2023.1106

文科省の次年度私大支援事業<下>募集停止後も学生在籍中の支援を継続

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3行でわかるこの記事のポイント

●規模縮小の適切な経営判断を遅らせないための例外的措置
●新設の理工農系学部も私学助成の例外的措置として支援
●私学事業団のデータと知見を活用した高度な経営支援システムを構築

文部科学省は、2024年度からの5年間を私立大学等の「集中改革期間」と位置づけて支援事業を展開する。4つの新規事業のうち、今回は「理工農系の新設学部等」と「学生募集を停止する学部等」に対する支援、および「日本私立学校振興・共済事業団のデータを活用する経営支援システムの構築」について説明する。「新設」と「募集停止」という両方向の経営判断それぞれを、私学助成の原則の例外的措置によって支援する。

文科省の次年度私大支援事業<上>教育改革と運営の連携で計画を公募(Between情報サイト)
*私学助成関係の資料はこちら
*2024年度の文科省概算要求全体の資料はこちら


●私学事業団によるシステム構築に1億円 

文部科学省が2024年度概算要求で「時代と社会のニーズに対応する私立大学等への転換支援パッケージ」として盛り込んだ新規事業は次の通り。
①少子化時代を支える新たな私立大学等の経営改革支援
②成長分野等への組織転換促進のための支援
③定員規模適正化に係る経営判断を支えるための支援
④私立大学等経営DX推進事業費補助

今回は②③④について解説する。
②③は一般補助の増額による支援事業で、④は日本私立学校振興・共済事業団によるシステム構築に1億円の予算を計上している。

●理工農系学部への転換には基金と私学助成による手厚い支援

②成長分野等への組織転換促進のための支援
3000億円の基金による「デジタル」「グリーン」等の成長分野への転換促進事業と連携する形で、理工農系学部等の新設から完成年度を迎えるまでの経常的経費を支援する。基金では、完成年度までの広報や戦略立案を支援するのに対し、この新規事業では教育・研究にかかる費用をカバーする。
2024年度は一般補助2833億円の内数での支援を予定。

私学助成は完成年度を超えた学部等に配分するのが原則だが、成長分野への転換を強く促すため、例外的な対応をする。基金活用による新設学部等の支援を想定し、2024年度以降の新設を対象とする。ただし公平性の観点から、それ以前の新設についても分野等の要件を満たせば支援対象にできるよう、文科省が財務省と折衝中だ。

●募集停止後も学生が卒業するまで補助金による支援を継続

③定員規模適正化に係る経営判断を支えるための支援
これも、学生募集を停止した(入学者がいない)年度以降は補助金を出さないという原則を転換する例外的措置となる。募集停止後も学生が卒業するまでの間、補助金による教育・研究活動の支援を継続する。

従来、大学からは、募集停止後ただちに補助金を止められるため在学生の教育に困難を来たすという声があった。その懸念が募集停止の判断を遅らせ、経営状態の一層の悪化を招くことがないよう、一般補助2833億円の内数をあてて規模適正化の経営判断を支える。
支援対象となる「一定の要件」について、文科省の担当者は「経営改善につなげてもらうことがねらいなので、その学部を閉じたら法人内に他に学校が残らないようなケースは除外することになろう」と説明する。

●連携や統合のマッチングも支援

④私立大学等経営DX推進事業費補助

日本私立学校振興・共済事業団の経営データを活用し、大学が的確な経営判断ができるよう支援するシステムを構築する。現在も事業団の情報提供システムはあるが、他大学との比較に基づいて自学の問題点を把握したり、改善のための具体的な判断ができたりするものにはなっていない。「今の状態が続くと財務状況がどうなるかという健康診断のような客観的な診断ができないため、大学の危機感が高まらないと考えた」(文科省の担当者)。

そこで、「施設改修にこれだけの額を投じた場合」「次年度の入学者が〇%減少した場合」など、具体的な条件に基づく自学の経営シミュレーションを可能にする。地域や規模、学部系統など、類似の大学で効果を上げた取り組みを示して改善点のリコメンドもできる仕組みにしたい考えだ。
連携や統合を希望する大学に対しては、データに基づくマッチングも支援する。

これまで、文科省の有識者会議では「私学事業団は制度上、大学から相談を受けてからでないと動けず、豊富なデータを生かしきれていない。経営が深刻な状況に陥る前に積極的な働きかけができないか」という問題提起がなされてきた。文科省の担当者はこの新事業について、「事業団によるアウトリーチ型の(必要としている人に必要なサービスを提供する)支援だ」と説明する。
2024年度はシステム改修費として1億円を計上。段階的なバージョンアップを図り、2025年度にシミュレーションができる状態での提供をめざす。