2022.0620

学生をロールモデルに、高校生の「自分探し」を支援-東京家政学院大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●学生のライフヒストリーを聞き、自分の強みや興味・関心を掘り下げる
●家政学の学びの広さを伝え、志望者層の裾野拡大につなげる
●イベント参加者を受け入れる総合型選抜を新設

東京家政学院大学は進路選択に迷う高校生に、在学生との対話を通して「自分探し」をする機会を提供しようと、2022年度のオープンキャンパスで「自己探究ワークショップ」を始めた。このイベントを通して自学に興味を持った受験生を受け入れるため、新しい総合型選抜も設けた。「高校生の進路選択を応援したい」「家政学に対する理解を深めてもらい、志望者層の裾野を広げたい」という二つの課題の解決を図る新たな取り組みだ。


●学生のライフヒストリーを通して各学科の学びを紹介

 東京家政学院大学(町田市)は現代生活学部に4学科、人間栄養学部に1学科を置く、1学年510人の女子大だ。
 高校生の「自分探し」を支援する「自己探究ワークショップ」を企画したのは、アドミッションセンター副センター長で企画広報室長も兼ねる新村由美子氏。新村室長は、これまでのオープンキャンパスでの個別相談や高校訪問を通して、「どの学部・学科を選べばいいかわからない」「将来の職業をイメージできない」高校生が増えていると感じ、大学として高校生の進路選択を応援しようと考えた。
 自己探究ワークショップでは、高校生が年齢の近い学生のライフヒストリーを聞きながら自分と重ね、「ありたい姿」、自分の強みや興味・関心を掘り下げて進路選択について考えてもらう。6月上旬のオープンキャンパスで初回を実施、約70人が参加した。8月上旬に2回目を行う予定だ。
 ワークショップには現代生活学部の生活デザイン、食物、児童の3学科から各5人、計15人の学生が協力。各学科の学生3人と高校生十数人のグループに分かれ、グループごとに学生がプレゼンテーションをする。幼少期から現在に至るまでの自分の歩みの中に、「どんな壁にぶつかり、それをどう乗り越えたか」「大学でどんなことを学び、将来にどうつなげようとしているか」を盛り込む。プレゼンテーションを通して各学科の学びの内容を紹介する仕掛けだ。

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●学生は、高校生の自己探究をファシリテートするための研修を受講

 学生によるプレゼンテーションの後、小グループに分かれて座談会形式でワークショップを進行。ファシリテーターの学生がゲームを交え、参加者一人ひとりに「自分の好きなところは?」「夢中になれることって何?」「落ち込んでしまうのはどんな時?」などと投げかけ、それぞれの強みや興味・関心、伸ばすべき部分について気づきを促す。参加者はそれをワークシートに記入していく。
 学生はこの日のために、キャリア教育の支援を手がけるNPO法人から計15時間の研修を受けて自己探究を深め、ファシリテーションについて学んだ。
 初回の自己探究ワークショップの参加者アンケートでは、「これまで自分のことをじっくり考える機会がなかったので、ためになった」「高校時代に自分と同じような経験をした大学生の話を聞いて、自分も行動してみようと思えた」といった声が寄せられた。
 新村室長は「この取り組みを通して、ライフスタイルと密接に関わる『家政学』という学問領域を扱う本学が、女子大として、一人ひとりの女性の生き方を応援する大学だというメッセージを届けたい」と話す。「特に女性は、人生の節目ごとに何かを選択しなければいけない場面が多い。それぞれの場面で自分の選択に自信を持ち、迷わず人生を切りひらく力をつける小さな一歩に、このワークショップがなればうれしい」。

●面談で受験生と自学の相性を見極められる年内入試にシフト

 自己探究ワークショップを学生募集の課題解決につなげたいというねらいもある。当面の課題は「自学の学びについて理解している第一志望の受験生を、総合型選抜でより多く受け入れること」だ。
 同大学では近年、一般選抜の志願者が減りつつある。現在は一般選抜と年内入試の募集人員の割合がおよそ3対7で、年内入試は総合型選抜と指定校推薦が3対7だという。 
 今後は従来型の選抜からマッチングに軸足を移し、面接で受験生と相対して自学との相性を見極められる、年内入試での受け入れに力を入れたい考えだ。特に、第一志望の受験生を集めやすい総合型選抜を重視する方針で、その定員枠を徐々に拡大している。

