2023.1221

教育力を"見える化"〈下〉佐賀大学~成長の背景をストーリー立てて

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3行でわかるこの記事のポイント

●DP達成度の自己評価を通じて教育成果をアピール
●「文科省が示す義務項目を網羅するサイト」にはしない
●次年度はステークホルダーからのフィードバックを受け付ける予定

佐賀大学の教育力を可視化するサイトは、2023年6月に公開されたばかり。「教学IRデータを使って教育成果を分かりやすく伝える」というねらいの下、前回紹介した茨城大学のサイトも参考にしたという。ステークホルダーとの双方向コミュニケーションの窓口にすべく、今後も磨きをかける考えだ。
教育力を"見える化"〈上〉茨城大学~成長実感に企業の評価も加え紹介


●アセスメントテストによる客観的評価のデータで強みを裏付け

佐賀大学の教育力可視化のウェブサイトページ「自分に差がつく、佐賀大学にフォーカス そのサガ見える」も茨城大学のサイトと同様、縦長の1ページにすべての情報を収め、スクロールだけで最後まで見せ、読ませる。

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トップ画面でスクロールすると次の画面がせり上がってきてかぶさるという、仕掛け絵本のような楽しさがある。6学部それぞれの学びを象徴するイラストとともに、サイト内で解説役を務める大学公式キャラクター・カッチーくんも登場。

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佐賀大学のディプロマ・ポリシー(DP)は、3カテゴリ9つの力からなる「佐賀大学学士力」を基にして定められている。

1.    基礎的な知識と技能
●市民社会の一員として共通に求められる基礎的な知識と技能
●市民社会の一員として思考し活動するための技能
●専門分野に必要とされる基礎的な知識・技能

2.    課題発見・解決能力
●現代的課題を見出し、解決の方法を探る能力
●プロフェッショナルとして課題を発見し解決する能力
●課題解決につながる協調性と指導力

3.    個人と社会の持続的発展を支える力
●多様な文化と価値観を理解し共生に向かう力
●地域や社会への参画力と主体的に学び行動する力
●高い倫理観と社会的責任感

学生は、それぞれの力がどの程度身についたか、学期ごとに 10 段階で自己評価する。
サイトでは、まずこの成長実感を紹介。2018年度入学者について、1年次から4年次までの各能力の経年変化を示している。
特に伸びが大きいのが「プロフェッショナルとして課題を発見し解決する能力」で、その育成力が佐賀大学の強みだとわかる。

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DPの自己評価に加え、TOEICやジェネリックスキルのアセスメントテストによる客観的な評価も紹介。データに基づく佐賀大学生の強みとして「自信創出力」「実践力」などを挙げる。

●ネガティブに見えるデータも背景を説明して公表

次に、こうした学修成果、学生の強みにつながる学びを説明。
学部の枠を超え、興味がある分野を社会とのつながりの中で学ぶ「インターフェース科目」、学内企業設置など、リンク先のページを読むと「プロフェッショナルとして課題を発見し解決する能力」「実践力」といった佐賀大学生の強みに納得感が生まれる。

平均修得単位数のグラフには、CAP制によって適切な履修を促しているという説明が加えられている。

2か年の授業外学習時間(授業1コマあたり)を比較するグラフでは、2021年度の学習時間が前年より短いことについて、(コロナ禍の収束による)対面授業の割合の増加が影響していることを説明。「一見ネガティブに見える可能性のあるデータも隠さず公表し、正しく理解してもらうための背景や改善のストーリーを説明する」という方針が具体化されている。

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●教学改善につながるシステムを紹介

続いて、佐賀大学の教育力の基盤となっているラーニングポートフォリオを紹介。

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学生が自分の学びを振り返って成長の過程を確認し、大学が教育改善につなげるためのシステムだと説明している。これが実質的に機能しているエビデンスとして、ポートフォリオ入力率(1学期に1回以上利用)は81.9 %、「自ら目標を立てて実行し、自己点検・改善する能力が身についた」と感じる学生の割合が61.3 %といったデータを示す。

一方、教員によるティーチングポートフォリオ作成率は100%。
起承転結の結びのように見せる「佐賀大学の教育全般に対する満足度89.3 %(2021年度の卒業生)」は、ここまでに示した取り組みや成果の帰結だと感じられる構成になっている。

最後は、教学マネジメントへの取り組みについて解説。「学生一人ひとりが成長実感を得られる教育」をめざし、入学から卒業までのあらゆる教学データを集積・分析・可視化して教育改善に生かすと述べている。

その画面をスクロールすると、下から最初の画面が現れる。再び見る「自分に差がつく」「そのサガ見える」という言葉への理解が少し深まった気がする。「いや、まだちょっと...」「もっと知りたい」と思う人もいそうだ。そんな反応を引き出すことが、佐賀大学のねらいかもしれない。
佐賀大学がめざす教育のゴールと到達の仕組み、学生の頑張りとその成果が、短くわかりやすいストーリーとして展開されている。

●学生にポートフォリオ入力の価値を還元 

「そのサガ見える」は、全学教育機構の教学マネジメント推進室が制作した。担当者の一人、淺田隼平講師は「教学IRデータを使い、あらゆるステークホルダーに本学の教育の特色と成果を伝えたかった」と話す。

構想メモには「(情報公表の対象として)文科省が示す義務項目を網羅するためのWebサイトではない事に留意」とある。形式的な情報公表ではなく「伝える」ことにこだわり、徹底的に議論した。
「例えば、『サガ見える』というタイトルは他大学との差ではなく、学修による学生自身の力の変化、すなわち成長を指しているということをしっかり共有した」(淺田講師)。1ページに収めるための内容の取捨選択にも時間をかけた。

主なターゲットとして、高等教育の専門家ではない一般のステークホルダーを想定。高校生を含むさまざまな訪問者が離脱せず最後まで読むことができ、佐賀大学の学生像がぼんやりとでも浮かんでくるようなサイトをめざした。多くの高校生に見てもらいたいと、高校向けのチラシを作り、配付したという。

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山内一祥准教授は、2011年度に本格的に導入された学生、教員それぞれのポートフォリオが教学マネジメントの基盤になっていることを強調する。「年間10回以上のワークショップなどを通じ、教員のティーチングポートフォリオ入力率100%を達成した。教育改善に対する教員の意識が高まり、学生にラーニングポートフォリオへの入力を促す取り組みにつながった」。全学必修科目での入力を徹底した結果、入力率は82%に。

「そのサガ見える」を構築できたのも、ラーニングポートフォリオがあってこそ。だから、頑張って入力した学生にその価値を還元するサイトでもある。「一生懸命勉強している自分は今、どの位置にいるのか。全学のデータの中で相対的に捉え、励みや目標にしてほしい」(淺田講師)。

●ステークホルダーとのコミュニケーションで教育を改善

次年度は、教育の"見える化"をもう一歩進め、ステークホルダーとのコミュニケーションを深めようと、具体的な改訂内容が検討されている。
その一つが、「佐賀大学学士力」の各項目にプルダウンメニューを設け、対応する科目や学びの特色を紹介するページにリンクをはること。
もう一つは、閲覧者からのフィードバックを受け付ける仕組みの追加だ。高校生からの質問や企業からの提案、要望などを想定している。淺田講師は「ステークホルダーとのコミュニケーションを通して教育を良くしていくことが、われわれの教学マネジメントだ。これを実現するためにも、一方的な情報発信ではなく、双方向コミュニケーションの窓口としてこのサイトを充実させたい」と話す。