2023.0803

探究授業における高大連携で双方にメリット―鵠沼高校・桜美林大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校側は生徒の動機付け、教員間の目線合わせが可能に
●大学側は意欲の高い入学者を獲得
●探究支援に関する大学情報の収集に課題を抱える高校も

進研アドはこのほど、高校教員を対象に、大学との連携による探究授業の実践事例を紹介するオンラインセミナーを開いた。探究の指導ノウハウに課題を抱える高校側、探究支援プログラムや探究評価型入試を通して意欲の高い入学者を確保したい大学側、双方にメリットをもたらす高大連携に、参加者が関心を寄せた。セミナーで紹介された連携内容を、高大それぞれの話を交えて紹介する。


●「対話する力」の育成をめざし1・2年次に「総合探究」を実施

 セミナーでは、私立鵠沼(くげぬま)高校(神奈川県藤沢市)の飯島洋平教諭(1年主任・地歴公民科主任)が、桜美林大学(東京都町田市)と連携して実施している「総合的な探究の時間」(総合探究)について紹介した。
 鵠沼高校は1学年250人(7クラス)の普通科高校で、英語・理数・文理の3 コース制を敷いている。2022年度の卒業生の進学率は大学84.0%、短大0.4%、専門学校等10.4%だった。
 「対話する力」の育成を目標に掲げ、1・2年生の週2コマ連続を「総合探究」に充てている。新学習指導要領による探究科目新設に先駆け、2021年度の1年生から現行のカリキュラムを導入した。

●高校には探究指導の経験がなく負担感が大きい

 鵠沼高校では各学年の教員計7人で構成する総合探究指導部を設置、飯島教諭はその副主任を務めている。同指導部が探究授業の方針を決めて企画立案を行い、各学年代表の指導部の教員がそれを学年に共有。毎回の授業案の検討や指導部への進捗報告も学年代表が担う。
 総合探究の検討段階での懸念材料として、飯島教諭は①教員間の目線合わせの難しさ、②生徒の取り組みを「探究」と呼べる質に引き上げることの難しさ、③教員の負担の大きさを挙げた。
 同教諭は「われわれ教員には探究の指導経験やマニュアルがなく、指導方法に関する共通理解もない。部活や教科の指導もある中、どうしても優先順位が下がってしまう。生徒も、従来の調べ学習と変わらない浅い調査で、ありきたりの結論を導き出すことが予想された」と説明。授業案策定のための打ち合わせで、教員の負担はすでに増していた。
 その一方で、同校でも一般選抜から年内入試へのシフトが進み、志望動機を深めるきっかけとなる探究の重要性に関しては教員間で共有されていた。

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●志望理由書の書き方指導の連携から探究授業の連携へ

 こうした状況の下、探究授業に対する教員の共通理解を深める一方、負担を軽減し、生徒の進路支援につながる密度の高い授業にするため、桜美林大学との連携を決めた。
 飯島教諭はあるセミナーで、桜美林大学が高校生対象の「総合・推薦型入試準備セミナー」で志望理由書の書き方を指導していることを知り、2020年度にその出張授業を依頼した。これをきっかけに、次の年から探究プログラムの実施も依頼。初年度は1年生が対象で、2年目から2年生に拡大、2023年度は3年目となる。
 鵠沼高校が活用しているのは、桜美林大学が高校や高校生を対象に展開する高大連携型探究プログラム「ディスカバ!」。同大学の教職員がファシリテーターを務め、メンターの学生が参加するワークを通して「課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・発表」という探究のサイクルを体験させる。SDGsやビジネス、芸術など、さまざまなテーマのプログラムがあり、高校が自校のニーズに合わせて選べる。
 鵠沼高校では2023年度、1・2年生の1学期に計2回の連携プログラムを実施。1年生は日常の学校生活の改善について考察を深める。2年生は個人単位でテーマを設定して探究に取り組む。次年度からは3年生に拡大し、企業から提示されたテーマに取り組む内容を検討している。

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●生徒は「やりきった達成感がすごく、一生懸命に頑張りたい」