●「建築、デザインまで広がる家政学の学びを知ってほしい」

 自学を第一志望にする受験生を増やすうえで壁になるのが、家政学に対する正しい理解が浸透していないことだという。「家政学というと、高校教員もいまだに『家庭科教員の養成」というイメージが強く、そこに興味がある生徒にしか勧めてくれない。そのため、従来の志望者層から広がらない」と新村室長。  
 「本学には小学校教員の養成や建築、デザインなどの分野もあり、家政学の領域は広がっている。他大学も同様だが、そのことがあまり知られていない。家政系の人気が低迷する中で少ないパイを女子大が奪い合い、受験生は偏差値だけで大学を選ぼうとする。この状況が変わらなければ、学生募集は立ち行かなくなる」。
 保育士や栄養士をめざす受験生は専門学校との併願が多く、早期から囲い込む専門学校との競争も厳しい状況にあるという。「一般に女子は資格志向が強いと言われるが、大学と専門学校の比較を十分することなく、資格さえ取れればどこでも同じだと考える生徒もいるようだ。4年制大学なら、幼小接続に関わる両領域の学びや複数の資格を同時に取得するための実習など、より広い知識や経験が得られる。将来の可能性を狭めることがないよう、大学側が積極的に情報を提供して選択肢の多さに気づかせたい」と新村室長。

●志望者の裾野拡大のため、低学年へのアプローチを検討

 家政学に対する理解を深めてもらい志望者の裾野を広げるには、志望する分野や大学をすでに絞り込んでいる3年生ではなく1・2年生を主なターゲットにすべき。新村室長はそう考え、低学年の生徒に興味を持ってもらえそうなイベントを検討。「高校生の自分探しを応援したい」というかねてからの思いもあり、自己探究ワークショップを思いついた。
 「『ちょっと面白そう』と気軽に参加し、3学科の学生の話を通して家政学の幅の広さや本学の雰囲気に触れ、志望校候補に入れてもらえれば大成功。だから、本学のことをまだよく知らない生徒の参加も歓迎する。ワークショップへの参加だけで終わっても、その生徒の自己探究が少しでも深まってより良い進路選択につながれば、企画した意味はある」(新村室長)。

●ワークショップを起点とした育成型入試

 自己探究ワークショップから接続する総合型選抜として「探Q入試 自己探究型」を新設した。同大学では数年前から、総合型選抜の定員枠拡大と合わせ、体験授業を起点にする「学び体験型」、学科ごとの課題に取り組んでもらう「課題型」、高校での探究活動や部活動などの成果をプレゼンテーションしてもらう「活動報告型」などを展開してきた。しかし、コアの志望層には「課題が難しそう」など、ハードルが高いと敬遠され、期待通りの志願者数の確保には至っていなかった。
 そこで、2022年度から高校の新学習指導要領の下で探究学習が本格化するのを機に、これらの選抜を「探Q入試」として統合。それぞれの名称を「学び探究型」「課題探究型」「探究活動報告型」に変え、浸透を図ることにした。
 2023年度入試で新設した「探Q入試 自己探究型」は自己探究ワークショップへの参加を課し、自己分析レポートを提出してエントリーしてもらい、面談で学びに対する意欲を評価する。
 自己探究ワークショップで自分を見つめ直し、東京家政学院大学に興味を持つ。その次のステップとして同大学の学びについて調べ、学科を選んで「探Q入試 自己探究型」にエントリーする。そんな流れを想定している。新村室長は「ワークショップの成果を携え、入試の面談では自分の言葉で自分の強みを説明し、それを大学での学びにどうつなげたいかしっかり話せるようになると思う。つまり、ワークショップを起点とした育成型入試として位置付けている」と説明する。
 初回の自己探究ワークショップのアンケートから、参加者の満足度の高さ、手応えを感じている新村室長。今後はファシリテーターの学生が高校生のメンターになり、オンライン相談などで継続的にサポートしたり、エントリー者を対象にしたセミナーで一層の成長を促したりするなど、真に志望度が高い生徒を合格に導くような取り組みも加えていく考えだ。