力や表現力、書く力をきちんと測りたいと考える大学が設置形態にかかわらず新テストを利用できるよう、すべての関係者が知恵を絞り、互いに歩み寄って課題を克服できるようにしたい。新テストはセンターが実施・採点し、大学は結果をもらうだけというのではなく、自学の学生を選抜するための自分たちのテストだという考え方を再度認識することが必要」と話す。

●2017年度、5万人規模でプレテスト

 新テストについては、英語の4技能を評価する民間の資格・検定試験を活用する方針も明確になった。将来的にはセンターが課す英語の試験は行わず、民間の資格・検定試験のみでの評価をめざす。当面は、リーディングとリスニングの試験をセンターが実施し、民間の資格・検定試験のライティング、スピーキングの結果と組み合わせる方法と、民間試験の結果のみで評価する手法が併存する方向だ。利用できる試験は、学習指導要領との整合性や大学入試としての妥当性、受検料負担の抑制などの観点をふまえ認定していくことになりそうだ。
 2017年度から新テストのプレテスト実施を予定し、11億円の予算を要求している。これに先立ち2016年度は11月から3月にかけ、500人規模の大学1年生を対象にフィージビリティー検証事業を実施。2017年度は首都圏に100の試験会場を設け、記述式を含むテストの信頼性・妥当性、採点支援システムの構築、採点マニュアル作成などの手法を検証する。2018年度は実際の新テストと同じ形式で10万人規模のプレテストを実施、そこで確認された改善点等について、2019年度、1~5万人規模で最終的な検証をする。

●「全入試で学力の3要素を評価」の原則を入試実施要項に反映

 高大接続システム改革会議の最終報告では、各大学は、新テストの積極的な活用を重視しつつ、個別試験と合わせて、どの入試方式でも学力の3要素を測り、多面的・総合的評価によって学生を選抜することが求められている。 
 この原則に沿って「大学入学者選抜実施要項」も見直される方向だ。例えば、現行のAO入試や推薦入試の課題に対応して、「知識・技能の修得状況に過度に重点を置いた選抜基準とせず」(AO入試)、「原則として学力検査を免除し」(推薦入試)といった記述を削除することも検討されている。さらに、小論文やプレゼンテーションなど、具体的な教科・科目の履修を前提としない評価については、現行でも2月1日より早く実施できることを明確化し、これらの取り組みを促す。

●大学共同で個別試験を開発する委託事業

 各大学の個別試験における「思考力・判断力・表現力」や「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価手法の開発を委託する2016年度の「大学入学者選抜改革推進委託事業」では、早稲田大学を代表校とする国立・私立5大学による地歴科・公民科の調査研究など、5件が選定された。いずれもコンソーシアム方式で新たな評価手法の開発に取り組むとともに、フォーラム等で成果の普及を図ることも検討されている。
 大学の間には、大学・受験生双方にとって負担が少ない従来型のペーパーテストを続ける大学に志願者が集まり、入試改革に取り組んだ大学が結果的に不利益を被るのでは、という懸念もある。他大学への影響力が大きく、競合関係にある複数の大学が共同で新しい入試に取り組むこの事業は、そのような事態を回避するための文科省の戦略と見ることができそうだ。

 文科省は、今後、新テスト、および「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の詳細について、大学、高校を中心とする関係者と調整しながらさらに検討を深め、2017年度初頭に実施方針を発表する予定だ。