 飯島教諭は桜美林大学との連携の成果を次のように説明する。「大学の先生のファシリテーションや学生のサポートで生徒が動機付けされ、積極的に取り組んでいる。その様子を観察しているわれわれ教員も授業の進め方で目線が合ってきた。年度はじめの忙しい時期に負担が軽減されているというメリットも大きい」。
 2年生による授業の振り返りでは、「1 人で考えをまとめたり表現したりするのは難しいけど、やりきった後の達成感はすごいので一生懸命に頑張りたい」「自分の興味・関心のあることを書き出してみて、好きなことがたくさんあると気づいたので、これからの探究が楽しみになった」といった声が挙がった。
 2023年度2学期における総合探究の目標の1つは、課題を絞り込むことだ。「例えば『子どもの貧困』を取り上げる場合も、目を向けるのは世界の問題なのか、国内または地元の問題なのかを明確にさせる。調べ学習からの脱却のためにも自分ごととして取り組み、具体的な解決策に近づける課題設定を促したい」(飯島教諭)。1年生はSDGsと関連づけて地元・藤沢市の課題解決に、市の協力を得て取り組む予定だ。1回限りの探究ではなく複数回のサイクルを回す機会を設けたうえで、保護者や学外の探究授業協力者を招いての成果発表会を開きたい考えだ。

●2022年度は66校で2万5000人が桜美林大学のプログラムに参加

 鵠沼高校と電車で1時間ほどの距離にある桜美林大学には元々、同校からの入学者が少なくないという。
 セミナーでは、桜美林大学入学部の高大連携コーディネーター・今村亮氏も登壇し、「ディスカバ!」実施の背景やねらい、成果を話した。
 「ディスカバ!」は、鵠沼高校のように探究授業の本格実施を前に不安や困難を抱える高校の支援を目的に、2019年度にスタート。学校単位で実施する出前授業に加え、長期休暇中にキャンパスで実施し、個人単位で参加するプログラムもある。学校単位のプログラムは、高校教員に授業運営のノウハウを体得してもらいバトンタッチできるよう、1・2年生の1学期に実施することが多いという。2022年度は66の高校と連携し、延べ2万5000人以上の生徒が受講した。

●自学の志望者以外のプログラム参加も歓迎

 「探究のプロセスの中で高校の先生にとって特に難しいのは課題設定だが、そこは大学が研究指導を通してノウハウを持つ部分だ。『ディスカバ!』が高校に選ばれるのは、『答えのない学問の問い』を探究課題として埋め込んだプログラムだからだろう」(今村氏)
 「ディスカバ!」のコーディネートは教職員が担うが、プログラムの主役はメンターとして参加する学生だ。自身も高校で「ディスカバ!」を受講した1・2年生が中心で、修了者が選抜と研修を経て後輩を支援するサイクルが確立されている。

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  今村氏は、探究支援プログラムや探究評価型入試を導入する大学が増えていることにも触れ、「高校で探究を経験した生徒は大学での成長がめざましいとわかってきたからだ。本学の『探究入試』(Spiral)では、探究経験を振り返って言語化することを重視している」と説明した。
 「ディスカバ!」では桜美林大学志望ではない生徒の参加も歓迎している。参加者のうち自学に出願するのは2割程度だという。「それでも、モチベーションが高く入学後に活躍するような生徒、慶應義塾大学を志望していた優秀な生徒が入学するなど、大きなメリットがある」と、探究支援プログラムの意義を語った。
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●『SYMPA』には探究支援情報の登録・入手の機能を搭載

 探究授業で大学との連携を希望する高校は多いが、大学の探究支援プログラムの情報を入手できず、連携先探しに苦労しているのが現状だ。セミナーでは、進研アドが提供する高大コミュニケーションのデジタルプラットフォーム『SYMPA』の探究学習支援機能を紹介。大学が高校の探究授業で活用できるウェブコンテンツや出張講義を登録し、高校教員が学問系統やSDGsのテーマなどで検索して連携の依頼ができる機能が、参加した高校教員の注目を集めた。

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 アンケートでは「本校でも探究に取り組む中で苦労し、難しさを感じている」「探究に苦しめられて他のことに手が回らないのでは意味がなく、大学の力を借りる意義を感じた」「『SYMPA』の探究学習支援機能もチェックして情報を活用していきたい」といったコメントが寄せられた。