2023.0608

指定校推薦の出願者にAP対応度の自己評価を課す―東京都市大学

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●入試への反映によってAPの実質化を図る
●入試教科だけでなく全教科について大学での学びとの関係を説明
●安易な出願を防ぎ、緊張感と信頼関係に基づく入試をめざす

東京都市大学は指定校推薦の出願者に対し、アドミッション・ポリシー(AP)で示す要件に自分がどの程度、合致しているか、自己評価を求めている。APの実質化を図り、評定平均だけではつかめない学力を丁寧に確認する姿勢を打ち出すことによって安易な出願を防ぐことがねらい。高校との間で緊張感と信頼関係を大切にしながら入試を実施したいという考えもある。入試教科だけではなく全ての教科に真剣に取り組んでほしいという高校生へのメッセージは、高校教員からも歓迎されている。

*参考記事(Between情報サイト)
東京都市大学が探究学習を支援、受講証明書を総合型選抜の出願にも活用


● 「高校の学びは全教科のバランスによって構成されている」

 東京都市大学(東京都世田谷区)が指定校推薦で提出を課している書類は「アドミッション・ポリシー対応状況自己診断書」。アドミッション・ポリシー(AP)で示している教科ごとの「高校で学習しておいてほしい内容」「期待する学力レベル」をカバーできているか、出願者が自己評価して記入する。
 まず、同大学 が刷新したAPについて説明しよう。
 ウェブサイトにある学部ごとのAPには「高校での履修が望まれる科目」として、一般選抜主要教科である数学、理科、英語等の各科目名を列挙。これは、文部科学省が3つのポリシーの「策定及び運用に関するガイドライン」で、APについて「入学前に学習しておくことが期待される内容についても示す」と求めていることをふまえた以前からの対応で、多くの大学が同様の対応をしている。
 同大学のサイトでは新たに、これら以外の教科を含めて詳しく説明する「入学前に学習しておくことが望ましい内容/教科等との関連性や接続性」のページへのリンクを設けた。そこでは高校の全教科について、学習しておくべき内容を大学での学修と関係づけて説明。「高校の学びは入試科目だけでなく、学習指導要領の下で設けられるすべての教科のバランスによって構成されている」(入試部の菅沼直治部長)という考えの下、学習指導要領との関連性に配慮して記述したという。
 例えば、理工学部の同ページでは、国語について「理工学部の学修では、様々な文献や資料を読み解いたり、レポートや論文を作成する機会も多いため、『国語』教科は、そうした機会においても有効な力になります」と説明。必履修科目「国語総合」だけでなく、「複数学年にわたり継続的に複数の科目を履修していること」「問いを生み出したり、論理的に物事を説明できる能力(を修得していること)」が望ましいとしている。
 「公民」は、技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、社会に対して負っている責任や技術者倫理について考える力を養うと説明。「保健体育」「芸術」「家庭」等にも同様のスペースを割いている。

●APと照らし合わせて自身の学びを5段階評価で検証

 全教科を対象とした「入学前に学習しておくことが望ましい内容」を実質化するため、指定校推薦の出願では「アドミッション・ポリシー対応状況自己診断書」の提出を課す。教科ごとに示された「望ましい内容」に対応できているか、求められている学力に達しているか、出願者が自己評価する。
 例えば理工学部の国語については、「複数学年にわたり継続的に複数の科目を履修」してきたか、「問いを生み出したり、論理的に物事を説明できる能力」が身に付いているか、それぞれ5段階で評価する。対応できていない場合は、代替的な学習等によって同等の学力を身につけていることなどを備考欄に記入する。

●「数値だけで適性や学力を判断するのは難しい」という問題意識

 指定校推薦で「アドミッション・ポリシー対応状況自己診断書」を導入した理由について、菅沼部長は「高校の学びが多様化している中で、調査書の『学習成績の状況』だけで適性や学力を評価できなくなっているため」と説明する。
 「例えば、『数学3.8以上』という推薦条件をクリアする出願者であっても、高校の時間割や本人の科目選択によって、数学のⅠ、Ⅱ、Ⅲ、A、Bそれぞれの履修の有無やバランスは異なってくる。また、『全体4.2以上』という条件についても、文系コースか理系コースか、進学コースかスポーツコースかなどの選択によって、教科ごとの履修の内訳やウェイトが異なる」と指摘、推薦条件という一律の数値で学力を判断することの難しさを説明する。
 「学習指導要領は最低限の必履修科目と教科のバランスのみを定め、学びの多様化を許容していること、成績評価の在り方は高校の考え方によって異なることを大学側が否定するわけにはいかない。重要なのは、こうした事情を理解したうえで入学後のミスマッチを防ぐことだ」
 大学側が指定校推薦の出願条件を高校やコースごとに変えるのは困難な一方、高校側は条件をクリアしている生徒が希望すれば推薦しないわけにはいかない。そこで、東京都市大学はAPで全教科について詳しく説明したうえで、出願者による自己評価というプロセスを設けたわけだ。
 菅沼部長は「多くの大学で指定校推薦の枠を拡大しているが、安易な出願につながらないようなしくみづくりが重要だ」と語る。同大学では指定校推薦による入学者と一般選抜による入学者で入学後の成績に違いはないといい、これは選考方法について不断の見直しを重ねてきた結果だと捉えている。今回の自己評価の試みもその延長線上にある。
 「生徒が自己評価の過程で先生に相談することも想定され、それが高校側にAPのメッセージと本学の姿勢を伝えるとともに緊張感をもたらす。APの自己評価は、指定校推薦においてこうした緊張感と高校・大学間の信頼感を高める仕掛けとして効果的だと考えている」

●「高校と馴れ合うことなく真剣に向き合いたい」

 菅沼部長に「指定校推薦にかかる負担が増す高校教員から不評を買わないか」と尋ねると、「否定的な意見や問い合わせはゼロだ」と返ってきた。「高校の進路指導でもAPは重要だと説明している。抽象的な人材像や受験教科だけを示した形式的なAPを脱却し、実質化を図ろうとしている点が共感されているのでは」と受け止めている。
 「入試教科や主要教科だけではなく、全ての教科・科目が大切」という東京都市大学のメッセージからは、高校教育に対するリスペクトが感じられる。「自分が担当する『家庭』と大学の学びとの関係を書いてもらい、感激した」と言ってきた高校教員もいるという。
 「日本の大学入試では、指定校推薦は『出願=合格』が不文律のようになっているが、大学と高校が馴れ合うことなく真剣に向き合うことが大事。信頼関係と緊張感の下でより良い高大接続のあり方を探っていきたい」。